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メッセージ性強し。『水曜の朝、午前三時 』by蓮見圭一

2018年06月18日 | 小説レビュー
〜45歳の若さで逝った翻訳家で詩人の四条直美が、娘のために遺した4巻のテープ。
そこに語られていたのは、大阪万博のホステスとして働いていた23歳の直美と、外交官として将来を嘱望される理想の恋人・臼井礼との燃えるような恋物語だった。
「もし、あのとき、あの人との人生を選んでいたら…」。
失われたものはあまりにも大きい。愛のせつなさと歓びが心にしみるラブストーリー。「BOOK」データベースより


前回の『別れの時まで』に続いて、たまたま図書館に置いてあった本作を借りてきました。

「恋愛小説」と、一括りにしてはいけない、とてもメッセージ性の強い作品です。といっても作者が伝えたいメッセージが色々あって、ある意味では「ボヤけた感じ」に写るとも言えます。

『別れの時まで』でも書きましたが、サイドストーリーや脇役の登場によって、物語に厚みや幅が生まれますが、それは本線や主人公の働きを薄めてしまう危険性をはらんでいます。

双方が引き立てあって、物語が一つの方向に収斂され、昇華していけば素晴らしい作品となるのですが、興ざめしてしまうこともしばしば・・・。

今回の『水曜の朝、午前三時』は、解説を読んでみてはじめて、「そういう意味があったのね」と気付くところもあるので、奥ゆかしい作品とも言えますし、直接的な表現やメッセージが強いので、評価の分かれるところだと思います。

さて、大阪万博(1970年)といえば、僕らが生まれる1年前の話で、父や母がバリバリの現役世代の物語で、その頃の時代背景などは、色々な本や漫画、報道等で見ているだけで、その時代を生きた人たちでなければ感じることの出来ない高揚感や社会意識などを知ることは出来ません。

なので、主人公たちの気持ちに共感することは難しいですし、ましてやその親の世代の感覚など、今で言う「時代錯誤も甚だしい」ということです。

直美と臼井さんが、激しくも切ない恋を温めていく過程では、「このままうまくいくはずはないんやけど、何がきっかけで壊れてしまうのか?」という一点に、読者の興味は注がれることでしょう。

そして、その真相が明らかになった時に、それこそ、「今の時代なら、そこまで大問題になったんかな?」とも思えました。

現在、情報化社会の確立によって、国境から人種、そして「LGBT」をはじめとする男女間の性差別問題等々、また、様々な病気や障害に対しても、理解が深まり、色々な垣根が取り外されています。

それも、「これは何?」という疑問が生じた時に、手軽にスマホで「調べる」ことによって「理解」が深まり、新たな「価値観」が生まれ、互いに認め合う社会が醸成されつつあるのかな?とも思います。

話は逸れましたが、作者が発信する色々なメッセージに共感することが出来ますし、涙を誘うシーンも数々出てきます。物語としてはそれなりに仕上がっていると思いますよ。

・人生は宝探し、宝物である以上、そう簡単に見つけられるものではない。
  しかし、金塊はそこに眠っているかもしれない。
 それを知りながら、どうして掘り起こさずにいられるだろう?

・何にもまして重要なのは内心の訴えなのです。
 あなたは何をしたいのか。何になりたいのか。
 どういう人間として、どういう人生を送りたいのか。
 それは一時的な気の迷いなのか。それともやむにやまれぬ本能の訴えなのか。
 耳を澄まして、じっと自分の声を聞くことです。
 歩き出すのはそれからも遅くないのだから。

などなど・・・、心に響くメッセージがあります。

物語としての完成度もさることながら、特筆すべきセリフ、引用、描写などが数多く出てくる秀作です。

★★★3つです。