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死生観について考えさせられる作品『死の島』by小池真里子

2018年11月26日 | 小説レビュー
~澤登志夫、69歳。文芸編集者としてエネルギーに満ちた時代を送った。
激しい恋愛の果てに妻子と別れ、痛恨の思いも皮肉に笑い飛ばして生きてきた―
彼を崇拝する26歳の宮島樹里の存在が、澤の過去と現在を映し出す。
プライド高く生きてきた男が余命を知って辿り着いた、荘厳な企み。
この尊厳死は罪か―現代をゆさぶる傑作長編。「BOOK」データベースより


「自分は何歳まで生きられるのか?」、「何歳まで生きたいか?」、「どのように死にたいか?」etc....。
人それぞれに死生観というものを持っていると思いますし、僕らのようなアラフィフ世代にも、着実に最期の時は近づいてきていると思います。

さて、物語では、末期ガンに身体を侵された69歳の元編集者が、自分の死に方について深く考え、また人生を振り返り、そして理想とする最期に向かっていくという話です。

かつて家庭を持ち、不倫の末に一人になり、枯れたような晩年を過ごしてきた澤登志夫は、小説家志望の若き女性・宮島樹里との出会いによって、これまで、なおざりにしてきた自分自身と向き合います。

この世に何の未練もないと思っていた澤でしたが、樹里の存在によって葛藤します。
澤の頭の中では、様々な逡巡が繰り返され、読んでるものが一緒になって考えているような気持ちにさせられます。

人生の最終到達点に向かって、澤自身が描くシナリオ通りに進んでいく訳ですが、果たして・・・。

という話です。

僕自身、『死の島』という題名と同じ絵画作品が存在していることも知りませんでしたので、作中に出てきた際に、すぐにスマホで調べました。



『死の島:アルノルト・ベックリン


1880年から1886年までの間に、同じコンセプトで、計五枚の『死の島』が世に出されました。僕は、その中でも、一番クッキリと描かれており、ヒトラーが買い取ったとされる三作目(ベルリンの旧国立美術館蔵)が一番好きですね。

この絵の印象が何とも不思議な感じで、一目見て、何となく不気味な雰囲気が漂っていますし、暗いイメージが残ります。しかし、よくよく眺めてみると、この絵のバランスというか、一種、神々しさを感じる、ほのかな温もりのようなオーラが滲み出てきます。

末期ガンの病床にあった、かつての恋人・貴美子が、常に枕元に置いていた絵画であり、その絵画を見た澤が感じた印象が同じだったということは、やはり二人は、ただの不倫関係ではなく、心の深いところで価値観を共有し、互いに認め合う関係であったことが窺い知れます。

僕が太鼓判を押しまくっている小池真里子さんの文章なので、とても読みやすく描写も美しいです・・・。
しかしながら、この絵画をはじめ、貴美子、樹里の父・祖父・母、澤の元妻・娘、小料理屋の女将、医師などが良いテイストを加えてくれているのに、若干深みに欠けている為に、全体としてまとまりが無くなったというか、もう少し意味を持たせて、役割を果たさせて欲しかったですね。

残念ながら締まりのない物語になってしまいましたし、結局、小池真里子さんが、何をどのように書きたかったのかが伝わりにくい作品でした。

★★☆2.5です。※それでも『死の島(絵画の方)』は素晴らしいです。