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小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

涙が溢れる長編『北斗 ~ある殺人者の回心』by石田衣良

2018年11月04日 | 小説レビュー
幼少時から両親に激しい暴力を受けて育った端爪北斗。
誰にも愛されず、誰も愛せない彼は、父が病死した高校一年生の時、母に暴力を振るってしまう。
児童福祉司の勧めで里親の近藤綾子と暮らし始め、北斗は初めて心身ともに安定した日々を過ごし、大学入学を果たすものの、綾子が末期癌であることが判明、綾子の里子の一人である明日実とともに懸命な看病を続ける。
治癒への望みを託し、癌の治療に効くという高額な飲料水を購入していたが、医学的根拠のない詐欺であったことがわかり、綾子は失意のうちに亡くなる。
飲料水の開発者への復讐を決意しそのオフィスへ向かった北斗は、開発者ではなく女性スタッフ二人を殺めてしまう。
逮捕され極刑を望む北斗に、明日実は生きてほしいと涙ながらに訴えるが、北斗の心は冷え切ったままだった。
事件から一年、ついに裁判が開廷する―。「BOOK」データベースより)


いやぁ~、不覚にも泣いてしまいました(T_T)

石田衣良氏の作品は、『池袋ウエストゲートパーク』以来です。
はっきり言って期待していませんでした(^_^;)))

しかし序盤の、両親からの凄まじい虐待の描写に、思わず引き込まれてしまいました。

家族にとって安住の場所であるはずの自宅が、虐待の凄惨な現場であるという救いようのない状況で、主人公の北斗は心に幾重もの鎧を重ねて自らを守ります。

肉体はズタズタに引き裂かれながらも、自分を客観的にとらえることで心を冷静に保つという、ある種の現実逃避を図る術を身に付けさせられたのでしょうか?
筆者は実際に児童虐待から逃れられた少年少女から話を聞き、寄り添うことによって、その心の奥底を知ることが出来たらしいです。

あまりに淡々と主人公について語られるので、かえって現実感があります。

奇跡的に虐待家庭から逃れることが出来た北斗は、綾子という里親と出会います。

己を捨てて、無償の愛をもって北斗の心の闇を照らし、温め続けた綾子に対して、北斗は戸惑いながら、迷いながらも、試行錯誤の末に心の鎧を脱ぎ捨て、その分厚い氷を溶かします。

しかし、その幸せな時間は長く続かず・・・。突然襲ってきた綾子の末期癌によって、不幸の連鎖が始まってしまいます。

綾子の死によって、北斗の心は再び闇に閉ざされます。

この時点で本の残りページは半分以上あるので、「復讐を遂げるまでのストーリーで残り半分やな」と思いきや、僅か50ページあまりで復讐は失敗に終わり、北斗は逮捕されてしまいます。

それから長い拘留生活を経て、いよいよ裁判が始まります。

そこから200ページを費やして、法廷闘争が行われますが、北斗の心の移り変わり、姉の明日実、高井弁護士の献身、被害者家族、裁判官の心理を見事に表現してくれていて、最後には涙が溢れました((。´Д⊂))

読みごたえのある長編であることは間違いなく、また、児童虐待、里親制度、死刑制度などについても、深く考えさせられる小説でした。

★★★★4つです。

無駄を削ぎ落とした快作『果断(隠蔽捜査2)』by今野敏

2018年11月02日 | 小説レビュー
長男の不祥事により所轄へ左遷された竜崎伸也警視長は、着任早々、立てこもり事件に直面する。容疑者は拳銃を所持。
事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立する。
異例ながら、彼は自ら指揮を執った。
そして、この事案は解決したはずだったが―。
警視庁第二方面大森署署長・竜崎の新たな闘いが始まる。
山本周五郎賞・日本推理作家協会賞に輝く、本格警察小説。


相変わらず、今野敏氏は素晴らしい!時間を忘れて熱中します!

スピード感と緊迫感、そして正確な筆致、読むものに隙を与えない無駄の無いプロット、どれをとっても一級品です。

主人公の竜崎のヒーロー然としない佇まい、思考、台詞。
だからこそ、緊張感があり、「竜崎ピンチっ!どうなるんや((((;゜Д゜))))」と、読む手が止まりません。

まだまだ続くシリーズがあるので楽しんで読んでいきたいと思います。

★★★☆3.5です。