まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

フェイスブックの “I love people’s faces”の広告が繋ぐ世界 (続・世界は素晴らしい広告で溢れている、の補足)

2020-04-14 22:51:25 | 広告
フェイスブックは、新型コロナウィルスに対応して、ブランドコマーシャルを4月からアメリカで放映開始しました。通りから人がいなくなってしまった光景が映し出され、若干聞き取りにくいアクセントのナレーションが聞こえてきます。やがて、画面はフェイスブックでアップされる人々の笑顔の写真に変わっていきます。そして最後に、”We’re never lost if we can find each other”(お互いを見つけられれば、自分を見失うことはない)というキャッチフレーズ。暗い時代の中でも、人と人との繋がりが、自分を救ってくれるということで、人を繋ぐツールとしてのフェイスブックの存在意義をアピールしています。こちらがそのコマーシャル。



このコマーシャルに関しては、解説しなければわからないことが色々あり、それを語らずにおくと、大事な何かに気づかずに通りすぎてしまうような気がしたので、メモを残しておくことにしました。

まず、このナレーションなのですが、ケイト・テンペスト(Kate Tempest)という、1985年、イギリス生まれの詩人が朗読しています。詩人であるだけでなく、パフォーマーでもあり、小説家でもあります。ミュージシャンとして、アルバムも出しており、Spotifyでも作品がいくつもアップされています。1985年生まれの彼女は、詩人としても、小説家としても、ミュージシャンとしても数々の賞に輝いています。



このフェイスブックのコマーシャルで使われている”People’s Faces”という詩は、新型コロナウィルスとは関係なく、2017年に発表された作品で、かなり長い詩を抜粋したものです。

彼女の英語は聞き取りにくいのですが、ここに原文と、私の翻訳をご紹介しておきます。

Was that a pivotal historical moment,
それは歴史的転換点だったのだろうか?
We just went stumbling past?
それとも躓きながら通り過ぎただけ?
Here we are
ほら私たちは今
Dancing in the rumbling dark
地響きのする暗闇の中で踊っている
So come a little closer
だからもう少し近くに来てください
Give me something to grasp
何か掴めるものをください
Give me your beautiful crumbling heart
あなたの美しい、崩れかけている心をください
We’re working every dread day that is given us
私たちは与えられた恐ろしい毎日を働き続けている
Feeling like the person people meet
人々が出会う人物が
Really isn’t us
まるで、私たちではない、みたいに感じながら
Like we’re going to buckle underneath the trouble
まるで、困難に屈服しつつあるかのように
Like any minute now
今この瞬間にも
The struggle’s going to finish us
苦闘が私たちをヘトヘトにさせる
And then we smile at all our friends
そして、私たちは、私たちの友達全員に微笑みかける
Even when I’m weak and I’m breaking
自分が弱く、くじけてしまった時でさえも
I stand weeping at the train station
鉄道駅で私は涙を流す
‘Cause I can see your faces
それはあなたたちの顔が見えたから
There is so much peace to be found in people’s faces
人々の顔にはそれほどまでの平和が見えている
I love people’s faces
私は人々の顔を愛する

先の見えない困難な時代と、人々とつながることで得られる安らぎのようなものを表現していて、まるで今の新型コロナの時代のために書かれたかのような気がしてしまいます。そしてフェイスブックの宣伝コピーのようにさえ見えてしまいます。

ケイト・テンペストの作品は、YouTubeを検索するといくつも出てきますが、イギリス南東部のサマセット州のグラストンベリー(Glastonbury)で2017年に行われたコンサートの”People’s Faces”の動画がこちらにあります。



フェイスブックのコマーシャルの雰囲気とはまた違って、迫力満点です。言葉を身体から絞り出すように叫ぶ姿が実にかっこいい。

このコンサートにも最後にちょっとだけ映っていますが、実は、シンセサイザーを演奏しているのは日本人の女性です。Hinako Omoriというミュージシャンですが、横浜生まれで、3才からロンドンに移って、音楽とサウンドレコーディングを大学で勉強し、ミュージシャンとなりました。こちらの動画は、ケイト・テンペストと二人だけでパフォーマンスしています。



この動画がフェイスブックので使われた演奏パターンに近いですが、ミニマルなシンセサイザーの演奏がケイト・テンペストの言葉を引き立てています。Hinako Omoriは、最近は、個人でもミュージシャンとして作品を発表しています。こちらがその一つ。



ケイト・テンペストといい、Hinako Omoriといい、日本ではあまり知られていない才能があることに驚きます。

ケイト・テンペストのパフォーマンスを見ていて、私が思い出したのは、90年代のドリアン助川と叫ぶ詩人の会というグループでした。たまたま深夜のテレビで、迷彩服を着たパンクグループが、激しい演奏をバックに宮沢賢治の「雨にも負けず」を朗読するというパフォーマンスでした。叫ぶ詩人の会はアルバムを何枚か出していましたが、全部持っています。またドリアン助川さんは、その後、映画にもなった「あん」も書かれています。



私がまだ20代の頃、東京の広告代理店にいたアメリカ人コピーライターの影響で、詩人の朗読会に参加したのを思い出しました。白石かずこさん、吉原幸子さん、伊藤弘美さんなどの朗読会に出かけて行きました。詩を文字ではなく、肉声で聞くということに魅力を感じておりました。

話が色々飛んで恐縮ですが、本題のフェイスブックのコマーシャルの話に戻ります。すでに存在していたケイト・テンペストの詩をそのまま持ってきて、フェイスブックのコマーシャルに使ったという着眼点がすごいなと思っていたのですが、これはDroga5というニューヨークのクリエイティブエージェンシーが制作したものです。

このエージェンシーは、David Drogaというクリエイティブのスーパースターが2006年に作った会社です。ちなみに5というのは、David Drogaが5番目の子供で、子供の時から5の数字を着る物に付けられていたので、それを社名にしたのだとか。こちらが彼の写真。10数年前のものだと思いますが。



1968年にオーストラリアで生まれ育ったDavid Drogaは1996年にシンガポールのサーチ&サーチ (Saatchi & Saatchi) でExecutive Creative Directorとして働き始め、1998年にアドエイジのインターナショナル・エージェンシー・オブ・ザ・イヤーを取ってしまうんですね。彼らのオフィスは、クラークキーのショップハウスに入っていておりました。その頃、私はシンガポールの日系の広告代理店で、David Drogaと同じタイトルで働いておりましたが、仕事上の接点は全くありませんでした。1999年に彼はロンドンオフィスに移り、2003年には親会社のPublicisのニューヨークでチーフ・クリエイティブ・オフィサーとなります。それから間も無くして、独立することになるのですが、独立してすぐに、シンガポールで開催された広告フェスティバルで、私は実物の彼の講演を聞く機会がありました。話の内容は忘れましたが、すごい人を直に見ることができて感激した覚えがあります。当時、世界で最も広告賞を獲得した男として有名だったのですが、それから10数年、このフェイスブックの広告を彼の会社が作っていたというのを知り、感慨ひとしおでした。いろんなところで、いろんなものが繋がっています。一つのコマーシャルがいろんな情報に繋がり、いそんな記憶を蘇らせます。

とりとめのない話でしたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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続・世界は素晴らしい広告で溢れている (新型コロナウィルスの時代にこそ必要とされる広告)

2020-04-12 16:38:55 | 広告

前回に引き続き、新型コロナウィルスに関連した世界のコマーシャル映像をご紹介していきたいと思います。紹介しきれないほど沢山の作品があるのですが、今回も7点をセレクトしてみました。

1)DOVEのコマーシャル「勇気は美しい」



医療従事者の顔写真が映し出されます。医療用マスクやゴーグルの跡が顔にくっきりと残っています。従来の基準で言えば、美しいとは言えない写真です。そして、登場するコピーが、”Courage is beautiful” (勇気は美しい)。それに続いて、「感謝の印として、ダヴは最前線の米国医療従事者の皆さんためにDirect Relief (米国の非営利医療サポート団体)に寄付をしています」の文字。スキンケア、パーソナルケアのブランドであるダヴならではの貢献です。実に美しいブランド訴求です。

2)CNNのコマーシャル「Thank You」



世界各地の新型コロナに関連した写真が映し出されます。スチル写真の一枚一枚が実にパワフル。その背後にあるそれぞれの物語を感じさせます。そして、これまた感動的なコピーが。「日々、嵐の中に身を投じている世界中の全ての皆さんに、私たちは感謝を捧げます、賞賛を捧げます」。ストレートなメッセージですが、報道のCNNという姿勢も明確に出ているし、素晴らしい映像です。

3)バドワイザー「ワン・チーム」



昨年、日本でも流行語になった “One Team”ですが、バドワイザーの広告のテーマとして使われています。無人のスタジアムの情景から始まり、新型コロナに対応する医療関係者から、人々の生活を支える様々な人の写真が映し出されます。写真に合わせて、”This Bud’s for the Blues”というナレーション。”This Bud’s for 〜” というのはバドワイザーの以前からの決まり文句なのですが、”Bud”はバドワイザーのことで、このバドワイザーを誰々にということで、「〜にバドワイザーで乾杯」という雰囲気になります。Blues, Redsとくるので、写真の中の色を示しているだけかと思いきや、Worriors, Magicなどと続きます。実は、これらアメリカのプロスポーツチームの名前なんですね。Blues = St. Louis Blues (バスケット)、Reds = Newark Reds (フットボール)、Worriors = Golden State Worriors (バスケット)、Magic = Orlando Magic (バスケット)、Athletics = Oakland Athletics (野球)、Giants = San Francisco Giants (野球)、Jazz = Utah Jazz (バスケット)、Trail Blazers = Portland Trail Blazers (バスケット)、Braves = Atlanta Braves (野球)、Yankees = NY Yankees (野球)、Angels = Los Angelese Angels (野球)、そしてホームチーム。最後のホームチームというのは、外出自粛をして家に留まっている人たち全員を指していますが、見事なコピーです。そして最後に、「今シーズン、私たちは全員ワンチーム。当社はスポーツへの予算を、最前線のヒーローたちへの援助に移しました。新型コロナ禍の期間、スタジアムを使って、アメリカ赤十字の献血運動をスポンサーしています」スポーツでなくとも、拍手喝采です。見事な社会貢献、そしてそれを粋に伝えるコマーシャル。見事です。

4)Oxygen for Africa (アフリカに酸素を)



ALIMAというNGOのコマーシャルです。アフリカに新型コロナが到来しましたが、アフリカでは致死率が3倍になります。なぜなら、医療設備もなく医療スタッフが不足しているからです。と医者が語ります。「ウィルスは全ての人を攻撃できる。でも全ての人はウィルスを攻撃できる」というメッセージで、呼吸器装置の必要性を訴えています。

5)エミレーツ航空の「覚えていますか?」



新型コロナが去った後の想定で、「子供たちがオンライン学習というのを始めた時のことを覚えていますか?ソーシャルディスタンシングという言葉を初めて聞いたときのことを覚えていますか?」と語りかけます。そして「遠からず、こんな風に話す時が訪れるでしょう。その時が来たら、エミレーツは空に戻ってきます。そしてこれまで以上に素晴らしい空の旅をお届けするでしょう」という文字タイトル。素晴らしいです。

6)シンガポールのCNA(ニュースチャンネル)の「シンガポールのスイッチ・オフ」



こちらは、シンガポールのCNA (Channel NewsAsia) というニュースチャンネルのコンテンツですが、ステイホームが徹底して、ほとんど人のいなくなったシンガポールの風景を映し出しているだけの映像です。シンガポールに住んでいる我々にとってはこういう映像見るだけで感動してしまいます。

7)フェイスブックの”I love people’s faces”



これも感動的な作品ですが、ナレーションは、Kate Tempestというイギリス生まれの詩人の肉声です。この詩の解説をしようと思ったのですが、長くなるので、これはまた別の機会に回します。以前から存在していた詩なんですが、フェイスブックのコマーシャルに使われました。世界的に外出自粛で、みんな家で途方にくれているかもしれないが、フェイスブックで繋がることで救いがもたらされるというようなメッセージです。新型コロナの時だからこそ重要性を増すフェイスブックの存在をあらためて感じます。

家に閉じこもっていて、自分のことしか考えられず、政府や社会に対する不満だけを感じて、不健康な状態になっている人が多いかと思いますが、今回ご紹介したようなコマーシャルを見ていると、反省させられたり、こんなことしてちゃいけないと思ったり、自分の役割を認識させられたり、元気をもらえる気がします。こんな時代なのですが、こんな時代だからこそ、みんなで頑張らないといけない。この投稿がそのことに少しでも役立ったら嬉しいです。最後まで見ていただきありがとうございました。
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世界は素晴らしい広告で溢れている (新型コロナウィルスの時代にこそ必要とされる広告)

2020-04-10 16:17:13 | 広告
新型コロナウィルスにより、2020年はそれ以前の世界とは全てが変わってしまいました。「歴史の転換点」とは、このような時にこそ使われる言葉なのでしょう。人類は環境に適応して変化していかなければいけないのですが、従来の意識や生活様式を捨てきれず、結果として、感染者数のグラフの上昇を助けています。

このような時代には広告予算が真っ先に削られていくというのが一般常識なのですが、実は、世界では、このような時代だからこそ必要な広告が数多く作られているのです。広告は時代を反映して(時には時代を先取りして)、視聴者や社会のニーズに応えて、変わっていかなければならないと思うのですが、日本のテレビで流されている広告のほとんどは、新型コロナ以前の時代のものをそのまま流しています。ワイドショーやニュースでいくら危機感を煽っても、広告が旧態然のままだと、危機感を感じる必要性を感じなくなってしまうのではないかと思うのです。

三密を避けろと言っているのに、日本のテレビコマーシャルで描かれる世界は、みんなで美味しそうにビールを飲む世界だったり、自由に出歩ける世界だったり、オフィスでフェイストゥーフェイスで仕事ができていた世界だったりします。こういう世界はもやは過去の時代のもので、違和感を覚えます。また、仕事や生活に犠牲を強いられている環境の中で、製品を買ってほしいと一方的にアピールする姿勢は、反感を買うだけで、結果的にはブランド価値を損なっていくのではないでしょうか。このような時代にこそ、企業姿勢が問われ、ブランド広告が重要になってきます。そのような視点を持つブランドが、この逆境の時代にブランド力をさらに強化していくのだと思います。

このようなことを発言しても、広告主も広告代理店もあまり聞く耳を持たない気がするので、実は世界では、こんなコマーシャルが作られているというのを紹介し、意識を変えていくことに役立てればと思います。

最近、仕事は在宅でしているので、割と時間の余裕があり、世界の新型コロナの時代を反映した広告を色々と見ています。日本ではあまり見かけないのですが、多くの国で、実に多くの広告が次々と作られています。現在も新しい作品が次々と作られていますが、今日までの時点で、私が見た中で印象に残ったものを7点選び、ここでご紹介しようと思います。

1)ナイキの”Play for the World” (世界のためにプレイしよう)

ナイキのコマーシャルはいつの時代でも素晴らしいのが多いのですが、家の中で運動せざるを得ない人々に対してのメッセージが感動的です。モノクロのスチル写真のスライドショーと文字だけのシンプルな作品ですが、コピーがいい。そしてそれを盛り上げる音楽もよい。居間や、台所や、玄関や、地下室なんかでプレイをしていて、共に、国のためにプレイしたり、大観衆を前にプレイしたりができないけれど、私たちは今日、78億人の人のためにプレイしている、というコピー素晴らしいです。

2)YouTubeのStay Home #WithMe

世界的な”Stay Home”の時代にあって、YouTubeを利用すれば、家で孤立せずに、みんなと繋がることができるというメッセージ。YouTubeのロゴの上に屋根が付いていて”Stay Home”をアピールしているのがいいですよね。

3)イギリスのWomen’s Aid Federationの「ロックダウン」
https://vimeo.com/404965100
ロンドンのロックダウンで人がいなくなった景色が映し出されます。とそこに「家庭内暴力を振るう人たちも街から消えました」という文字。その後に、「彼らは家族と一緒に家に軟禁されています」というショッキングな事実が告げられます。「何千という女性や子供たちにとって、家は安全な場所なんかじゃないです」というメッセージ。女性を家庭内暴力から守る団体への寄付を募る広告ですが、こういう問題も大きいですね。

4)ニューヨーク市の”NY Tough”(ニューヨークは強い)

アメリカの中でも最も患者数の多いニューヨークで市民に訴える映像です。このナレーションはクオモ州知事の演説です。ニューヨークはもともと強者たちの街で、この難局もやっつけられるタフさを持っている。ニューヨークへの愛を語った後で、最後のセリフ、And at the end of the day, my friends, even if it is a long day, and this is a long day, love wins. Always. And it will win again through this virus. (最終的には、それは長い一日となろうとも、実際に長い一日だが、愛は勝つ。いつものように。再び愛はウィルスとの戦いに勝利するだろう)というのは、なんか映画「インディペンデンス・デイ」の大統領の演説みたいに聞こえるのは私だけでしょうか? (最初にアップしていた動画はリンクがうまくいかなかったので、別のものに変えました。こちらの動画もなかなか良いです)


5)NY City “Do Your Part”(自分自身の役割を)

こちらもニューヨーク市の広告ですが、第二次世界対戦のノルマンディー上陸の映像から始まります。「色々な世代でそれぞれ大きな犠牲を払ってきました。今、我々は家に留まるという犠牲を払っています」というナレーションの最後に、我々の役割は、「手洗い、殺菌、家にいること」と、単純なそのことが大切な使命であると訴えています。ここでもクオモ州知事が登場していますね。

6)Barillaの#Resilientitaly (イタリアは負けない)

パスタで有名なイタリアのバリラ社(Barilla)のコマーシャルです。この国難に様々な分野で貢献している人々への感謝をうたっていて、全てのナレーションは、一番最後の“Grazie”(ありがとう)に繋がります。イタリア語のナレーションなのですが、意味はこんな感じになります。「街を閉ざしてできた静寂に、バルコニーから叫びをあげる生活に、じっとしながらも動き続けている人々に、見返りを求めずに全てを与えている人々に、疲労困憊しても希望の強さを与えてくれる人々に、我々の何たるかを常に思い出させてくれる美しさに、勇気を目覚めさせてくれる恐怖に、全ての苦闘に意味をもたらしてくれる微笑みに、疲れていても決してくじけない人々に、遠くにいても我々に近づくことのできる人々に、絶望感を持ちながらも国との一体感を失わない人々に、そして再び立ち上がるイタリアに…」実に感動的な作品です。バリラ社は、地元の病院にも多額を寄付しています。

7)チリの航空会社Latam航空の#FurtherTogether

航空業界は新型コロナで最も打撃を受けている業界の一つです。おそらく経営的には大変な状況だと思うのですが、このチリのLatamという航空会社は、予算を投下してコマーシャルフィルムを作りました。ブランド広告です。ナレーションは飛行機の機内アナウンスの体裁をとっています。「乗客の皆さま、停止する時間が参りました」という出だしで、旅ができなくなった時代になったことを伝えます。「皆さまがご覧になれる地平線は、飛行機の窓からではなく、バルコニーや裏庭からになります。未来のために、エンジンをしばし止めることが、我々全員の使命だからです」というナレーション。そしてその後で「でも誰かが飛ばないといけないのです」と語り、このような困難な状況でも飛行機での輸送が必要な例を列挙していきます。この航空会社は、何があっても飛び続けるという決意を語るのですが、こういう会社は、応援したくなります。今は旅行はできないのですが、感染が終息したら、この航空会社の飛行機で旅行に出たいという気になるのではないでしょうか。目先の金儲けではなく、将来に備えてこの時期にブランド強化に集中しているという感じです。

以上、7つの作品をご紹介したのですが、いかがでしたでしょうか?この時期を利用して、着実にブランド強化をしているブランドもあれば、公共広告で国民(市民)の理解協力を訴えるものもあります。世界のコマーシャルを見ているだけで、実に様々な課題への気づきを与えられますし、反省させられますし、くじけていてはいけないと元気が出ます。人間の心を動かしていくのは、政治家の言葉ではなく、こういったコンテンツなのではないかとさえ思えてきます。

今回紹介しきれませんでしたが、まだまだいくつもいい作品があります。航空会社や、観光局、ビールや酒など、あえてこの時期に広告を打ってきています。それらはまた次回にご紹介することにしましょう。
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シンガポールの12歳の少年が作詞作曲した医療従事者への「エール」が素晴らしい!

2020-04-07 15:42:02 | シンガポール
新型コロナウィルスが世界中で猛威を振るっていて、終息の兆しがなかなか見えません。私は現在、シンガポールにいますが、4月7日から規制がさらに強化され、政府は”Circuit Breaker”(サーキット・ブレーカー)と呼んでいますが、必要不可欠な業種以外は、在宅勤務のみとなり、学校は在宅指導、飲食店は持ち帰りまたは配達のみの営業となりました。バーや映画館、劇場、ナイトクラブ、カラオケなどは3月26日から閉鎖されており、学習塾や、宗教行事も中止となっています。

スーパー、コンビニ、マーケット、食料品店、薬局、理容・美容院、ランドリー、および公共サービスなどは引き続き営業しています。政府は再三、生活必需品は常に十分な量が供給されるので買いだめをしないようにアナウンスしていますが、トイレットペーパーや、ハンド・サニタイザーは、どこでも十分な量があり、マスクもしばしば見かけることがあります。用事がない限りは、なるべく家に留まるよう推奨されていますが、近所をジョギングすることは禁止されているわけではありません。

新型コロナウィルス蔓延の状況を、「戦い」と認識している国が多いですが、徴兵制度もあり、いざという時は国のため、家族を守るために戦うという意識の高いシンガポールは、今回の新型コロナウィルスに対しても、みんなで力を合わせて戦おうという認識が強い気がします。

映画の“Independence Day” (インディペンデンス・デイ)の中で、宇宙から侵略してくる敵に対して、全員が命がけで戦います。それを可能にするのが、映画の中の大統領の演説です。シェイクスピアの『ヘンリー5世』を下敷きにしていると言われているストーリーですが、圧倒的な敵軍を前にして、リーダーの見事な演説で、集団が百人力のパワーを発揮し、奇跡的に勝利するという話です。両者とも、その演説の目的は、戦いの意義をいかにわかりやすく、印象に残る言葉で伝えるかということ。つまりモチベーションを最大化するということです。

新型コロナの状況においては、それはリーダーの説明の仕方だったりするのですが、人々の気持ちを一つに束ねる効果のあるものとして、日常の中から自然に生じてきた音楽や、映像コンテンツが、その役割を担うことがあります。例えば、昨年の香港民主化デモの際、各所で歌われた『願榮光歸香港』(香港に栄光あれ)の歌。私は、香港に4年ほど住んでいて、雨傘運動で戦う学生たちの姿も見ているので、その歌を聴くと、涙が出てきます。

さて、やっと本題に入りますが、今回の新型コロナウィルスの状況の中で、私が注目している一つの曲があります。Jacob Neo (ジェイコブ・ネオ)という12歳の小学生が作詞・作曲した “Unite as One”(ユナイト・アズ・ワン)という曲。日本語に訳すと、「ともに力を合わせよう」という感じですが、昨年の流行語にもなった「ワンチーム」に近いニュアンスですね。

Fairfield Methodist (フェアフィールド・メソジスト)という小学校の6年生のジェイコブ君は、昨年参加したプログラムで曲の作り方を学んだばかり。最近始まったNHKの朝ドラ『エール』の主人公の裕一君のような展開ですね。新型コロナウィルスで頑張る医療関係者に対して、まさにエールとなる曲を作りたいと思ったのです。

完成したこの曲は、2020年2月27日に、シンガポールのナショナル・ユニバーシティー・ホスピタル (NUH)の医療関係者に贈呈されました。また、その際に、クラスメート全員が、感謝のメッセージをカードに書いて、それも合わせて贈られたとのこと。病院のスタッフが感動したのはもちろんです。

この曲が、学校の先生たちの協力のもとミュージック・ビデオとなり、ユーチューブでも話題になりました。こちらがそれです。



この歌詞についてもっと知りたいと思う方のために、翻訳をつけておきます。
適当に訳したものなので、あくまでも理解の参考としてみてください。

You’re shut away, you’re isolated
あなた方は、閉じ込められ、隔離され、
Cut off from civilization
文明と切り離され、
All alone with your hopes and dreams
一人だけで、夢と希望だけを糧に
Shuttered, no longer free
遮断され、もはや自由はない
But I want you to know that
でも、皆さんに知っておいて欲しい
You’re not alone
皆さんは決して独りぼっちじゃない
And I want you to feel that
そして、皆さんに感じて欲しい
You are at home
皆さんは家にいるのだと

And the night looms, the sun goes down
そして夜が忍び寄り、陽は落ちる
Day bleeds and light’s just a memory, memory
陽は赤く滲み 光はただ記憶となる、記憶となる
The ‘crowns’ are invading us what can we do
コロナが我々を侵略してくる 僕らに何ができるだろう
This is agony, Yeah!
それは苦しみでしかない
But we’ll be together through thick and the thin
でも、どんな時も僕らは一緒だ
As one country we fight this virus and win
一つの国として、僕らはこのウィルスと戦い勝利するんだ
We’ll fight with our hearts and our minds and our souls
心で、精神で、魂で戦うんだ
Protecting this island where we call our home
僕らが「ホーム」と呼ぶこの島を守るんだ

Fearful yet advancing
怖いけれど、一歩前に踏み出した
Fulfilling your duty and call
そして自分の責任と使命を果たそうとしている
Knowing that there is a purpose
そこには大きな目的があると知っていて
Press on. Stand firm for all.
自ら進んで、みんなのために決意を固めている

Singapore. We’ll stay together
シンガポール、僕らは共に存在している
Singapore. The time has come
シンガポール、時は来た
Singapore. We’ll fight forever
シンガポール、永遠に戦う
Singapore. Unite as one
シンガポール、一つになろう

素晴らしい歌詞ですね。コロナとの戦いにおいて最前線で戦っているのが、医療従事者。感染するリスクに日夜直面していながら、治療や検査を行う彼らの苦労は大変なものがあります。その努力に、感謝の気持ちを捧げることにより、医療関係者も疲労で忘れかけてしまいそうになる自分の使命を再認識できる、そしてそのことで、非常時であっても、非常時だからこそ、社会の絆が強化されていくという、シンガポールは、そんなエコシステムができている稀有な国なのだと思ったりするのです。

’crowns’ are invading usという一節がありますが、ラテン語の「コロナ」というのは元々は、王冠という意味です。太陽のコロナは、王冠のように見えるのでそう呼ばれているのですが。コロナウィルスは、顕微鏡で見ると太陽のコロナのように見えるので、コロナウィルスと呼ばれるようになったのだそうです。太陽のコロナと王冠とコロナウィルスの関連性を気づかせてくれたジェイコブ君、すごいですね。

シンガポールには、この曲以外にも、メディアコープが作った曲とか、ディック・リーが作った曲とか、ラップの曲とか、コメディアンのガーミット・シンの曲とか色々とあるのですが、このジェイコブ君の曲が今のところベストですね。

とかくギスギスしてしまいがちな非常時には、このようなコンテンツが必要だと思います。
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