水曜日にマンチェスター・アート・ギャラリー Manchester Art Gallery (マンチェスター美術館)に行きました。
美術館一階にあるカフェです。
美術館のカフェらしく、本格的な額に入った古風な油絵の静物画や風景画が白い壁にかかっていてます。
実は今回、こういう20世紀の戦前/戦後ころの食卓や台所モチーフをテーマにした静物画が見たくなって美術館に行きました。美術史上は大して価値があるようにも思えない...でも、見る人の心が安らぐような絵画がまとまって見られる展示室が、(10年ほど前には)たしかにありました。
カフェの壁にかかっているのは購入当時は(?)それなりに注目されていたであろう作家のちゃんとした収蔵作品のはずです。
マンチェスター・アート・ギャラリーの外観です。
実は、私もいっしょに行った夫も美術館の展示にはがっかりしました。
かつては、「18世紀以前のヨーロッパ美術」、「18世紀の肖像画」、そしてマンチェスター・アート・ギャラリーの最大の呼び物、「ラファエロ前派とその追随者の作品」等、わかりやすく分類されて展示室分けされた常設展が楽しめたのです。
「この部屋に行けばいつもあるお気に入りの作品」を見に、何度も足を運ぶ地元の美術ファンは多かったはずですし、遠くから来る美術ファンにも、「マンチェスターに行ったらこれを見て帰らなきゃ!」という目当ての名作がいくつかあったはずです。(入場無料です)
でも現在は...
違います。
なんというか...独創的なテーマごとに、時代や流派がシャッフルして(フュージョンといった方がアート業界っぽいですね)わけのわからない展示になっています。
この、「意欲的な」展示方法が私はどうも好きになれません。
例えば、上の写真の展示室では、私が知らない現代作家が描いたどう並べ替えても横につながる画期的な構図の3連パネルの湿地帯の風景画(すごーい!)と、イタリアル・ネッサンス後期の風景画家、カナレットの横に広がるベニスの風景画をワケありげに展示していました。(じっさいワケなどありません!)
銅で頭を飾ったアフリカの女性の肖像写真アートと...
銅のナベのある緻密な17世紀オランダの静物画と、銅製の工芸品や古い考古学的資料のような物品をいっしょに展示する意味は...まあ分かるような気がしますが...こじつけすぎてまったく共感できません。
もっとも有名な所蔵品のひとつ、フォード・マドックス・ブラウン Ford Madox Brown の「労働 Work」のある展示室は...
労働に関する問題提起や、労働賛歌テーマの展示室になっていました!
内務大臣の低賃金低スキル労働者に対する差別的発言に抗議するポスターが貼られていたり...
デンマークの看護婦さんの陶器の置物(工芸品)が飾ってあったり。
夫が鑑賞しているのは、女性像の表現がテーマの展示室に展示されていたジョン・ウィリアム・ウォーターハウス John William Waterhouse の「ヒュラスとニンフたち Hylaas and the Nymps 」です。
未成年の少女たちを性的な対象のニンフとして裸体で描いたこの作品を、2018年に美術館の女性学芸員がフェミニストの立場から非難して独自の判断で展示から外したことがありました。その判断は美術界の大ヒンシュクを買って、けっきょく展示復帰、今に至っています。
撤去に反対する手書きの入館者アンケート用紙のような紙切れがいくつか手前のガラスケースに入って展示されていましたが、この顛末の一部始終はどこにも記載されていませんでした。
作者のウォーターハウスはラファエロ前派の追随者です。
マンチェスター・アート・ギャラリーはラファエロ前派が好きな人には、ロンドンのテート・ギャラリーに次ぐ、充実した収蔵品で知られる「聖地」なのです。
ラファエロ前派作品を目当てに来た人はがっかりすることこの上なし!
他の古典画風絵画を見に来た人も同様でしょう。有名な所蔵品がとてもたくさん展示から外されていました。
昔からある常設の傑作をどこかに引っ込めて、革新的で意欲的な展示内容にするためか視点を交差させるためだかなんだか、とにかくよくわからない目的のために好悪のわかれる現代アートを点在させて「自分の好みの美術作品を堪能」するだいご味があじわえなくなっています!!
私は現代アートも好きです。
現代アートはどこか別の展示室で、それはそれでじっくり鑑賞できるようすればいいと思います!
従来のアートを違う視点で楽しんでもらおうという意図なのでしょうが、従来のアートの従来通りの楽しみ方を知っているアートファンには余計なお世話です!
たしかに、この方式で堪能している来館者も多数いるのでしょう。そうでなければ税金で運営されている市民美術館が同じ方針で何年も意欲的な企画を続けるわけにはいきませんものね。
アートスクール(大学の芸術学科)に留学していたころから何十回も訪れたはずのマンチェスター・アート・ギャラリーで、今まで見たことがなかった、かわった作品を見つけました!
綿糸の国際相場を決めるマンチェスター・ロイヤル・エクスチェンジに集った綿糸商人たちの肖像画を一枚の巨大なキャンバスにおさめた不思議な絵画!
(上の写真はごく一部)よーくよく見たらひとりぐらい知ってる人に似た顔が見つかりそうです。
次回行った時にはもう取り下ろされていそうですが。
何のテーマの展示の場所にあったか、実はよく覚えていないのですがテーマごとに集めたり、とりおろしてしまいこんだりする昨今の意欲的展示方法のおかげで、今までぜんぜん見たことのない19世紀の奇作品に巡り合うことができました!
最大の墳飯ものは...
これもまた有名な作品、ジョージ・スタッブス George Stubbs の「チーターと牡鹿と2人のインド人 Cheetah and Stag with Two Indians」を覆った巨大なガラス面にバッカみたいなモダンなシャンデリーアがどこから見てもうつってしまうこと!!
この「チータ...」をじっくり鑑賞するために設置されているベンチのどこに座っても(夫と私は右に左に移動して、背筋をのばしたり、浅く腰をおろしたりいろいろ視点を変えてみました)、宇宙からの侵略者のようなシャンデリーアがうつってしまいます。上の写真を撮った場所まで離れてみればやっとシャンデリーアの写り込みが撤去できます。
この作品も以前はスタッブスの他の作品や18世紀の上・中流階級の優雅な生活描写の絵画といっしょに「どっかり」とした威厳をもって展示されていたものですが。
左となりのビデオ映像作品のくりかえし音声がうるさくて耳障りでした。
同時代の似通った流派の美術、工芸作品をまとめて展示する従来の展示方法では来館者を飽きさせるという恐れがあるのか、あるいはただ単に「既成の」とか「古典的な」やり方に反抗して見せたい企画者の意図なのか...、とにかくこういう新しい方法が全国的に主流になってきているようです。
3年前に行った時も、斬新な展示方法が鼻につきました。その時の記事です☟ぜひ読んでください。
マンチェスターの美術館、マンネリ回避の意図は買う!でも、意義はあるのか、個性的な展示方法
今回はそれよりさらに...ぶっ飛んでいました。その時は確実にあった古典絵画のいくつかがさらに展示室からは消えていました。
バンクシーのステンシル作品や、布団カバーの「 HOMESiCK 」が古典絵画の展示室からどけられていてまあ、よかった...のでしたが。
この日私が見たかった、20世紀絵画の展示室は消滅していました!
カフェでいくつか壁の飾りとして掛けられていた数点が私がそもそも見たかった落ち着いた「品のよい静物画」です。
ひさしぶりにアクリル絵の具で静物画を描いていてみようかという気になったものですから、インスピレーションが欲しかったのです。
カフェで注文した、巨大な一切れ4ポンド99ペンス (814円)もしたホームメードのマーブルケーキです。
大きさ比較のために夫の大きな手をいっしょに写しました。たのんでもいないのに、フォークを2本そえて持ってきてくれました。一人では食べきれないことがわかっていたのでしょう。
2人で食べて、バタークリームは残してもお夕食が食べられなくなるほどの量でした。ものすごく美味しかったのですが。
見させて 頂き ありがとう 御座います
僕も 美術館に 行った気に なりました
何時もながら 感謝して おります