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日ロ共同経済活動で合意  社説を見てみましょう

2016-12-17 05:37:09 | 社説を読む
日ロ共同経済活動で合意したことは、これまでの経緯を考えると大きな前進です。

もちろん、まだまだ領土問題の解決には遠いのですが、その方向に一歩踏み出したのは間違いありません。
これを、各社はどう見たのか?

朝日新聞
「すれ違いぶりが際だつ、両首脳の共同会見だった。

 安倍首相が焦点を当てたのは北方領土問題を含む平和条約締結。一方、ロシアのプーチン大統領の関心は日本の経済協力。

 その溝は深い。

 プーチン氏が共同会見で領土問題にからんで強調したのは、1956年の日ソ共同宣言だ。平和条約を結んだ後、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の2島を日本側に引き渡すとされ、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)への直接の言及はない。

 さらに歯舞、色丹を引き渡すにしても、ロシアの主権を維持する可能性にも触れた。4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶという日本の立場とは大きく食い違う。

 プーチン氏は日米安保条約にも言及。引き渡し後の島に米軍基地が置かれることへの警戒感をあらわにした。日本としては受け入れられない主張だ。」

「首相はそう意気込むが、今回あらわになったのはむしろ、交渉の先行きが見えない現実だ。近い将来、大きな進展が見込めるかのような過剰な期待をふりまいてはならない。

 日ロ間に横たわる戦後処理の決着をめざす首相の姿勢は、理解できる。首脳同士が信頼を育むことは、地域に安定をもたらすうえでも意味がある。

 同時に、日本が忘れてならないことがある。「法の支配」をはじめとする普遍的な原則をゆるがせにしてはならない。

 2014年のロシアによるクリミア併合を受け、日本も欧米とともにロシアに経済制裁を科すなかで、日本は今回、ロシアへの80件もの経済協力で合意した。二国間の信頼醸成には役立つだろうが、制裁を続けるG7の足並みを乱し、「法の支配」の原則を二の次にしたロシアへの急接近と映らないか。

 米国の次期大統領にトランプ氏が当選し、国際社会は米ロ関係やシリア問題の行方に目をこらしている。領土問題は重要だが、決して焦ってはならない。外交の原則を崩さず、粘り強く解決をめざす姿勢が肝要だ。」



読売新聞
「◆共同経済活動で信頼醸成図ろう◆

 北方領土問題に関する日露の立場の隔たりは依然、大きい。だが、両国首脳が解決の意志を確認したことは重要だ。

 戦後70年余も残されてきた歴史的な問題を克服するための大切なスタートとしたい。

 ロシアのプーチン大統領が来日し、安倍首相と山口県、東京都で会談した。今年4回目、通算16回目の会談は計6時間に達した。

 両首脳は共同記者会見で、領土問題を解決し、平和条約を締結する「真摯しんしな決意」を表明した。

 ◆新アプローチで打開を

 首相は、北方4島の帰属解決が平和条約の前提になる、と指摘した。同時に、「それぞれの正義を主張し合っても解決できない。4島の未来像を描いて解決策を見いだす新しいアプローチこそが最終結果に続く道だ」とも訴えた。

 プーチン氏も、「ピンポンのような球のやり取りはもうやめた方がいい」と応じた。

 両首脳が、従来の原則論を繰り返すだけでなく、互いに歩み寄って、現実的で未来志向の解決策を模索しようとしていることは、前向きに評価できよう。」

「会談では、日本人の元島民による北方領土への自由往来を拡大することでも大筋で一致した。一つの成果と言えよう。

 1986年に、元島民らが査証(ビザ)なしで墓参などを行う枠組みが定められたが、手続きが煩雑だと指摘されていた。手続きの簡素化や北方領土への渡航地点の追加などを検討するという。

 元島民は高齢化が進んでいる。迅速に結論を出してほしい。

 首相が提案した8項目の経済協力計画は、ロシアでの液化天然ガス(LNG)開発など60件超の事業で、投融資総額が3000億円規模でまとまった。日露の信頼関係を強化するための重要な環境整備であり、着実に実施していきたい。

 ただ、日本の対露協力だけが先行し、領土問題が取り残されるのでは困る。領土の返還が見通せない段階で、日本は大規模な協力を行うことはあり得ない。ロシアも誠実に対応してもらいたい。

 ロシアにとって、ウクライナ情勢を受けた米欧の制裁や原油安・ルーブル安で経済不振が続く中、日本の本格的な支援が必要だろう。プーチン氏は、全体状況をきちんと認識すべきだ。」

「 ただ、日本がロシアとの閣僚級の安保対話を行えば、先進7か国(G7)の足並みを乱す懸念もある。慎重な対応が欠かせない。」
   
毎日新聞
「首脳同士が話し合いを重ねれば、北方領土問題が動くのではないか。そんな期待を打ち砕く、厳しい現実が突きつけられた。

 安倍晋三首相の招きでロシアのプーチン大統領が訪日し、首相の地元である山口県長門市と東京で2日間にわたって会談した。通算16回目の会談は首脳同士では異例の回数だ。

 しかし、領土交渉は前進しなかった。今年5月のソチ、9月のウラジオストクでの首脳会談を通じ、安倍首相は領土問題打開への「手応え」を強調し、12月が歴史的な会談になるという期待感を高めていた。それだけに落差は大きい。」

「米国は、対露制裁を主導したオバマ政権から、対露協調を訴えるトランプ次期政権への移行期にある。ロシアと関係の深いティラーソン氏が次期国務長官に指名されたことも、ロシアには追い風だ。

 ロシアが米国の政権交代を見据えて、対日政策を見直し始めた可能性もある。領土交渉をどう進めるか。安倍政権の外交戦略は大幅な立て直しを迫られている。」


日本経済新聞
「 むろん、領土問題の解決と平和条約の締結をめざし、ロシアと交渉を前に進めようとする安倍首相の路線が間違っているわけではない。だが、焦りは禁物だ。今回の会談結果を詳しく分析し、ロシアの出方を冷静に見極め、話し合いにのぞんでほしい。

 その際、欠かせないのが、日ロだけでなく、世界全体を見据えた情勢分析と戦略の立て直しだ。

 来年1月、米国ではロシアに融和的なトランプ政権が生まれる。原油価格が底打ちし、制裁を受けるロシアの財政の悪化にも歯止めがかかる兆しが見える。

 プーチン氏からみれば、もはや、領土問題で譲歩してまで日ロ関係の修復を急ぐ理由は薄れている。安倍政権がこうした局面に対応するには、日米や日欧関係の強化がこれまで以上に大切だ。

経済協力は採算重視で
 両首脳は今回、8項目の経済協力を具体化するため、政府間と民間レベルを合わせて約80の合意文書を交わした。領土交渉が動かないまま、経済協力だけが「先食い」されてしまうことへの懸念が日本国内にはある。協力に当たっては、事業の採算性を重視して進めることが肝心だろう。

 防衛分野では、外務・防衛担当閣僚級協議(2プラス2)の再開の必要性でも一致した。中国の軍事増強や北朝鮮の核問題を踏まえれば、日ロの対話は日本やアジアの安定に有益な面もある。

 ただ、他の地域に目を向けると、プーチン政権が世界の秩序を脅かす行動を続けていることも忘れてはならない。ウクライナ領のクリミア半島を併合したほか、米大統領選でトランプ陣営を有利にするため、サイバー攻撃をクリントン陣営に仕掛けたと米情報機関は断定している。

 日本は主要7カ国(G7)の一員として、ロシアに国際社会の懸念を伝え、正しい行動を促す役割もある。日ロはともに強いリーダーシップを持った安定政権が続く。安倍政権は会談の結果を次に生かし、局面打開への努力を続けてほしい。」
 

産経新聞
「「平和条約のない異常な状態に私たちの手で終止符を打つ」と首相は会見で述べた。だが、分かったのは領土をめぐるロシア側の岩盤のような姿勢だ。その実態を見て見ぬふりはできない。

 わが国固有の領土である北方四島の主権を認めさせ、その返還を求める。今後も交渉を続けるにあたり、基本原則を改めて確認すべきである。

 重要なのは、日本にとって平和条約の締結自体が目的ではないということである。条約締結は、北方四島の日本への帰属や返還が決まることの帰結にすぎない。

 北方四島は、日ソ中立条約を一方的に破って対日参戦したソ連軍が不法占拠した。四島の主権は日本にあるとの原則は譲れない。

 しかし、プーチン氏は今回も、1956年の日ソ共同宣言について、平和条約締結後、歯舞、色丹の2島を引き渡すとしても、主権の帰属先には触れていないとの見解を繰り返した。日本側が承服できるものではない。」

「 一方で、両首脳は8項目の対露経済協力に基づく総額3000億円規模の事業などで合意した。

 領土で進展がなかった以上、これらは領土交渉の中での取引材料とはいえまい。しかしながら、政府は経済協力優先の姿勢を鮮明に打ち出してきたのであり、この結果に国民の十分な理解を得られるかどうかは大いに疑問である。」
 

中日新聞

「日ロの新しい時代を切り開くことを期待したい。会談した安倍首相とプーチン大統領の両首脳。戦後七十年以上の分厚い氷を溶かすのは、互恵の精神だ。

 会談後の共同会見で、首相は平和条約締結問題について「われわれの世代で終止符を打たなくてはならない」と決意を示した。

 同時に、「困難な道は続く」と述べ、領土問題をめぐり日ロ間に大きな隔たりがあることをにじませた。

共同経済活動を糸口に

 日本が解決への糸口にしたいのが、両首脳が協議開始で合意した北方四島での共同経済活動だ。もともとは一九九〇年代にロシア側が提案した経緯がある。

 経済危機下にあったロシアは四島の民生安定まで手が回らず、日本に頼ろうとしたが、主権の問題が壁になり具体化しなかった。

 今回は日本側が提案した。ロシア化が進む四島に関与し、現状を変えていくことで帰属問題解決への突破口を開こうという期待がこもる。

 だが、今度も主権の問題が立ちふさがる。日本の法的立場を害さないとの原則を守って政府は知恵を絞ってほしい。」 

「プーチン氏は大統領に復帰した二〇一二年の年次教書演説で「二十一世紀のロシアの発展のベクトルは東方にある。シベリア、極東は巨大な潜在力を象徴している」と表明した。欧州から世界の成長センターであるアジアに軸足を移すのはロシアの国家戦略だ。

 人口が減り続ける極東の開発のため、ロシアは日本の経済力に熱い視線を注いでいる。極東は日本の約十六倍と広大でありながら、人口は六百二十万ほどしかない。

 対日関係を進展させることで、中国への傾斜を軽減したいという戦略上のバランス感覚も、ロシアには働く。

完全正常化へ平和条約を

 六十年前に交わした日ソ共同宣言で、両国は戦争状態を終結させ、国交を回復した。両国関係の完全正常化へ残る課題は平和条約の締結だ。そのためには、四島の帰属の問題を解決し国境線を画定させることが必要だ。

 首相は平和条約がない現状を「異常だ」とし、プーチン氏も「時代錯誤だ」と語り、両首脳とも締結の必要性を強調した。

 旧島民の平均年齢は八十歳を超えた。旧島民の悲願に応えるためにも、安倍、プーチン両氏は総力を傾け、違いを乗り越えてほしい。久しぶりの好機である。」


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