日記

音楽教室のことや、その日に起きた出来事をご紹介します。

読書感想文もどき①「星々の舟」

2010-03-23 13:40:21 | Weblog
「星々の舟」村山由佳(文春文庫)


村山由佳さんの本は「天使の卵」を学生時代に人から借りて読みましたが、
その人が感動したというほど私の心は動かず。。。
「おいしいコーヒーのいれかたシリーズ」も展開が遅々として進まず、何巻か読んだところで
興味が無くなってしまいました。

もともとジュニア小説の出身の作家さんなので、場面が絵のように想像できる文章でも
どこか軽い気がして、ある年齢になると読み手が離れていってしまう印象を持っていました。



今回のもまた「面白いから」とお借りした本でした。

水島家の兄妹の禁断の愛に始まり、不倫やいじめ、戦争の記憶など、
家族それぞれの視点から時代を行き来しながら動いていくストーリーです。

最初は兄妹の話が軸となり進んでいく恋愛小説かと思いました。
そのまわりにいる軽薄な二女、無口な長男、怖い父親などは、
最初あまり魅力を感じることのできないキャラクターです。

しかし、育った環境や時代背景が詳しく分かっていくと、
その人がどういう要因でそうなっていったのか、見え方が頑固で怖いだけの人も
中身はとても人間らしく、傷付いたり繊細だったり瑞々しい感情を持っていることが分かります。

半分くらい読んだところで、長男が郊外に畑を借りる場面がありました。
村山さんの得意分野である情景描写がとても鮮やかで、
海の見える明るい畑やその土地で暮らす人の日に焼けた笑顔までが頭にはっきり浮かびました。
なんでもないようですが、私の一番のお気に入りのシーンでした。

長男の娘のいじめのシーンは読んでいてあまりにも悲しくて、
目をそむけたくなりました。

最後に、一番の曲者の父親(長男の娘のおじいちゃん)の戦争体験のシーン。
この物語の山場です。
村山さんはあとがきで「これは戦争小説ではなく、あくまで叶えられないいくつかの
恋のストーリーです」と書いていましたが、
ご両親から戦争の話を聞いた体験、そしてシベリア鉄道で1カ月かけて1万キロを旅した
時の記憶などを盛り込み、とても説得力のある物語を紡いでいました。

読後にスッキリと救われた感じがしないという余韻を残す物語です。
誰もハッピーエンドになっていないのに、少しずつ確実に何かが動いて、
家族の歴史が変わっていくという表面上はとても静かなまま終わっていく物語。

このおじいちゃんが最後に「幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない」とつぶやきますが、
本当にその通りです。
みんながそれぞれ自分で選んだひそかな幸せは、必ずしも幸福という形で終わっているわかではないのです。

心の自由を手に入れた時、静かな孤独も一緒に付いてくるのです。


久しぶりに長い小説を読みました。
あまりにも登場人物が多く、なかなか全部の感想を書くことは易しくありませんので、
興味を持たれた方はぜひご一読ください!!
良い小説です。
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