日本漢字能力検定(漢検) ブログランキングへ
<「漢字の学習の大禁忌は作輟なり」・・・「作輟(サクテツ)」:やったりやらなかったりすること・・・>
<漢検1級 27-③に向けて その28>
●まだ、芥川龍之介(^^;)
●今回も、難度からしたら、80%(24点)以上が目標か・・・・。制限時間は5~10分(^^)
●文章題⑦:次の文章中の傍線(1~10)のカタカナを漢字に直し、傍線(ア~コ)の漢字の読みをひらがなで記せ。(30) 書き2×10 読み1×10
「馬の脚」(芥川龍之介)
「この話の主人公は忍野半三郎と言う男である。
(ア)生憎大した男ではない。北京の三菱に勤めている三十前後の会社員である。・・・
半三郎は二年前にある令嬢と結婚した。令嬢の名前は常子である。これも生憎恋愛結婚ではない。ある親戚の老人夫婦に仲人を頼んだ
(1)バイシャク結婚である。常子は美人と言うほどではない。もっともまた
(2)シュウフと言うほどでもない。ただまるまる肥った頬にいつも微笑を浮かべている。奉天から北京へ来る途中、寝台車の南京虫に螫された時のほかはいつも微笑を浮かべている。
・・・二十前後の支那人は大机の前を離れると、すうっとどこかへ出て行ってしまった。半三郎は三度びっくりした。何でも今の話によると、馬の脚をつけられるらしい。馬の脚などになった日には大変である。彼は尻もちをついたまま、年とった支那人に歎願した。
「もしもし、馬の脚だけは勘忍して下さい。わたしは馬は大嫌いなのです。・・・」
年とった支那人は気の毒そうに半三郎を見下しながら、何度も
(3)テントウを繰り返した。 「それはあるならばつけて上げます。しかし人間の脚はないのですから。――まあ、災難とお諦めなさい。しかし馬の脚は丈夫ですよ。時々蹄鉄を打ちかえれば、どんな山道でも平気ですよ。……」
・・・彼の脚は復活以来いつの間にか馬の脚に変っていたのである。指の代りに蹄のついた栗毛の馬の脚に変っていたのである。彼はこの脚を眺めるたびに何とも言われぬ情けなさを感じた。万一この脚の見つかった日には会社も必ず半三郎を馘首してしまうのに違いない。同僚も今後の交際は御免を
(4)コウムるのにきまっている。
・・・その後の半三郎はどうなったか? それは今日でも疑問である。・・・が、この記事は必ずしも確実な報道ではなかったらしい。現にまた同じ新聞の記者はやはり午後八時前後、黄塵を
(イ)沾した雨の中に帽子をかぶらぬ男が一人、石人石馬の列をなした十三陵の大道を走って行ったことを報じている。・・・
半三郎の失踪も彼の復活と同じように評判になったのは勿論である。・・・難を去って易につくのは常に天下の公道である。この公道を代表する「順天時報」の主筆牟多口氏は半三郎の失踪した翌日、その
(ウ)椽大の筆を揮って下の社説を公にした。――
「三菱社員忍野半三郎氏は昨夕五時十五分、突然発狂したるが如く、常子夫人の止むるを聴きかず、単身いずこにか失踪したり。同仁病院長山井博士の説によれば、忍野氏は昨夏脳溢血を
(エ)患い、三日間人事不省なりしより、
(オ)爾来多少精神に異常を呈せるものならんと言う。また常子夫人の発見したる忍野氏の日記に徴するも、氏は常に奇怪なる恐迫観念を有したるが如し。然れども吾人の問わんと欲するは忍野氏の病名如何にあらず。常子夫人の夫たる忍野氏の責任如何にあり。」
「それわが
(5)キンオウ無欠の国体は家族主義の上に立つものなり。家族主義の上に立つものとせば、一家の主人たる責任のいかに重大なるかは問うを待たず。この一家の主人にして妄りに発狂する権利ありや否や? 吾人はかかる疑問の前に断乎として否と答うるものなり。試みに天下の夫にして発狂する権利を得たりとせよ。彼等はことごとく家族を後に、あるいは
(6)ドウトに行吟し、あるいは山沢に逍遥し、あるいはまた精神病院裡に飽食暖衣するの幸福を得べし。然れども世界に誇るべき二千年来の家族主義は土崩瓦解するを免かれざるなり。語に曰く、其罪を悪んで其人を悪まずと。吾人は素より忍野氏に酷ならんとするものにあらざるなり。然れども
(7)キョウコツに発狂したる罪は鼓を鳴らして責めざるべからず。否、忍野氏の罪のみならんや。発狂禁止令を等閑に附せる歴代政府の失政をも天に替わって責めざるべからず。
「常子夫人の談によれば、夫人は少くとも一ヶ年間、××胡同の社宅に止まり、忍野氏の帰るを待たんとするよし。吾人は貞淑なる夫人のために
(8)マンコウの同情を表すると共に、賢明なる三菱当事者のために夫人の便宜を考慮するに
(カ)吝かならざらんことを切望するものなり。……」
しかし少くとも常子だけは半年ばかりたった後、この誤解に安んずることの出来ぬある新事実に遭遇した。・・・ベルはその内にもう一度鳴った。常子はやっと長椅子を離れ、静かに玄関へ歩いて行った。
落ち葉の散らばった玄関には帽子をかぶらぬ男が一人、薄明りの中に佇んでいる。
「何か、……何か御用でございますか?」男はやっと頭を
(キ)擡げた。
「常子、……」それはたった一ことだった。しかしちょうど月光のようにこの男を、――この男の正体を見る見る明らかにする一ことだった。常子は息を呑んだまま、しばらくは声を失ったように男の顔を見つめつづけた。男は髭を伸ばした上、別人のように
(ク)窶れている。が、彼女を見ている瞳は確かに待ちに待った瞳だった。
「あなた!」 常子はこう叫びながら、夫の胸へ
(ケ)縋ろうとした。けれども一足出すが早いか、熱鉄か何かを踏んだようにたちまちまた後ろへ飛びすさった。夫は破れたズボンの下に毛だらけの馬の脚を露している。薄明りの中にも毛色の見える栗毛の馬の脚を露している。
「あなた!」 常子はこの馬の脚に
(9)メイジョウの出来ぬ嫌悪を感じた。しかし今を逸したが最後、二度と夫に会われぬことを感じた。夫はやはり悲しそうに彼女の顔を眺めている。常子はもう一度夫の胸へ彼女の体を投げかけようとした。が、嫌悪はもう一度彼女の勇気を圧倒した。
「あなた!」 彼女が三度目にこう言った時、夫はくるりと背を向けたと思うと、静かに玄関をおりて行った。常子は最後の勇気を振い、必死に夫へ追い縋ろうとした。が、まだ一足も出さぬうちに彼女の耳にはいったのは
(コ)戞々と蹄の鳴る音である。常子は青い顔をしたまま、呼びとめる勇気も失ったようにじっと夫の後姿を見つめた。それから、――玄関の落ち葉の中に
(10)コンコンと正気を失ってしまった。……」
👍👍👍 🐑 👍👍👍
(1)媒妁 (2)醜婦 (3)点頭 (4)蒙(被) (5)金甌 (6)道塗 (7)軽忽 (8)満腔 (9)名状 (10)昏々(昏昏)
(ア)あいにく (イ)うるお (ウ)てんだい (エ)わずら (オ)じらい (カ)やぶさ (キ)もた(「もちあげ」でも可か) (ク)やつ (ケ)すが (コ)かつかつ
👍👍👍 🐑 👍👍👍