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<「漢字の学習の大禁忌は作輟なり」・・・「作輟(サクテツ)」:やったりやらなかったりすること・・・>

<漢検1級 27-③に向けて その41>
●今回の難度は、並みよりちょっと上?・・・80%(24点)以上はとりたいところか・・・・。制限時間は10分ぐらい(^^)
●文章題⑬:次の文章中の傍線(1~10)のカタカナを漢字に直し、傍線(ア~コ)の漢字の読みをひらがなで記せ。(30) 書き2×10 読み1×10
●「生まれいずる悩み」(有島武郎)
「・・・北海道第一と言われた
(ア)鰊の
(イ)群来が年々減って行くために、さらぬだに生活の圧迫を感じて来ていた君の家は、親子が気心をそろえ力を合わして、命がけに働いても年々貧窮に追い迫られ勝ちになって行った。
・・・私は君を忘れてはならない。もう港を出離れて木の葉のように小さくなった船の中で、君は配縄(はいなわ)の用意をしながら、恐ろしいまでに荘厳なこの日の序幕をながめているのだ。君の父上は
(1)カジザにあぐらをかいて、時々晴雨計を見やりながら、変化のはげしいそのころの天気模様を考えている。海の中から生まれて来たような老漁夫の、皺にたたまれた鋭い眼は、雲一片の
(ウ)徴をさえ見落とすまいと注意しながら、顔には木彫のような深い落ち付きを見せている。君の兄上は、凍って自由にならない手のひらを腰のあたりの荒布にこすりつけて熱を呼び起こしながら、帆綱を握って、風の向きと早さに応じて帆を立て直している。雇われた二人の漁夫は二人の漁夫で、
(2)フタヒロ置きに本縄から下がった針に餌をつけるのに忙しい。海の上を見渡すと、港を出てからてんでんばらばらに散らばって、朝の光に白い帆をかがやかした船という船は、等しく沖を目がけて波を切り開いて走りながら、君の船と同様な仕事にいそしんでいるのだ。
荒れても晴れても毎日毎日、一命を投げてかかって、緊張し切った終日の労働に、玉の緒で炊き上げたような飯を食って一生を過ごして行かねばならぬ漁夫の生活、それにはいささかも遊戯的な余裕がないだけに、命とかけがえの真実な仕事であるだけに、言葉には現わし得ないほど尊さと厳粛さとを持っている。ましてや彼らがこの目ざましいけなげな生活を、やむを得ぬ、苦しい、しかし当然な正しい生活として、誇りもなく、
(3)キョウショクもなく、不平もなく、素直に受け取り、
(エ)軛にかかった輓牛(ひきうし)のような柔順な忍耐と覚悟とをもって、勇ましく迎え入れている、その姿を見ると、君は人間の運命のはかなさと美しさとに同時に胸をしめ上げられる。
こんな事を思うにつけて、君の心の目にはまざまざと難破船の痛ましい光景が浮かび出る。君はやはりカジザにすわって他の漁夫と同様に握り飯を食ってはいるが、いつのまにか人々の会話からは遠のいて、物思わしげに黙りこくってしまう。そして果てしもなく回想の迷路をたどって歩く。
・・・その猛烈な力を感じてか、
(4)ダンガイの出鼻に降り積もって、徐々に斜面をすべり下って来ていた積雪が、地面との縁から離れて、すさまじい地響きとともに、何百丈の高さから一気になだれ落ちる。巓を離れた時には一握りの銀末に過ぎない。それが見る見る大きさを増して、
(5)インセイのように白い尾を長く引きながら、音も立てずにまっしぐらに落として来る。あなやと思う間にそれは何十里にもわたる水晶の
(6)オオスダレだ。ど、ど、どどどしーん‥‥さあーっ‥‥。広い海面が目の前でまっ白な平野になる。山のような
(オ)五百重の大波はたちまちおい退けられて
(カ)漣一つ立たない。どっとそこを目がけて狂風が四方から吹き起こる‥‥その物すさまじさ。
君たちの船は悪鬼におい迫られたようにおびえながら、懸命に東北へとカジを取る。磁石のような陸地の吸引力からようよう自由になる事のできた船は、また揺れ動く波の山と戦わねばならぬ。
・・・・漁夫たちは
(7)ロやカジや帆の始末を簡単にしてしまうと、舷を伝わって陸におどり上がる。海産物製造会社の人夫たちは、漁夫たちと入れ替わって、船の中に猿のように飛び込んで行く。そしてまだ死に切らない鱈の尾をつかんで、
(キ)礫のように砂の上にほうり出す。浜に待ち構えている男たちは、目にもとまらない早わざで数を数えながら、魚を
(ク)畚の中にたたき込む。漁夫たちは吉例のように会社の数取り人に対して何かと故障を言いたててわめく。一日ひっそりかんとしていた浜も、このしばらくの間だけは、さすがににぎやかな気分になる。景気にまき込まれて、女たちの或る者まで男といっしょになってけんか腰に物を言いつのる
・・・鱈の漁獲がひとまず終わって、鰊の先駆(はしり)もまだ群来て来ない。海に出て働く人たちはこの間に少しの間 息をつく暇を見いだすのだ。冬の間から一心にねらっていたこの暇に、君はある日朝からふいと家を出る。もちろんふところの中には手慣れたスケッチ帳と一本の鉛筆とを潜まして。
家を出ると往来には漁夫たちや、女でめん(女労働者)や、海産物の仲買いといったような人々がにぎやかに浮き浮きして行ったり来たりしている。根雪が氷のように
(ケ)磐になって、その上を雪解けの水が、一冬の
(8)ジンアイに染まって、泥炭地のわき水のような色でどぶどぶと漂っている。
(コ)馬橇に材木のように大きな生々しい薪をしこたま積み載せて、その悪路を引っぱって来た一人の年配な内儀さんは、君を認めると、引き綱をゆるめて腰を延ばしながら、戯れた調子で大きな声をかける。
・・・画学紙の上には、吹き変わる風のために乱れがちな雲の間に、その頂を見せたり隠したりしながら、まっ白にそそり立つ峠の姿と、その手前の広い雪の野のここかしこにむら立つ針葉樹の木立ちや、薄く炊煙を地になびかしてところどころに立つ惨めな農家、これらの間を鋭い刃物で断ち割ったような深い峡間、それらが特種な深い感じをもって特種な
(9)ヒッショクで描かれている。君はややしばらくそれを見やってほほえましく思う。久しぶりで自分の隠れた力が、哀れな道具立てによってではあるが、とにかく形を取って生まれ出たと思うとうれしいのだ。
しかしながら
(10)コギは待ちかまえていたように、君が満足の心を充分味わう暇もなく、足もとから押し寄せて来て君を不安にする。君は自分にへつらうものに対して警戒の眼を向ける人のように、自分の満足の心持ちをきびしく調べてかかろうとする。そして今かき上げた絵を容赦なく山の姿とくらべ始める。・・・」
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(1)舵座 (2)二尋 (3)矯飾 (4)断崕(断崖) (5)隕星 (6)大簾 (7)艪 (8)塵埃 (9)筆触 (10)狐疑
(ア)にしん (イ)くき (ウ)しるし (エ)くびき (オ)いおえ (カ)さざなみ (キ)こいし (ク)もっこ (ケ)いわ (コ)ばそり
<注1>「馬橇(バそり)」・・・「うまそり・うまぞり」でもいいのではないかと思ったら、広辞苑では「馬橇(ばそり)」でしか出てこない・・・。
<注2>「筆触」=絵筆の効果、すなわち色調・明暗などの表現を形成する画筆の作用。筆ざわり。タッチ。(広辞苑)
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