今回のタイトルは、「成就院と朝ドラ ”なつぞら”」です。ご存知、成就院は鎌倉市内極楽寺にある真言宗のお寺。とは言っても、主人公の広瀬すずの出演した映画『海街diary』のことではありませんので悪しからず。実は写真の成就院にある「文覚」像と縁のあるお話です。この像のことは幾度か本ブログで紹介していますのでご存じの方は多いかと思います。
この「文覚」像と荻原守衛(碌山)という長野県の安曇野の出身の彫刻家の物語。日本のロダンとも言われています。この碌山を支援したのが、同じ安曇野の出身の相馬愛蔵という人物。その妻は相馬星良(黒光)。相馬愛蔵は誰でも知っている「新宿中村屋」の創業者。今やっている朝ドラでは、「川村屋」と言っていますが、オーナーである前島光子(比嘉愛未)は相馬黒光の孫にあたりますか?
相馬黒光は仙台の出身。才気があり自立心溢れる女性だったようです。荻原碌山は東穂高村の愛蔵の家を訪ねるうちに芸術家を目指すようになります。そして愛蔵の妻である黒光に憧れの気持ちを抱きつつも、その後ニューヨークやパリに留学し、パリで見たロダンの彫刻「考える人」と出会い、彫刻家になる決心をしました。
碌山の書いた日記「成就院に遊ぶ(文覚の木像を論ず」に「文覚」像を見た印象を次のように書いています。
只見る尺余の一木像、歳とともに古びてブロンズの如く輝けるが怪しき経机の上に無造作にうづくまれる、僕はこれを一瞥した其の瞬間の印象を、今も尚打消す事が出来ぬ。赤裸々なる一怪僧、天地の諸相をその眸底に云う様な円らなる巨眼を見ひらき、一文字に結べる口、一度開けば天下も、征夷大将軍も忽ち説服して了はねば止まぬ・・・・以下略。
碌山は創作に悩む日々を過ごすうちにこの「文覚」像に出会い、世に出ることができました。絶作である「女」は黒光がモデルとも言われています。
まさか朝ドラの話が成就院と結びつくとは。因みに新宿中村屋のカレーは、インドからの亡命者ラス・ビバリ・ボーズが伝えたもので、この亡命者の妻は黒光の娘である俊子です。凄い物語ですね。ちょっと感激しました。