藤沢市西俣野に花應院という曹洞宗のお寺があります。花應院では毎年、8月16日と1月16日の2回、お寺が所蔵している地獄変相十王図と小栗判官・照手姫絵巻の絵解きを行っています。小栗判官・照手姫の話は藤沢の遊行寺が有名ですが、この西俣野の地にも古くから伝わっているようです。花應院の近くに、お墓や小栗判官が地獄から蘇った小栗塚、小栗判官を殺した横山大膳の屋敷もあり、なかなか興味深い場所です。
その小栗判官の話は各地に諸説伝わっていますし、歌舞伎や浄瑠璃の演目にもなっていますが、花應院にある絵巻は、「説経」という中世末に成立した口承文芸で、説経師という芸能者によって語られたものに近いあらすじになっています。小栗判官と照手姫のラブロマンス、横山大膳よる小栗判官と10人の家来の毒殺、10人の家来の計らいによる地獄からの小栗判官の蘇り、遊行上人の助けと熊野の地での復活等など、聞く人を惹きつける物語に仕上げられています。
この小栗判官の説経の後に、地獄変相十王図の絵解きで地獄の世界の説経がされますが、地獄から蘇った小栗判官の話を聞いた後であれば、いかにも地獄の様子が真実味を帯びて、聞く人は説経に引き込まれます。
そんなに娯楽のない時代に老若男女が寺に集まり、地獄のおどろおどろしい話を聞けば、子供心に嘘をついたら舌を切られるとか、針千本飲まされるとか言った話を信じるようになるものです。そう考えれば、現代には通じないかもしれませんが、小栗判官・照手姫の話や地獄変相十王図の絵解きも、意義あるものに思えるようになりました。