『白隠禅師 健康法と逸話』(直木公彦著 日本教文社)。この本は新聞の広告で見つけ買い求めました。副題に内観の秘法、軟酥(なんそ)の法、丹田呼吸法と書いてあります。白隠禅師の文章『坐禅和讃』は知っていましたが、その外に『夜船閑話(やせんかんな)』とか『遠羅天釜(おらてがま)』などは興味はありましたが、その内容はよく知りません。またこの本の著者の直木公彦氏(1918-2000)は北大工学部卒の土木技術者です。戦争中に喀血し、戦後にも二度目の喀血で死地をさまよいましたが、白隠禅師の『夜船閑話』を実習し結核を治したと書いてあります。禅の教えを学び療養したかと思いましたが、さにあらん禅師の内観の秘法により体力、気力、充実の効により奇跡的に生還したとあります。なんとも胡散臭い話ですが、この内観の法は白隠禅師の体験した実践に基づく治療法であり、読み進むうちにこの内観の法を試したい気持ちになりました。
ご存じ白隠禅師(1685-1768)は江戸時代の禅僧で臨済宗の中興の祖です。15歳で出家。24歳で一度目の大悟。これは本物ではなく、信州飯山の正受上人のもとで修業の日々をおくりますが、なかなか大悟できないで過ごします。この悟りの境地は一回経験すれば完成するものと思っていましたが、白隠禅師は一度大悟してもさらに深く悩み、ついには強度の神経症と肺結核に悩まされ体はボロボロになってしまいます。それを救ったのが、京都の白河の山奥に隠棲する白幽仙人。白幽仙人から、養生と征病の秘訣をおしえられ、原の松陰寺に戻り、大病を治すことができました。白隠禅師は83歳の長寿でしたから、白幽仙人から教えられた内観の法や軟酥の法の効用は本物だったと考えられます。
この内観の秘法とはどういうものか。詳しくは巻頭の本を読んでいただきたいのですが、私なりの理解は、生命の根源は「正しい呼吸法」にあるということだと思いました。「息」という字は自らの心と書きます。人間は息をすることで酸素を取り込み、それをエネルギー源として命を長らえています。人体には陰陽、プラス・マイナスがあり電池と同じように電気信号が流れています。それを古来から「気」という言葉で表現しました。気力とか元気という言葉がありますが、気というものを大切に考えていた訳です。その「気」を正しく整えるのが内観の法であり、その方法は正しい「息」をすることだと教えています。では正しい息の仕方とは、臍の下にある気海丹田で息をすることだとしています。分かりにくいですが、常に深く、ゆっくりと、下腹部で息をする。いわゆる複式呼吸ですね。この息を整える修業をすると、気力がよみがえり、精気が増し、難病すら克服するとあります。もちろんお医者さんによる治療が最優先で、病気に打ち勝つ気力を養う方法を教えている訳です。私もこの本を読んで息の仕方に気をつかうようにしています。まだはじめたばかりで効果の程は未知数ですが・・・?写真は静岡県原の松陰寺にある白隠禅師のお墓で写したものです。