『Sports Graphic NUMBER スポーツ・グラフィック・ナンバー ベストセレクションⅠ』(文藝春秋)
の山際淳司氏著の『江夏の21球』を読んだ。
野球に対してはあまり特別な思いはない。しかし、幼いころに西武ライオンズのキャップを被ってハマッていた時期はあった。去年、大学の友人と西武を応援しに行き、楽しんだという程度。そしてちゃっかり、TVの上にそのときもらったカブレラの人形を飾っている程度。
この『江夏の21球』はジャーナリスト専門学校に通っていたころに先生からその存在を教えてもらい、後にどこかの古書店で買ったもの。
これは、あのナンバー創刊号に掲載された作品である。
内容は1979年日本シリーズの近鉄バファローズ対広島カープ、両者3勝をあげ、決着をつけなくてはならない第7戦である。
9回裏、スコアは4-3でカープが勝ち越している。しかしワンアウト、フルベースでピンチのカープ、そして江夏。ホームで逆転し、一挙に花を咲かせたい近鉄。ところがなんとこの状況を切り抜けるのである。怪物ピッチャーだ。
ベンチでは監督が同点にされることを意識し、既に次の攻撃・打席の(江夏に打順が回る可能性があった)ことを考え、代えのピッチャーに準備・肩慣らし、させている状況。これを江夏はまだ信用を勝ち取ってなかったのかと心中で悔しさを爆発させる。そこにファーストを守る衣笠は、「俺もお前と同じ気持ちだ。ベンチやブルペンのことなんて気にするな」と声をかけたという。
ラジオ、TV、観客席、ベンチですら分からない。ファーストを守り、しかも衣笠だからこそ、まさに江夏の心を汲み取った静かなコミュニケーション。この一声が、江夏を後押しする。
そしてスクイズをアウトに討ち取る圧巻。江夏は胴上げされた直後のベンチで涙を流したという。
確かに緊張感がひしひしと伝わってくる「見えるような」描写、迫力で、よいノンフィクション作品だった。