自己と他者 

自己理解、そして他者理解のために
哲学・ビジネス・雑記・洒落物など等

伊坂幸太郎『あるキング』(徳間文庫)

2012-09-18 22:01:55 | 小説

本当に生まれた時から野球しか知らない人生を歩む王球という超天才野球少年の話。

自分の努力が実るとき、自分が思う以上に、他人も巻き込んで幸福にしているのかもしれません。

って思いました。それから、罪と認識しない個の集合体による集団暴力を作品・作品の合間に挟むのが天才的。

当時、「殺人犯の息子は、超高校級の高校球児」と週刊誌やテレビ局は騒いだ。お前の住むマンションの周辺を囲み、さまざまな、真偽不明の証言を流したが、あの時、おまえはどういう気持ちだったのか。お前はいつも堂々としていた。カメラを担いだ男たちが駆け寄ってきて、リポーターがマイクを突き出し、記者を名乗る男が近づいてきても、顔を背けずしっかりと向き合い、質問に答えたではないか。お前の年齢のこともあるため、放送はされなかったが、あの態度を皆が知れば、その立派な姿に感心したものも現れたのではないか。

「今、どういう気持ちですか」という問いかけは漠然としている上に、無意味この上ない。が、意外に多くの人間がその問いかけを口にした。そして、お前はそのたび、答えを真剣に考えたはずだ。

 そう、「気持ち」というものは言葉で表現できるのかどうか、それ自体が難問だ。「複雑です」お前の言葉は素晴らしかった。これ以外にない、というほどの正さだった。(p165-p166)