上図は、「茨城県近代美術館だより No.90」(2011年9月発行)に書いた拙稿からの引用図版である。
そのうち、左の作品は、同館で「千鳥」と呼んでいる。
同館では書のコレクションはしていないから、これは日本画に分類しているが、芋銭の書としての作品と見ていいと思う。
作品名が「千鳥」だが、それは2羽の鳥の図が描かれているからに過ぎない。この作品は、古稀記念新作展に出品されており、「如虚雲」がこの作品に相当するものと考えられる。
「千鳥」というタイトルは、私の記憶が間違っていなければ、酒井三良が書いたこの作品の軸箱(このような場合を、「共箱」ではなく「識箱」と呼ぶ)の題に由来するものだ。
ここには、三良から見れば「五字讃」が書かれている。
そのうち3字はこの作品の本来のタイトルである「如虚雲」だが、最初の2字、特に私には2番目の文字がなかなか読めなかった。
最初の文字も、いくつかの読みが考えられ、次の文字が読めないと、正確には分からない。それで、ちょっと苦労した。
書の専門家は2番目の文字もすぐにわかるのかもしれないが、油彩画を中心にした学芸活動しかして来なかった私には、難しかった。
読めなくて、しばらくあきらめていたが、ある時、立派な装丁の芋銭の画集を見ていると、彼の書に「渓雲漢々一行」と題されている作品があることに気づいた。それが、上図の右の作品である。
「渓雲漢々」とは聞きなれない表現だが、これは、「渓雲漠々」の読み間違いか、校正ミスだとすぐに気付いたが、そのあとの文字が何と読むとか、ぜひ知りたいところだった。
というのは、この中の1文字に、「千鳥」の最初の2文字のうちの2番目の文字にとても似ている文字があることを偶然見つけたからである。
それは「冷」だった。もしくはサンズイの「泠」だった。そうであれば、最初の文字は「清」だろう。
五字讃は「清冷如虚雲」と書いてあるのだった。
あとから知ったが、「渓雲漠々水冷々」(または「水泠々」)あるいは、それに似た語句は、芋銭の他の作品でも用いられていた。どうやら芋銭はこの言葉が好きだったようだ。