今日から11月15日まで、練馬区立美術館で「アルフレッド・シスレー展 印象派、空と水辺の風景画家」展が始まった。
日本国内にあるシスレーの作品を努力の限りを尽くして集めた良い展覧会だ。
中村彝の弟子筋鈴木良三の初期作品など、シスレーが描いた場所に関連のある日本の洋画家の作品も見られる。
昨日、内覧会に行ってその展示の概要を見てきたが、近年の展覧会にありがちな作品数が多すぎてかえって疲れてしまうということがなくて、私などには大変好ましい数的内容の展覧会だった。
印象派の作品を、「テクノロジーと描かれた河川」という観点から見るという新機軸もある。
最初どういうことかと思ったが、研究上の新しい成果もいろいろ出ているようだ。
まだ図録をゆっくり読んでいないが、一例として茨城県近代美術館が持っているシスレー作品「葦の川辺、夕日」について言えば、作品タイトルの変更を迫るほどの刺激的な解説がある。
すなわち、この作品のタイトル"Le Gué de l'Epine,soleil couchant"の l'Epineは、詳しく調べ上げられた結果、特定の地名であることがはっきりし、これは「レピーヌの浅瀬」と訳すべきものであったようだ。
そして、運河と違い船が通れないような浅瀬がまさにLe Guéなのだという。
このようにタイトルの原題を明らかにしたのは、新しい視点から作品を考察した成果の一つに違いない。
もちろん「葦の川辺」であることは間違いないようだが、描かれた場所が特定されたということはきわめて重要だろう。
さらに茨城県のシスレーと鹿児島市立美術館のシスレーが関連作品ではないかという指摘もなされている。
これは、茨城県にとっても鹿児島市にとってもこれからの作品解説や研究で大変有意義な指摘になるものと言ってよいのではないか。
美術作品の貸借は、借りる側ばかりでなく、貸す方にもこういうメリット(研究成果の新しい享受)があるとあらためてわかるようなよい事例ではなかろうか。鑑賞者にとっても、もちろん有益な情報である。