空全体に薄いベールは掛かっているものの、天の川は依然として美しい流れを見せていた。時折流星群の星屑が見事な尾を引いて流れてゆく。しかし観測デッキの赤道儀に取り付けたカメラの写野には相変わらず一つも入って来なかった。
まあいいか、久々にこうしてデッキで寛ぎながら満天の星空を見上げることが出来ている。それだけで十分だった。竹取庵の東には土地の境を示す大きな木立の列が有る。だから月も星も、みかんの丘まで昇るのに時間が掛かってしまう。その木立の上にカシオペアの姿が見えた。アンドロメダも昇っている。
海岸の岩に鎖で繋がれ、お化けクジラの餌食にされようとしていたアンドロメダ姫を救ったのがペルセウスだ。秋の北天の星座は、その勇者ペルセウスが、妻として娶ったアンドロメダと共に義母カシオペアと義父ケフェウスの元に参じている姿だと、僕が勝手に思っている。
木立の上にペルセウスが見えてきた。ペルセウス座流星群は、すべての流れ星がこの星座の中から出て来ている様に見える事からその名が有る。流星群の出現もそろそろクライマックスを迎えようとしていた。しかし時計は午後11時半を指している。今帰っても画像処理して寝るのは2時を過ぎるだろう。もちろん明日も仕事。帰らなければ。
機材を片付けたあと、閉じてゆく屋根を止めて端から星空をのぞいた。最後に一つでも流れてくれるかな。その願いも空しく静かな空。竹取庵に鍵を掛け、荷物を車に積もうと歩き出した時、目の前を小さめの流星が流れた。ありがとう。また来年。