空の透明度はかなり高そうだ。それに心配だった雪雲も落日とともに消えていった。午後7時を回るころには夕時の空が嘘のように晴れている。ただ風だけは衰えを見せていなかった。風よけの為に屋根を半分だけ開いてみると、目の前でオリオンが大犬小犬を従えて牡牛と戦っている。先日のリベンジ。炎星雲を撮影しようかとも思ったが、すぐ傍で月齢6の月が煌々と輝いている。とても撮れそうにない。と言うところで思い付いた。そうか、月を撮ればいいんだ。久しぶりにかぐや姫の目を醒まさせよう。
かぐや姫の自由が利くように屋根をいっぱいに明けた後、主鏡を覆っていたアクリルカバーを外して斜鏡の埃を払った。そして大きいほうのカメラをトップリングに取り付けて月に向ける。カメラのモニターを見ながらピントを合わせかけた時、観測デッキを突風が駆け抜けた。テーブルに置いてあった小物が吹き飛び、かぐや姫が大きく向きを変える。その後もまるでリズムを取るかのように一定間隔で風が望遠鏡を叩く。体の熱も奪われてゆく。ダメだ。撮影できない。諦めてカメラを取り外し、三脚を持ち出してデッキの様子をワイドレンズのフレームに収めた。
露出15秒。その間にもカメラは風に翻弄されてブレている。テーブルの上のビニールはその横の28センチを覆っていた袋。バランスウェイトが重しになってかろうじてここに居る。奥右側のビニールは屋根を開けるまで右端の赤道儀にかぶさっていた。この撮影の直後にどこか外に飛んで行ってしまった。この写真自体、小刻みなブレでどこにピントが来ているのか分からない。
もうだめだ。体も心底冷えてきた。帰ろう。不甲斐無いと思いながらも撤退を決意。次こそはぜひ。