セバスチャン「おお、安土城が、火の竜となって天に昇っていく。誰が火を放ったのだ。」
セバスチャン「天主に火をかけたのはおまえか。」
信雄「その通りだ。やれやれ、嬉しやな。やっとお目通りが叶うた。やはりバテレンの坊主だったか。」
霊操で姿が見えなかったセバスチャンだが、信雄の目には見えるようになる。
その時が来たのだ。
信雄「おまえがこれまで見てきた光景は、やがてこの世で現実のものとなることばかり。その光景の中にトマスの姿もあったはず。現に、今この時も、トマスや他のバーデレたちは、明智光秀も雑兵らに、教会もセミナリオ(神学校)も焼き打ちされ、命からがら琵琶湖の沖島へ逃げのびた。かかる事柄に遭遇したということは、つまり、おまえたちのジャンクは、シナへ向かわず、再び、本朝へ舵を変えるということだ。」
現実はまだ、トマスもセバスチャンも船の上にいる。
セバスチャンの命の灯もやがて消えようとしていた。
信雄「お前を案内してきた天使はどうした?」
セバスチャン「それがはぐれてしまった。」
信雄「ふふ、はぐれてなどいないさ。目の前にいるじゃないか。あるときはミカエルに化け、あるときは信長の息子に化け、仏僧にも化け、トマスにまで化けて、お前をほうぼう、案内してきた俺が、その天使だよ。」
自分の意志で霊操してきたといいはるセバスチャン、この煉獄の光景も、自分の霊操の世界だとどうしても思いたかった。
信雄「思い込むのは勝手だ。そのうち、誰かが大欠伸して目を覚ませば、お前も俺も跡形もなく消えうせてしまうのさ。私たちはその誰かの眠りの中で生かされているだけなのだ。」
信雄「まあ、聞いてくれ。俺がおまえと同類だと言ったのも、こういうことさ。つまり、この俺も・・・・ある日、ある時、ある所から、霊操をして、この国へやってきたんだ・・・・そうだ、おまえには聞こえなかったか?霊操に入る時、声明とも呪文とも鐘の音ともつかぬ、不思議な響きが、波動し、俺を誘った・・・・。」
信雄「意味はわからないが、何かを俺に伝えようとしている・・・・。諸行無常、是生滅法、俺にはそんなふうに聞こえたが。」
セバスチャン「メメント・モーリ・・・・・。私にはそう聞こえた。」
セバスチャン「死ぬ日を忘れるな、死に行く者たちよ・・・。ラテン語でそういう意味だ。」
信雄「死ぬ日を忘れるな?死ぬ日を忘れるな・・・・そうだったのか・・・思いが至らなかった・・・。」
信雄はセバスチャンと同じく霊操をしてこの国へ来た。
しかし、肉体があるうちに魂が帰り着かなかったので、帰る場所がなくなってしまったのだ。
永遠に幽界をさまよう放浪者に成り果ててしまったのだ。
セバスチャン「おまえが地上に創ったものとは・・・・。」
信雄「安土の町、五層七重の天守閣、そして信長。」
セバスチャン「信長までも?」
信雄「すべて魔界より放った夢の光の照り返した幻。」
セバスチャン「信長は信雄の父、おまえは己の父まで創りだしたのか。」
信雄「汝らが父と仰ぐキリストも、己を神の子と称し、天に己の父を創った。俺もキリストに習って、わが父を創りあげたまでさ。それもすでに消し去った。信長の骨は見つかるまい。もともとこの世にいなかった者だ。そろそろ、この天守閣も崩れ落ちそうだ。会えて嬉しかったよ、セバスチャン、互いに甦ったら、また会おう。」
セバスチャン「甦りとは神の言葉だ。悪魔となったおまえに甦りは決してない。炎とともに煉獄へ堕ちよ!二度と地上に現れるなっ。」
信雄「俺もそう願っている!おまえの死とともに、俺の悪夢も二度と甦らぬよう・・・。さらばだ!わが友、セバスチャン。」
ほんとうに一部分だけ抜粋したので、なかなか意味は伝わらなかったと思う、
おもしろそうだなと思われた方は是非、本を買って読んでみてください。
そして、この台詞をジュリーが言ったものとして想像して楽しんでください。
一度でも観た人をすべて虜にしたこの舞台。
二度と甦らないセバスチャンと同じ、消えるが幸せということか。