古い友1で述べたが、私はフランスに留学した。金はなかったが、18歳になった高校3年の暮れに「勧銀全国宝くじ」をモノは試しと一枚買って、これが見事二等賞(200万円)になった。それを元手に十九歳からフランスに遊学したのだが、町内の立石新聞に「勤労高校生、宝くじで留学」などともてはやされた。二年現地に滞在して200万円を使い切って、二十一歳で帰国した。
若さはなににもまして有効で、おかげでフランス語を少し修得でき友達も多く持てた。
掲載する写真の左は遊学中の友の一人「古い友」のパトリックである。私が二十二歳の夏に日本を訪問した記念の写真です。場所は新宿西口、京王デパート脇の坂道です。
今から43年前、1969年昭和44年です。
右のマスクかかる少女をパトリックに「小さい友」と紹介して、わだかまっていた困難を解消してしまった。
小さい友とはフランス語の(une petite amie=女性形、プティッタミー)をそのまま訳したのだが、翻訳者はこんな言い回しはしない。専門家に笑われる誤訳覚悟で意訳すると、これは「かわいこちゃん」に他ならない。この訳には自信がある、パリで友達にある小粋な女の子を(ma petite amie=私の小さい友達)と紹介されたからで、その時の印象は二人はつきあい永い恋人同士と見えた。その時友人はしっかりと音節を区切って発音した。小さい友であって、それ以外では絶対になからなと伝えたかったようだ。
恋人を指す語は(mon amour=モナムール)でこれは映画やシャンソンで頻繁に聞きます。しかし厚かましいフランス人でも社交的な場では、この語を使って恋人を紹介することはない。妻、婚約者にはしっかりと対応語があるけれど、身分的にはそうなっていない恋人をどう紹介するか、その時に「小さい友」を用いる。恋人のamourは端的に行為をさし、肉感に直接的なので社交の場には合わない。(渡来部的誤解かもしれないが)
フランス人の性格ですが、最初の紹介をしっかりしておかないと、紹介した相手が恋人にアタックする怖れがあります。彼(彼女)らの手の早さは口達者以上ですから。こう紹介されたら「手を出さない」が決まりです。
写真の「小さい友」の彼女は、夏の旅行で偶然に「フツーの友」になった方です。なぜ古い友に偽りの紹介をしたか、ある悩みを解決するためで、その結果別の問題を背負い込んでしまいました。
パトリックは学生仲間で、パリに着いて早々に知り合いました。学生寮の中庭に卓球台が置かれていて、気晴らし運動をする仲間です。
知り合って半年あたりで、何となく鬱陶しくなってきた。本人にはそのつもりはないだろうけれど、つきまとわれている、それが迷惑となるほどに感じていた。毎日毎夕、学生寮に来ては話しかけてくる。夕食を一緒にしないか、映画見に行かないか、次の休暇はどこに行くのか、こんな話しかけを頻繁に受けて、好いやつだけど嫌になった。
帰国するときは夏だったので、彼はバカンスでどこかに行っていた。これ幸いで、知らせずに帰った。二十一歳の夏です。一年もたてばパトリックもなにもすっかり忘れた。
しかし友人からの電話には驚いた。パトリックが旅行に来ている、今東京で、お前に会いたい、会わせろと大騒ぎだ。(小さい友2に続く)