(7月5日)
カワウソ(loutres、文中は複数形で出ている)はHaburiの伯父(達)、川辺で狩の一休みにHaburiが捻ったクソの匂いを嗅ぎつけて、若者Haburiは実は甥、本来の歳では赤ちゃん。
Elles (=カワウソloutres は女性形なのでelles彼女たちだが伯父達) lui dirent toutes ses verites : il menait une vies depravee.
カワウソはHaburiすべての真実を伝えた。若者となってWau-utaを母(=愛人)としているのも、狙いを外さない狩の技術もすべてカエルの魔法と教えた。彼は堕落した生をおくっていたのだ。
その夕に戻ってからは大きな獲物は母と伯母に、Wau-utaには小さな獲物しか渡さなかった。
形容詞depraveはamoral、immoralとあるので背徳の意が強い。個々の行動で堕落しているではなく、あってはならない反道徳の習慣に浸っている。語り口ではWa-utaを母と規定するが、実際は愛人。すると血族ではなく同盟の関係になる。これがあってはならないと神話は語る。その理由をレヴィストロースは以下に説明している。
カエルと人の媾合が背徳なのか。異種交渉は獣婚とも伝わる風習である、部族によって禁忌とされる。しかしここでは理由ではない。既に取りあげたMabaは蜂、Adabaはカエルであった。ひとえにWau-utaがvieille femme(老女)であるからである。歳の離れた同盟は祝福されない、中世ヨーロッパではそのような婚姻には夜引いての大騒ぎ(vacarme)で呪われる。そうした同盟は再生産を産み出さない(子供が出来ない)からもあるが、老人が若い娘を娶ると(逆もしかり)、一人の若者(娘)の婚姻の機会を奪うからである。Haburiの背徳はWau-utaが老いていたからである。
Wau-utaは怒った。
Elle etait si furieuse qu’elle ne put rien manger, et pendant toute la nuit elle accabla Haburi de ses recriminations. Mais le lendemain, celui-ci disstribua de la meme faconsa chasse aux trois femmes et Wau-uta ne le laissa pas en repos.(154頁)
訳:怒り狂ってWau-utaは食も喉を通らない。文句を垂れて一晩中Haburiを悩ませた。しかし翌日も同じやり方で獲物を分配した。Wau-utaはHaburiから離れず、罵詈と雑言で休む間も与えなかった。
注:短い文の中で分配に軽重を付ける仕組みを変えないと強調している。
Haburiは成人である。もう母方に依存しない。若者は配偶と決めた娘に笛を吹き、関心を引き、獲物をせっせと運ぶ(婿のprestation)。獲物の分配でその嵩に差を付けて多くを与えたなら、多い方が求愛の対象である。出会いの場面を振り返ると、若者に化けて最初に目にした妙齢の女の二人。その女達がHaburiの姿に心を奪われたが、Haburiにしても大変気になった。この印象と互いが秘めた交情は、笛の出会いのあの場面にすっかり見えている。この心は変わらないうえ、Wau-utaが実はカエルと聞いたら見切りもついた。若い方の二人に獲物をいっぱいあげて、関心を引こうと。母と伯母だとカワウソ伯父から教えられたけれど、18女が16歳の若者を息子とする理屈はないーとの合理判断もあったろう。
一方で、Wau-utaの怒り方は尋常ではないWau-utaは食と性、そして愛まで失ったからこそ、かくも怒ったのだ。
彼はカエルの館を去ると決めた。
Haburi faconna une pirogue en cire d’abeille ; un canard noir la lui vola pendant la nuit.
訳;まず蜜蝋を固めて小舟(pirogue)を作った、夜に黒い鴨が盗んだ。
小舟を作っては鴨に盗まれるエピソードが続きます。Warrau族では鴨が水に浮かびスイと泳げるのは身体にpirogueを持つとの言い伝えがある。Haburiから盗んだ舟だ。
最後に託した小舟の作りかけが一夜で巨大になった。二人の婦人にマニオックを積み込むと命じた。
婦人は=les femmesと書かれている。femmeには女と夫人(epouse配偶者)があるとして(robertではこの語の説明に6頁を費やしているからもっと多いが)この場合、婦人か配偶か、投稿子はこれを配偶ととりたい。出会いと分配で優位の筋の流れが、息子と母伯母の同盟(結婚)を予兆させていた。これに加えて、逃避行とは必ず配偶同士で逃げる。同盟を成就させたいとの逃避は「駆け落ち」、Haburiは母伯母の二人と駆け落ちを仕組んだ。
ちなみに一家、親子で逃げるのは借金苦の夜逃げと伝わる。
pirogueとは南米で使われる小舟、Haburiは幾艘か作成したが、一隻を除いて鴨に盗まれた。Warrauがこの小舟しか製作できないのは鴨のせいだと伝えている。
船出の間際にWau-utaが押しかけた。
Mon enfant! Mon enfant, Ne me quitte pas! Je suis ta mere>>
訳;子よ、私の子よ、離れないで、お前の母なのだ(155頁)
船出を止めると舷に掛けた手を、女の二人が櫂で叩いてもWau-utaは離れなかった。Haburiは出発を諦めざるを得ない。HaburiとWau-utaは森に入った。頃合いの木を探し出したHaburiが幹を抉った。内部は空洞、覗けば蜜がたっぷり蓄えられていた。Wau-utaは蜜に目がない。すぐに飛び込んだ。蜜を貪るWau-utaを閉じ込め、Haburiは岸に戻って出立した。
後日譚、
Wau-uta la grenouille, qui crie seulement dans les arbres creux. Regardez-la bien : vous verrez ses doigts aux etremites ecrasees par les coups quand elle cramponnait au plat-bord. Ecoutez-la, vous l’entendez pleurer son amant perdu : Wang! Wang! Wang!(155頁)
訳:カエルWau-utaは木の洞でしか泣かない。よく見てご覧、そこだ。指の先が破壊されているのが分かるだろう、しがみつき船縁に掛けた手を叩かれた名残だ。その嘆きを聞いてご覧、愛人を奪われた女の泣き声、ワン!ワン!ワン!
Wau-utaの心境をレヴィストロースは以下に語ります。
Cette histoire d’un garcon recueilli par une protectrice pleine d’arriere pensees, qui commence par jouer les meres avant de s’installer dans le role d’une vielle maitresse, mais en prenant soin qu’une certaine equivoque subsite sur ses sentiments ambigues, il faudra attendre les Cofessions pour que notre literature ose l’aborder.
訳;少年を女性の保護者が引き取る、そして女性は下心を隠し持つ。母の役割から始めるが、そのうちに訳知りの愛人の役を担うという。しかし母性か性かの愛の相克、どっちつかずに揺れる感情を鑑みると、私たち(西洋)の文学がここを掘り下げるにはルソーの告白録を待たねばならない。
Madame De Warensとルソーの出会い、愛の生活、そして別れ。これをWarrau族少年の冒険と重ねました。
次回は1~11のまとめ、カエルの饗宴の最終回となります。
神話「蜜から灰へ」を構造主義で分析する 11 の了
カワウソ(loutres、文中は複数形で出ている)はHaburiの伯父(達)、川辺で狩の一休みにHaburiが捻ったクソの匂いを嗅ぎつけて、若者Haburiは実は甥、本来の歳では赤ちゃん。
Elles (=カワウソloutres は女性形なのでelles彼女たちだが伯父達) lui dirent toutes ses verites : il menait une vies depravee.
カワウソはHaburiすべての真実を伝えた。若者となってWau-utaを母(=愛人)としているのも、狙いを外さない狩の技術もすべてカエルの魔法と教えた。彼は堕落した生をおくっていたのだ。
その夕に戻ってからは大きな獲物は母と伯母に、Wau-utaには小さな獲物しか渡さなかった。
形容詞depraveはamoral、immoralとあるので背徳の意が強い。個々の行動で堕落しているではなく、あってはならない反道徳の習慣に浸っている。語り口ではWa-utaを母と規定するが、実際は愛人。すると血族ではなく同盟の関係になる。これがあってはならないと神話は語る。その理由をレヴィストロースは以下に説明している。
カエルと人の媾合が背徳なのか。異種交渉は獣婚とも伝わる風習である、部族によって禁忌とされる。しかしここでは理由ではない。既に取りあげたMabaは蜂、Adabaはカエルであった。ひとえにWau-utaがvieille femme(老女)であるからである。歳の離れた同盟は祝福されない、中世ヨーロッパではそのような婚姻には夜引いての大騒ぎ(vacarme)で呪われる。そうした同盟は再生産を産み出さない(子供が出来ない)からもあるが、老人が若い娘を娶ると(逆もしかり)、一人の若者(娘)の婚姻の機会を奪うからである。Haburiの背徳はWau-utaが老いていたからである。
Wau-utaは怒った。
Elle etait si furieuse qu’elle ne put rien manger, et pendant toute la nuit elle accabla Haburi de ses recriminations. Mais le lendemain, celui-ci disstribua de la meme faconsa chasse aux trois femmes et Wau-uta ne le laissa pas en repos.(154頁)
訳:怒り狂ってWau-utaは食も喉を通らない。文句を垂れて一晩中Haburiを悩ませた。しかし翌日も同じやり方で獲物を分配した。Wau-utaはHaburiから離れず、罵詈と雑言で休む間も与えなかった。
注:短い文の中で分配に軽重を付ける仕組みを変えないと強調している。
Haburiは成人である。もう母方に依存しない。若者は配偶と決めた娘に笛を吹き、関心を引き、獲物をせっせと運ぶ(婿のprestation)。獲物の分配でその嵩に差を付けて多くを与えたなら、多い方が求愛の対象である。出会いの場面を振り返ると、若者に化けて最初に目にした妙齢の女の二人。その女達がHaburiの姿に心を奪われたが、Haburiにしても大変気になった。この印象と互いが秘めた交情は、笛の出会いのあの場面にすっかり見えている。この心は変わらないうえ、Wau-utaが実はカエルと聞いたら見切りもついた。若い方の二人に獲物をいっぱいあげて、関心を引こうと。母と伯母だとカワウソ伯父から教えられたけれど、18女が16歳の若者を息子とする理屈はないーとの合理判断もあったろう。
一方で、Wau-utaの怒り方は尋常ではないWau-utaは食と性、そして愛まで失ったからこそ、かくも怒ったのだ。
彼はカエルの館を去ると決めた。
Haburi faconna une pirogue en cire d’abeille ; un canard noir la lui vola pendant la nuit.
訳;まず蜜蝋を固めて小舟(pirogue)を作った、夜に黒い鴨が盗んだ。
小舟を作っては鴨に盗まれるエピソードが続きます。Warrau族では鴨が水に浮かびスイと泳げるのは身体にpirogueを持つとの言い伝えがある。Haburiから盗んだ舟だ。
最後に託した小舟の作りかけが一夜で巨大になった。二人の婦人にマニオックを積み込むと命じた。
婦人は=les femmesと書かれている。femmeには女と夫人(epouse配偶者)があるとして(robertではこの語の説明に6頁を費やしているからもっと多いが)この場合、婦人か配偶か、投稿子はこれを配偶ととりたい。出会いと分配で優位の筋の流れが、息子と母伯母の同盟(結婚)を予兆させていた。これに加えて、逃避行とは必ず配偶同士で逃げる。同盟を成就させたいとの逃避は「駆け落ち」、Haburiは母伯母の二人と駆け落ちを仕組んだ。
ちなみに一家、親子で逃げるのは借金苦の夜逃げと伝わる。
pirogueとは南米で使われる小舟、Haburiは幾艘か作成したが、一隻を除いて鴨に盗まれた。Warrauがこの小舟しか製作できないのは鴨のせいだと伝えている。
船出の間際にWau-utaが押しかけた。
Mon enfant! Mon enfant, Ne me quitte pas! Je suis ta mere>>
訳;子よ、私の子よ、離れないで、お前の母なのだ(155頁)
船出を止めると舷に掛けた手を、女の二人が櫂で叩いてもWau-utaは離れなかった。Haburiは出発を諦めざるを得ない。HaburiとWau-utaは森に入った。頃合いの木を探し出したHaburiが幹を抉った。内部は空洞、覗けば蜜がたっぷり蓄えられていた。Wau-utaは蜜に目がない。すぐに飛び込んだ。蜜を貪るWau-utaを閉じ込め、Haburiは岸に戻って出立した。
後日譚、
Wau-uta la grenouille, qui crie seulement dans les arbres creux. Regardez-la bien : vous verrez ses doigts aux etremites ecrasees par les coups quand elle cramponnait au plat-bord. Ecoutez-la, vous l’entendez pleurer son amant perdu : Wang! Wang! Wang!(155頁)
訳:カエルWau-utaは木の洞でしか泣かない。よく見てご覧、そこだ。指の先が破壊されているのが分かるだろう、しがみつき船縁に掛けた手を叩かれた名残だ。その嘆きを聞いてご覧、愛人を奪われた女の泣き声、ワン!ワン!ワン!
Wau-utaの心境をレヴィストロースは以下に語ります。
Cette histoire d’un garcon recueilli par une protectrice pleine d’arriere pensees, qui commence par jouer les meres avant de s’installer dans le role d’une vielle maitresse, mais en prenant soin qu’une certaine equivoque subsite sur ses sentiments ambigues, il faudra attendre les Cofessions pour que notre literature ose l’aborder.
訳;少年を女性の保護者が引き取る、そして女性は下心を隠し持つ。母の役割から始めるが、そのうちに訳知りの愛人の役を担うという。しかし母性か性かの愛の相克、どっちつかずに揺れる感情を鑑みると、私たち(西洋)の文学がここを掘り下げるにはルソーの告白録を待たねばならない。
Madame De Warensとルソーの出会い、愛の生活、そして別れ。これをWarrau族少年の冒険と重ねました。
次回は1~11のまとめ、カエルの饗宴の最終回となります。
神話「蜜から灰へ」を構造主義で分析する 11 の了