蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

カエル伝授の弓術と無回転シュートの共通 2

2022年02月25日 | 小説
(2022年2月25日)序、序の補遺、第一回の 3回投稿で獲物への直接照準を避ける狩りの技法を紹介した。その説明には自然との直接(対極polaire)対決を避ける人の、文化側からの倫理が認められるとした。南米先住民の多くは狩猟と採取で生活する(していた)。それだけに獣を育てる自然への崇敬、畏怖を有している。そうした感情から獣を狩る技法にも、自然への気配りを絶やさないのかと思う。
これを踏み外した狩人には懲罰が控える。幾つかの例をレヴィストロース著作から拾い上げると;
1 夜の狩り
夜の狩りを専らとする狩人に木の精霊が怒り、留守宅に押し入るとした。居合わせた妻を殺害し四肢バラバラにした « Un indien, qui aimait chasser de nuit, excita la colère des esprits des bois. Ils décidèrent de profiter des absences du chasseur pour envahir chaque nuit. Là, ils dépeçaient le corps de sa femme »
狩人の戻る太鼓(大猟の報せ)が聞こえた。精霊は四肢、腹、頭などを個々に捨て散らかして逃げ去る。追いかける狩人に妻の頭が跳びついて狩人を肩からかじりついた(M364転がる首神話、Uitoto族伝承、食事作法の起源42頁)。
2 狩りすぎ
その狩り行はまさに虐殺であった。仕留められた獣の脚、頭、毛皮、内臓が露営地に乱れ転がっていた。少年は男たちが狩りに出ている間、獣肉の燻製にたずさわっていた。突然、男が湧き上がるかに出現し仕留められた獣を検分し始めた。不機嫌そのものの表情であった。ハンモックを数えて消えた« Soudain , il vit surgir un inconnu qui inspecta le gibier d’un air mécontent, compta les hamacs et s’en fu »。少年はこの目撃の仔細を男たちに告げた、誰も「寝ぼけていたのだ」と聞く耳を待たなかった。父親だけは理解して、二人だけ「ハンモックを外した上で」露営地外で一晩を過ごすと決めた。寝付くまもなく露営小屋からは男たちの悲鳴が聞こえた。 « C’était le Curupira et sa bande, esprits protecteurs de gibier, qui massacraient les chasseurs irrévérencieux » Crupiraとその手下、獣たちの護り霊、彼らが不遜な狩人を虐殺したのだ(M391転がる首神話 Tembe族伝承 食事作法の起源73頁)。


Curupiaは獣たちの守護神

(図はWilipedia からCurupira watching a girl sleep, O Curupira - Lenda Amazônica - Brasil, by Manoel Santiago, 1926)


3 不遜
紐縄猟に携わる男、ここしばらく運から突き放されて大物が獲れない。他の狩人はそこそこの猟を挙げているにもかかわらず、彼だけがSiaba一羽(griveツグミ)の貧果に終わった。男はそのツグミに怒りをあてつけた。くちばしを無理やり開け、屁を放ってから開放した 。« Il ouvrit de force le bec de l’oiseau, péta dedans et relâcha le bestiole » その晩から男が狂った、休みなく口を開いては蛇、雨、終いにはアリクイの首まで喋った(アリクイには首がない、無いことを話すとは「死んだも同然」とみなされ、村人は総出で喋り続け抵抗する男を埋葬した(M240キチガイ狩人、Tukunaザク伝承、蜜から灰へ151頁)。


小動物も自然の恵み、崇敬を欠いてはならぬ。うずらの類(生と調理の挿絵から)

4 大型獣への配慮
ジャガーをむやみに狩猟してはならない。死者が出たときにのみに許される、これはボロロ族しきたりです(悲しき熱帯から)。大型獣としてバク、オオアリクイなどにも狩りを戒める部族規制が設けられているようだ。南米先住民の民族誌資料に接する術を部族民蕃神は持たないから、このあたりは悲しき熱帯の記述を通しての拡大解釈です。
カエル伝授の弓術と無回転シュートの共通 2 了(2022年2月25日)



追:南米先住民の自然崇敬は日本人にも一脈通じるところがあるかと思います。マタギの習俗に入山する前に穢れを祓う、入山する手順を守る。仕留めた獣には成仏を願い手を合わせる。山の神への感謝を忘れないなどが、距離を隔てても奇妙に似通います。
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