蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

カエル伝授の弓術と無回転シュートの共通 3

2022年02月28日 | 小説
(2022年2月28日)レヴィストロース著の「蜜から灰へ、Du miel aux cendres」(神話学4部作第2巻、1967年刊)収録の(M237カエルAdabaの話、Arawak族伝承)紹介を続ける。
矢を中空に放つ技術がカエルから伝授され、これを持って狩猟にあたれば大猟は間違いない。そのうえ獣らからの恨みを買うも避けられる。カエル神話が南米に広まっている(た)事実には人と自然の共存、人(狩人)の自然(獣)への崇敬が根底にあったからであろう。
別の観点、技術面から放物落下の有効性を探る;
気づかれずに狩人が獲物に近づける距離はどれほどか。そこから半歩でも距離を縮めたら人の気配が獲物に気づかれ、逃げられてしまう。これを限界距離とする。日頃の成功、失敗の繰り返しで身につける技術です、これを体得して腕の良い狩人に成長する。
限界と見極めたらそこが矢を射る絶好の地点。藪から立ってすかさず矢を放つ。狩人の極意は限界を知ると見つけた。
獲物にして警戒怠らないから、狩人が構える姿を認め、矢がこちらに向かってきたらとっさに回避する。機敏反応が獣の防衛の技、蹴爪で蹴って一の跳躍が矢をかわしたら逃げおおせる。矢の速度が獣の一歩を凌げば、矢を食らう。

ボロロ族若者。獲物はオオハシ4羽、見せつけられた相手は「俺だってそれくらい」と言いたげ。若者同士は友人でありライバルでもある(写真はレヴィストロース著作からデジカメ)。


距離、逃げの瞬発、射掛ける矢の速さ。3要素の絡まりで仕留められるか逃げおおせるか、命の境目がここにせめぐ。しかしカエル伝授の矢の中空放ち技法が、狩り舞台の三つ巴をすっかり変えてしまった。獣の視点でカエル技法の矢の軌跡を再現すると;
野ブタ「人が立つ気配を感じた。30メートルほどだな、危ない距離だ。奴め矢を放ったぞ、ヒューイの風切り音まで聞こえる、逃げようか。でも矢はこっちに向かってこない。なんて下手な狩人なのだ、空の上に矢が飛んで、すっかり消えたじゃないか。俺は芋食みを継続する」
それもつかの間、とんでもない方向、空の上から矢が落ちてきた。背骨がバッシと砕かれたら「キュー」で「バッタン」野ブタの末期の情景は判断狂い油断の様でした。矢の飛び方が目眩まし。とんでも方向が油断を誘い、気づいたときには手遅れ、カエル伝授の中空狙いが獣錯乱の最期を招いた。
サッカー無回転シュートでこの目眩ましが威力を発揮している。
サッカースタジアムに移動する。
普通のボールの蹴り方、これは足先に捻りを入れて、球の中心を指一本外して蹴る。ボールに回転を与えるためだ。狙う先はゴールの枠内。
ボールが飛翔するにつれ前面にこびりつく空気はボール表層の回転に合わせ、表層沿いに移動する。これで前方空気が後方に誘導される。ボール後ろに空気が潤沢に供給されるからキャビティ(減圧空隙)が形成されない。引き戻し抵抗がそれだけ軽減される、ボールは勢いを保ち直線の軌道を取り続け、ゴールにまっしぐら。
キーパーが見たこの球筋は;
「キックした、ゴール枠を捉えている、速い。でも到達するのはこの辺り」予測できるから身を動かす。ボールスピードとキーパーの移動時間の見比べで、ボールは弾かれるのかネットを揺らか。速度の勝負である。
無回転シュートとは、
ボール中心を素直に捻り付けずまっすぐ、強く蹴る。狙いはゴールではない、はるか上空。ボールはねじりを与えられてないから、跳ね上がり、勢いよくひたすら中空に向かう。中心を蹴飛ばされたからボールは回転しない。表面も回転しない、前にはだかる空気を後側に移動させる仕組みがない。ボール後ろにキャビティが発生する。前方に空気壁、後ろには減圧。前と後の気圧差は、距離が伸びるにつれいや増しに増大する。蹴られた直後は高速で飛翔するのだが、抑えられ引っ張りられての二重苦にボールの速度はすっとん、低下する。
ゴール枠の上方を飛び越える軌道だったのが、突然、落下に軌道が修正される。キーパーが気づいた時点でボールはゴール枠の直前、遅かった、ネットが揺れた。3 の了(2022年2月28日)

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