蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

Anthropologie Structurale構造人類学の紹介 第2部 神話の構造 中

2023年02月21日 | 小説
(2023年2月21日)エディプス神話群の筋は4の柱に分解される。同じ柱での事象は一の特質で関連付けられる。その特質を探し出すことが解釈となる。両端の柱を採り上げると、左と右では相容れない世界、その自律で一方向に結晶化する「結界」を表している。図参照


写真は本書236頁のデジカメ


図に再現した

左端の柱の特質は ;  « rapports de parenté sur-estimés » 近すぎる近親関係。
« Tous les incidents réunis dans la première colonne à gauche concernent des parents par le sang, dont les rapports de proximité sont exagérés : ces parents font l’objet d’un traitement plus intime que les règles sociales ne l’autorisent » (232頁) 左端の柱それを探ると血縁関係、その強すぎる接近を示す。社会規則がそれを認めない程の親密なつながりを持つ血族となる。
この柱のなかで表現されている行動 ; 拐かされた妹エウロペ―をカドモスが探すー誘拐現場は侍女らに目撃されている。牡牛に乗って海に消えたーこの状況からゼウス(牡牛の遣い手、時には本人)が拐ったー浮かび上がる。神隠しならば探しようが無いのだけれど、「近すぎる近親関係」の為せる熱意か、カドモスは勇んで捜索に出る。同柱の下部、エディプスが母イオカステーを知るは近すぎる関係の最たる結末。アンティゴネーが、己の死を賭してまでも兄ポリュネイケースを葬るも同じく「近すぎる近親関係」を示唆している。
(カドモス・エウロペー、アンティゴネー・ポリュネイケースの兄妹関係の近すぎる中身とは。ソフォクレスは何も語らない、しかし近親姦を示唆する濃さは読み取れる。原典にも派生異聞にも現れない筋道を創造するわけにいかないから、レヴィストロースは兄妹関係に何も語らない。しかしエディプスと対をなす神話として次章で採り上げるPueblo族(北米先住民)神話では、兄妹の近親姦が文化創造の節目となる役割を果たしている。この采配を勘ぐるとカドモス・エウロ…などにそれなりの関係があったとレヴィストロース、本書は示唆する、と部族民は読む)
一方、右端の柱は近親関係を否定する男たちが配される。そこに « les hommes naissent de la Terre » 男は「大地から生まれる」なる思想が秘匿される。(カドモスの子孫となる)ラダコス、ライオス、エディプスの系統を特徴づける「足の不自由」を「大地生まれ」にレヴィストロースは結び付けている。そして右端の柱は固有名詞のみで構成されている。固有名詞そのものにもtrait特質があるとする。この足の不自由をしてこれら男(王)の大地出自は証明されるとしている。
「男は大地から」は突拍子もない説に聞こえるが、レヴィストロースの創作ではない。238頁の脚注でギリシャ神話研究家のMarie Delcourt女史の説を引用している。 « Dans les légendes archaïques, ils (hommes) naissent certainement de la Terre elle-même » 古代伝説では男は大地から生まれる。古代に広まっていた信心、男女の関係を地と空に喩える説(古代の言い伝え)から発展したと同女史の解釈を引用する(238頁)。
大地生まれに « autochtonie » の語をレヴィストロースは当てる。訳として土着、対比される語は « indigène » となるが、後者は未開 « primitive » の流れを汲むので訳に「先住民」が用いられる。前者の土着は民族大移動前からヨーロッパの現地に居住していた古族とされるゴール人、ブルトン人、バスク人などへの使用を見かける(時には田舎のヒト)。
この語の意義を辞書に尋ねると « issu du sol même où il habite » 自身が住む土から「出た」人とある(語源の古ギリシャ語の解釈、Le Robertによる)。「出た」の意味を順当に解釈すれば「そこから抜け出た、生まれた」となる。よって「大地の生まれ」を訳に当てた、レヴィストロースも語源に戻って「大地から生まれた」と解釈する。この生まれを素直に、物理的に生まれると解釈したい。日本語の「産土」ウブスナとも比定できる。 
(Le Robertを開くと « être né de la Terre » が第3義にでてくる。引用元を本書238頁としている。レヴィストロース解釈が仏語圏で認められている証と考えます)
脇道にそれるが興味深い一節を ; « Les linguistes n’y prêtent guère d’importance puisque le sens d’un terme ne peut être défini qu’en remplaçant dans tous les contextes où il est attesté. Or, les noms propres sont hors contexte. 言語学者は(エディプス神話解釈で)この部分(王の名)に関心を持たなかった。彼らは言葉の意味とは文脈の中での絡まりから探るけれど、固有名詞はそこからは外れるので注意を持たなかった。
Anthropologie Structurale構造人類学の紹介 第2部 神話の構造 中の了(2月21日)
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