(2023年3月30日)救出当夜、リーダーの事情説明にはそれなりに納得するのだが、幾つか不審が浮かび上がる。夜な夜な垣間見える不気味な火影との関係が説明されていない、なぜ彼だけが嵐に巻き込まれたのか、それもこの年の初めての嵐、いかにも彼を狙い撃ちにしたかの疑念に応えていない(出来事に対する族民の思考過程を部族民・渡来部が詮索しての推理です。本文にはこうした記載はありませんが次の文に繋がります)
« A quelques jours de la cependant, une autre version de ces prodigieux événements commença d’être colportée par certain indigènes. ---- Voici ce qui se disait de bouche à oreille… »
幾日かが経過、しかしながらリーダーの、神がかりとしか説明できない災難に別の筋立てが露営地に広まった。口から耳へと囁かれる中身は―
« Le sorcier, celui-ci, empiétant sur les attributions de son collègue le chef politique, avait voulu prendre contact avec ses anciens compatriotes, pour solliciter un retour au bercail, ou encore pour les rassurer sur les dispositions de ceux-ci à leur égard ; quoi qu’il en soit, il avait eu besoin d’un prétexte pour s’absenter, et l’enlèvement par le tonnerre, avec la mise en scène subséquente, avait été inventés dans ce but » (同)
魔術師。彼は、かねがねリーダーの特権を縮小させむと躍起になっていた。かつての知り合い仲間に連絡を取って、古巣に戻るか彼らをして今の族民を取り仕切るかを謀るか、願いがいかなるにしても彼は露営地を離れ(不気味な火影の元の地に)赴く要があり、嵐を起こした。ついでにリーダーを巻き込んだ寸劇を演出したのだ――との噂が広まった。

南米先住民はすべてハンモックを吊って寝る。唯一の例外がNambikwara族。移動(nomade)生活にそれを持ち歩けないから。このようにして地べたで就寝する。写真はレヴィストロースの著作からデジカメ。

この前節に当Nambikwaraバンドの生い立ちが紹介されている。もともと自立していた集団に、疫病で構成が減少し自立バンドを組めなくなった別の集団が吸収された。合併はそれほどの過去ではない。その証左に両者間での子息子女の婚姻はまだ一例も成立していない、同じ言語(Ge語族の一流のNambikwara語)ながら方言の隔たりが強いなどレヴィストロースが観察している。
吸収した側がリーダー、政治的社会的指導者、を立て、吸収された側は祭儀を執り仕切る魔術師 « sorcier » を出している。リーダーは快活強靭と前述したが、これら資質は乾季の移動生活(狩猟を兼ねた行程の選択、そして採取の露営の立地を誤れば飢餓に直結)の牽引役として不可欠であり、適任ぶりが窺える描写も加わる(悲しき熱帯から)。人望も厚かったであろう。それ故、夜毎ちらつく露営の火影はなんとも不気味。
« Il n’avait pas volé sur les ailes du tonnerre jusqu’au rio Ananaz, et tout n’était que mise en scène. Mais ces choses auraient pu se produire, elles s’étaient effectivement produites dans d’autres circonstances, elles appartenaient au domaine d’expérience »
魔術師が嵐に乗ってAnanaz河にまで飛んでいった訳では無い。そのような情景が浮かんだだけであろう。しかしその出来事(choses=モノ)はあり得たかも知れない、それらは(聞き知った)他の環境の中にでも起こり得ただろうから。経験の範囲でそうした事を知っているのだ。
これ以上を語らないから以下はレヴィストロースの行間を推理して ;
山間に見え露営の火の主は魔術師集団がかつて親交していた部族。魔術師は嵐を引き起こし風に乗って、そこRio Ananazまで飛んで行った。出向いた理由は先方部族と交渉するため。リーダーを拐った訳は、災難を演出して彼の人望を失墜させる目論見。己にしてはNambikwara 露営地に帰らなければ怪しまれるから、リーダーを抱えて戻って手前で落とした。この長い空中道のりでリーダーは衣服をすっかり剥ぎ取られ、見るも恥ずかしく放置された。
(彼らの着衣は腰帯と腕輪のみ、究極の軽装ながらこの小片を着しなければ全裸とみなされる。背広ズボンを常備衣と心し、身から離したことのないサラリーマンが突風に巻かれ、全裸で中央線の特快車内に投げ出されたと同じ屈辱を受けたこととなる。衣の重ねの薄さか厚さで文化を論じなさるな。着衣とは象徴なのだ、くれぐれも心せよ=少し外れた)
次の一文 « On eut beaucoup étonné les sceptiques en invoquant une supercherie si vraisemblable, et dont ils analysaient les mobiles avec beaucoup de finesse psychologique et de sens politique en cause la bonne foi et l’efficacité de leur sorcier » 訳:そんな話あるものかと疑う人たちに、この作り話がいかにも起こりうると湧き立て、それらの「移動les mobiles」には心理学的、政治的入念さを散りばめて魔術師の確信と効果を織り込んだ(188頁)。
構造人類学を読む、出来事の由来 中の了(3月30日)
« A quelques jours de la cependant, une autre version de ces prodigieux événements commença d’être colportée par certain indigènes. ---- Voici ce qui se disait de bouche à oreille… »
幾日かが経過、しかしながらリーダーの、神がかりとしか説明できない災難に別の筋立てが露営地に広まった。口から耳へと囁かれる中身は―
« Le sorcier, celui-ci, empiétant sur les attributions de son collègue le chef politique, avait voulu prendre contact avec ses anciens compatriotes, pour solliciter un retour au bercail, ou encore pour les rassurer sur les dispositions de ceux-ci à leur égard ; quoi qu’il en soit, il avait eu besoin d’un prétexte pour s’absenter, et l’enlèvement par le tonnerre, avec la mise en scène subséquente, avait été inventés dans ce but » (同)
魔術師。彼は、かねがねリーダーの特権を縮小させむと躍起になっていた。かつての知り合い仲間に連絡を取って、古巣に戻るか彼らをして今の族民を取り仕切るかを謀るか、願いがいかなるにしても彼は露営地を離れ(不気味な火影の元の地に)赴く要があり、嵐を起こした。ついでにリーダーを巻き込んだ寸劇を演出したのだ――との噂が広まった。

南米先住民はすべてハンモックを吊って寝る。唯一の例外がNambikwara族。移動(nomade)生活にそれを持ち歩けないから。このようにして地べたで就寝する。写真はレヴィストロースの著作からデジカメ。

この前節に当Nambikwaraバンドの生い立ちが紹介されている。もともと自立していた集団に、疫病で構成が減少し自立バンドを組めなくなった別の集団が吸収された。合併はそれほどの過去ではない。その証左に両者間での子息子女の婚姻はまだ一例も成立していない、同じ言語(Ge語族の一流のNambikwara語)ながら方言の隔たりが強いなどレヴィストロースが観察している。
吸収した側がリーダー、政治的社会的指導者、を立て、吸収された側は祭儀を執り仕切る魔術師 « sorcier » を出している。リーダーは快活強靭と前述したが、これら資質は乾季の移動生活(狩猟を兼ねた行程の選択、そして採取の露営の立地を誤れば飢餓に直結)の牽引役として不可欠であり、適任ぶりが窺える描写も加わる(悲しき熱帯から)。人望も厚かったであろう。それ故、夜毎ちらつく露営の火影はなんとも不気味。
« Il n’avait pas volé sur les ailes du tonnerre jusqu’au rio Ananaz, et tout n’était que mise en scène. Mais ces choses auraient pu se produire, elles s’étaient effectivement produites dans d’autres circonstances, elles appartenaient au domaine d’expérience »
魔術師が嵐に乗ってAnanaz河にまで飛んでいった訳では無い。そのような情景が浮かんだだけであろう。しかしその出来事(choses=モノ)はあり得たかも知れない、それらは(聞き知った)他の環境の中にでも起こり得ただろうから。経験の範囲でそうした事を知っているのだ。
これ以上を語らないから以下はレヴィストロースの行間を推理して ;
山間に見え露営の火の主は魔術師集団がかつて親交していた部族。魔術師は嵐を引き起こし風に乗って、そこRio Ananazまで飛んで行った。出向いた理由は先方部族と交渉するため。リーダーを拐った訳は、災難を演出して彼の人望を失墜させる目論見。己にしてはNambikwara 露営地に帰らなければ怪しまれるから、リーダーを抱えて戻って手前で落とした。この長い空中道のりでリーダーは衣服をすっかり剥ぎ取られ、見るも恥ずかしく放置された。
(彼らの着衣は腰帯と腕輪のみ、究極の軽装ながらこの小片を着しなければ全裸とみなされる。背広ズボンを常備衣と心し、身から離したことのないサラリーマンが突風に巻かれ、全裸で中央線の特快車内に投げ出されたと同じ屈辱を受けたこととなる。衣の重ねの薄さか厚さで文化を論じなさるな。着衣とは象徴なのだ、くれぐれも心せよ=少し外れた)
次の一文 « On eut beaucoup étonné les sceptiques en invoquant une supercherie si vraisemblable, et dont ils analysaient les mobiles avec beaucoup de finesse psychologique et de sens politique en cause la bonne foi et l’efficacité de leur sorcier » 訳:そんな話あるものかと疑う人たちに、この作り話がいかにも起こりうると湧き立て、それらの「移動les mobiles」には心理学的、政治的入念さを散りばめて魔術師の確信と効果を織り込んだ(188頁)。
構造人類学を読む、出来事の由来 中の了(3月30日)