寒山指月図鐔(鐔の歴史)
金家の技術は、高彫象嵌の手法の特異性にある。共鉄象嵌(ともがねぞうがん)と呼ばれる手法で、鉄地の地面を鋤き込み、ここに鉄地別彫りの塑像を象嵌するのである。このような困難な技法を採らずに簡単な鉄地高彫をすればよいはずだが、何を思ったのか、厚さが一~二ミリの地面に主題を高彫象嵌しているのである。
甲冑師鐔と呼ばれる中に、構造的象嵌に似た困難な手法を駆使した作があることを紹介したことがある。放射状の筋を用いて切羽台と耳を繋ぎ合わせる技法である。何もそのようなことをせず、単に透かしを施せば良いであろうにと思うのだが、実際に面倒なことをしているのである。意識は全く同じだ。実用の上では、耳と切羽台とを鉄地とはいえ筋状の金具でつなぎ合わせた鐔などは、万が一にも打ち込まれたなら、耳、地面、切羽台いずれもが一体の鐔に比してバラバラに壊れてしまう可能性が高い。
これらの工法になる鐔は甲冑師がその技術を誇示するために製作したもの。金家もまた自らの象嵌技術を誇示するために面倒な工法を採ったと想像されるのである。ところが、後の金家写しの金工は、金家の意を汲み、象嵌を再現することはなかった。真意に気付かなかったのかもしれない。鐔が漂わせる風趣の魅力にのみ惹かれたのであろう、象嵌の技法を採った例は少ない。


寒山指月図鐔 山城國伏見住金家
二つ木瓜形の造り込みは特異で、それ以外は、薄手、打返耳、鎚の痕跡を生かした地面、象嵌、総体の風趣、総てが金家の作風。絵画的な志向がより強くなっていることが窺え、表現技法も毛彫だけでなく鏨の打ち込みによる樹相の表現も進んでいる。
金家の技術は、高彫象嵌の手法の特異性にある。共鉄象嵌(ともがねぞうがん)と呼ばれる手法で、鉄地の地面を鋤き込み、ここに鉄地別彫りの塑像を象嵌するのである。このような困難な技法を採らずに簡単な鉄地高彫をすればよいはずだが、何を思ったのか、厚さが一~二ミリの地面に主題を高彫象嵌しているのである。
甲冑師鐔と呼ばれる中に、構造的象嵌に似た困難な手法を駆使した作があることを紹介したことがある。放射状の筋を用いて切羽台と耳を繋ぎ合わせる技法である。何もそのようなことをせず、単に透かしを施せば良いであろうにと思うのだが、実際に面倒なことをしているのである。意識は全く同じだ。実用の上では、耳と切羽台とを鉄地とはいえ筋状の金具でつなぎ合わせた鐔などは、万が一にも打ち込まれたなら、耳、地面、切羽台いずれもが一体の鐔に比してバラバラに壊れてしまう可能性が高い。
これらの工法になる鐔は甲冑師がその技術を誇示するために製作したもの。金家もまた自らの象嵌技術を誇示するために面倒な工法を採ったと想像されるのである。ところが、後の金家写しの金工は、金家の意を汲み、象嵌を再現することはなかった。真意に気付かなかったのかもしれない。鐔が漂わせる風趣の魅力にのみ惹かれたのであろう、象嵌の技法を採った例は少ない。


寒山指月図鐔 山城國伏見住金家
二つ木瓜形の造り込みは特異で、それ以外は、薄手、打返耳、鎚の痕跡を生かした地面、象嵌、総体の風趣、総てが金家の作風。絵画的な志向がより強くなっていることが窺え、表現技法も毛彫だけでなく鏨の打ち込みによる樹相の表現も進んでいる。