「イギリスって言えば・・・・・酔漢!聞いてる?」
おおた君の声が聞こえました。
「おまぇなぁ、さっきからぼーーってしいるぅ」
猫写真家君と、わしあし君の声。
このミィーティング。実は疲労困憊のうちに出席しております酔漢でございます。
何って?夏休み終了後すぐの集まり。
酔漢はその週の初めに山から降りて来たばかりでした。
大学時代、二足どころか三足の草鞋を履いておりました。
落語は、相当語ったところです。
そして、今語っております「演劇同好会」
もう一つが「国立花山少年自然の家」でのボランティア活動。
夏休みの最中は二週間と少し、少年自然の家でキャンプ場の管理とか、子供たちへの指導とかさんざん身体を使いまくった後の事だったわけです。
「おまぇねぇ、やりたいことたくさんやりすぎて、全部が中途半端になったらどうすんのヨ!」
わしあし君の訴え。
「んだども、全部大事にしてぇっちゃ」
で、いつもの答弁。
「台詞は覚えてきた?」
せっちゃんはこればかり。
「ちゃんと、キャンプ場の暗がりで練習してきたっちゃ!」
です。
そのおおた君の「・・・イギリスって言えば・・・・」から話しが逸れてしまいました。
「イギリスなんて行ったことある奴なんていないけど、一番近いのは酔漢か・・・・ダヨネ?」
「また、酔漢にスコッチの話しをさせるぅ!」
「じゃなくて・・・身内がイギリスに留学してたってこと」
「何!聞いたことねぇぞ」
「酔漢先輩!本当なんですか?身内って・・・・誰?」
「妹だっちゃ。去年、イギリスサフランバーデンさぁ短期留学してたべ」
「うそーーーーーーーーっつ!」全員の声。
またまた、お話しはそれることと相成りますが、我が妹君は英語が堪能でございまして、まして専攻が「英文学」。
語学修行というわけではないですが、イギリスへ留学しておった訳です。
「でもだぞ!酔漢が行ってたわけではないからなぁ。少しは役立つ(芝居に)情報でもあんのか?」
「俺だってしゃねぇおん。んでも、舞台装置や雰囲気なんかは、妹の話しさぁ聞いてみっぺ」でした。
舞台装置、大道具他、いその君が担当です。
「マホガニーって・・・食器棚ってあるけどさぁ?酔漢分かる?」
「色の黒い、重厚な質感のある食器棚なや。こいずは、なんじょして作っぺか?」
「イメージは黒檀・・・かな」
「色は近けぇべ、色塗っちまえぇばわかんねぇもんだべ」
写真のような配置図です。
当然、省くところは省いて作るわけですが、アガサの雰囲気を醸し出すのには、大変な労力を要しました。
大学キャンパス内で大工作業をするわけです。
壁紙をベニヤに張り付けて、柱の高さを見ながら、パーツとして作成。
それを前日、舞台に取り付けます。
小道具にしても、例えば、電気のスイッチはかなり頻繁に出てくる小道具なのですが、当時のイギリスの一般家庭にあるようなものを探さなくてはならなかったりするわけです。
当然、日本、仙台にあろうはずはなく、昔のスイッチ(昭和三十年代前半にあったようなもの)で代用です。
ソファは当然、革張りでなくては意味がなくて、これは中古品を誂えました。電気スタンドは、これは傘がやっかいでして、女性人の手作り。
みちよ、と、ともこの得意分野でございました。
と、舞台の方はああでもない、こうでもないと、おおた君やわしあし君の、非常に事細やかなご指摘にめげることなく、遅々とは言うものの、着々と進んではおります。
「メイクプランが出来ました」
これは、ロコちゃんとちえみの担当。
「酔漢君、やっぱり金髪ね!」
「白髪ではなかったのすか?」
「うーーん、少し、若作りで行こうかって、これはね、わしあし君の意向でもあるんだ」
せっちゃんの説明は、なんだか・・・・こう・・・。
「としお君はじょうずに髭生やしてね!」
「髭?やっぱりね。刑事=アガサとくれば、ポアロ的なイメージだもんな」
「おい、でもとしおに髭だろ?あんな感じで・・ポアロに似てなくもない」
「いや、これはイメージにぴったりな部分がある」
と、みなさん、かなり盛り上がってはおりますが・・・。
「酔漢君の金髪って・・・・・」
「酔漢先輩が・・・ですよね」
何故か、後輩共が一斉に見ております。
「何っしゃ!そげにおらいの金髪が見たいのすか?」
結果ですね、じつは、公演終了後、打ち上げに向かう道すがら。仙台は一番町を僕らは歩くわけです。
戦災復興記念館では時間の都合で、後片付けが、間に合わなくなりまして、メイクを落とす間がなかったわけです。
ですから・・・その、酔漢は金髪のまま、一番町を歩いていたわけです。
全員ですから、衣装とメイクはそのままだったのでした。
異様な集団!だったろうなぁ・・・。
舞台はまだ一幕。後半。殺人事件の現場に居合わせた、スタークエッダー(猫写真家)とローラ(みつえちゃん)
偽装工作に入ります。
スタークエッダー (死体の向こうへ行き)つまりです、僕らの考えている線でいけば、そのマックなんとかやら氏は復讐の一念に燃え、まなじりを決してとびこんでくるわけですから、当自分の銃を用意してくるという事になる。しかし、、それとは別の線からゆくと、けっこうもっともらしい状況が出来上がるわけです。この男が飛び込んでくる。リチードは、寝ぼけまなこで拳銃をひっつかむ。相手はそれを奪い取り、そして発射する。どうもいささか無理な設定ですが、まぁ少々のことは目をつぶるということにいたしましょう。いずれにせよ、どこかで危険を冒さなきゃならないんですから。(銃を車椅子の側のテーブルに置き、下手中央寄りへ来る)さてと、これであらゆる点を考慮したかな?そのつもりだが。彼が実際には十五分か二十分早く撃たれていたと事実は、警察がここに来るころには、左程目立たなくなっているはずです。この霧の中を、あの迷路ような道路を通ってここまでたどり着けるのは、そうたやすいことじゃないですからね。(カーテンをかかげて、弾痕をながめる)R・Wか。じつにいい。これがダメ押しをしてくれるはずだ。(カーテンをもとにもどして、舞台を横切って、ソファの下手端に坐る)銃声を聞いたら、あなたは騒ぎ立てて、ミス・ベネットでもだれでも、呼んでこられる人を呼んで、ここに降りてきてください。あなたの申し立てることは、なんにも知らないということ。いったんベッドに入ったが、ひどい頭痛で目がさめ、アスピリンをもらいにいった。それだけです。あなたの知っていることは・・・・・・分かりますね?(ローラ頷く)それ以外のことは、いっさい僕にお任せなさい。
どうです、元気が出てきましたか?
ローラ ええ。
スタークエッダー じゃあもう行って、やるべきことをやってください。
ローラ あなたは、あなたはこんなことなさるべきではありませんわ!じちゃいけないことです。巻き込まれちゃいけません!
スタークエッダー ここまできて、それを蒸し返すのよしましょう。人にはそれぞれ違った・・・ええと、さっきなんて言いましたっけね・・・・そう、ゲームの楽しみ方あるんです。あなたはご主人を射殺するというゲームを楽しんでいた。今、僕は、僕なりのゲームを楽しんでいるんです。今までずっとひそかなる願望をあたためていたんですよ。実際に探偵小説のような事件に出会ったら、自分がどうそれに対処できるか知りたいと願望をね。さぁ、今僕が話した事。やりとげられますか?
ローラ ええ
スタークエッダー
けっこう。あ、そうだ、時計を持っていますね。今何時になっていますか?
ローラ、腕の時計を見せる。
(それに自分の時計を合わせながら)十分前をちょっと過ぎたところか。じゃあ三分・・いや、四分時間をあげましょう。四分間で台所へ行き、そいつをボイラーにほうりこんで、二階へ行って、服を着替え、ミス・ベネットのところへ行く。出来ると思いますか。ローラ?
スタークエッダー(ローラが出て行った後に)彼女のジャケットがソファの上手側の腕ののっているのに気づき、呼び戻して、彼女のそれを渡し、も一度ほほえみかける。ローラは出ていき、その背後でスタークエッダーはドアを閉める。これからやるべきことを考えて、ちょっと立ち尽くす。ややあって、時計をみ、たばこ取り出す。上手、安楽椅子のそばのテーブルに行き、ライターを取り上げようとしたとき、目の前の書棚に飾られたローラの枠入りの写真に気づき、取り上げて、眺める。ほほえんで写真をもとにもどして、煙草に火をつけ、ライターはそのままテーブルに置く。ハンカチを取り出して、安楽椅子の腕や写真についているかもしれない指紋を拭い、椅子をもとの位置に戻す。灰皿からローラの煙草の吸殻を摘み上げ、ソファの手前を横切って、車椅子の側のテーブルへ行き、そこの灰皿から自分の煙草の吸殻を取り上げる。その後、スツールの向こうを通ってデスクに近づき、そのあたりに残っているかもしれない指紋をふき取ってから、はさみと便箋の綴りをもとにもどし、吸い取り紙の位置を直す。床を見回して、新聞の切れ端が落ちていないかどうかを確かめ、デスクの上に一片を見つけて、それをひねり、ズボンのポケットに入れる。下手ドアの側の明かりのスイッチ、およびデスクの椅子の指紋を拭い、デスクに置いた自分の懐中電灯を取り上げて、フランス窓に歩み寄ると、わずかにカーテンをかき分けて、窓越しに庭の小道を照らしてみる。
これだけかたければ、足跡は残らんな
懐中電灯を車椅子のそばのテーブルに置き、拳銃を取り上げる。十分装填してあることを確かめたうえ、拭って指紋を消し、スツールのところへ持っていって、そこに置く。いま一度、時計を見てから、アルコーヴの肘掛椅子へ行って、帽子をかぶり、スカーフを巻き、手袋をはめる。オーバーを腕にかけて上手ドアへ行き、明かりのスイッチを切ろうとして、ふと思い出し、ドアのふち、およびノブから指紋を拭い取る。それから、明かりを消し、スツールのところへ来て、オーバーを着、銃を取り上げて、壁の頭文字めがけていざそれを発射しよとしたときに、文字がカーテンで隠れていることに気が付く。
くそ
急いで、デスクの椅子を持って来て、それでカーテンをおさえ、スツールのそばに戻る。銃を発射したあと、結果を確かめにいく。
悪くない
デスクの椅子を元に戻そうとしているとき、ホールに声が聞こえる。銃を持ったまま、大急ぎでフランス窓から飛び出す。一瞬おいて、ふたたび現われ、懐中電灯をひっつかんで、また飛び出してゆく。
舞台外でがやがやと声がして、しだいに近づいてくる。
ウォリック夫人 どうしたんだい。ジャン。この騒ぎは一体何ごとなのか!
ジャン リチャードだよ。こんな霧の中なのに鉄砲撃っているんだ。安眠を妨害してもらいたくない!
ローラ すぎ霧のなかでいったい何を撃っていたのかしら。へんだわ叫び声も聞こえたのよ。
ベニー どうしてあなたがそんなに興奮しているのかわかりませんよ。銃声がしたのですか。またリチャードが撃っているのだけだと思いますけど。彼のやり方はひどすぎますからね。勝手す ぎる振る舞いには違いありません。一言言ってやりましょう。
リチャード!困ります。こんな夜中に!みんながびっくりすじゃありませんか!・・・・・リチャード!リチャード!
ジャン どうしたんだい?何があったの?
ベニー リチャード・・が・・・自殺してます。
ジャン リチャードのリボルバーがないよ。
スタークエッダー どうしましたか?何があったのですか?
ベニー 外から?誰が?
スタークエッダー。フランス窓から入ってくる。
招かれざる客。
彼なのか。
おおた君の声が聞こえました。
「おまぇなぁ、さっきからぼーーってしいるぅ」
猫写真家君と、わしあし君の声。
このミィーティング。実は疲労困憊のうちに出席しております酔漢でございます。
何って?夏休み終了後すぐの集まり。
酔漢はその週の初めに山から降りて来たばかりでした。
大学時代、二足どころか三足の草鞋を履いておりました。
落語は、相当語ったところです。
そして、今語っております「演劇同好会」
もう一つが「国立花山少年自然の家」でのボランティア活動。
夏休みの最中は二週間と少し、少年自然の家でキャンプ場の管理とか、子供たちへの指導とかさんざん身体を使いまくった後の事だったわけです。
「おまぇねぇ、やりたいことたくさんやりすぎて、全部が中途半端になったらどうすんのヨ!」
わしあし君の訴え。
「んだども、全部大事にしてぇっちゃ」
で、いつもの答弁。
「台詞は覚えてきた?」
せっちゃんはこればかり。
「ちゃんと、キャンプ場の暗がりで練習してきたっちゃ!」
です。
そのおおた君の「・・・イギリスって言えば・・・・」から話しが逸れてしまいました。
「イギリスなんて行ったことある奴なんていないけど、一番近いのは酔漢か・・・・ダヨネ?」
「また、酔漢にスコッチの話しをさせるぅ!」
「じゃなくて・・・身内がイギリスに留学してたってこと」
「何!聞いたことねぇぞ」
「酔漢先輩!本当なんですか?身内って・・・・誰?」
「妹だっちゃ。去年、イギリスサフランバーデンさぁ短期留学してたべ」
「うそーーーーーーーーっつ!」全員の声。
またまた、お話しはそれることと相成りますが、我が妹君は英語が堪能でございまして、まして専攻が「英文学」。
語学修行というわけではないですが、イギリスへ留学しておった訳です。
「でもだぞ!酔漢が行ってたわけではないからなぁ。少しは役立つ(芝居に)情報でもあんのか?」
「俺だってしゃねぇおん。んでも、舞台装置や雰囲気なんかは、妹の話しさぁ聞いてみっぺ」でした。
舞台装置、大道具他、いその君が担当です。
「マホガニーって・・・食器棚ってあるけどさぁ?酔漢分かる?」
「色の黒い、重厚な質感のある食器棚なや。こいずは、なんじょして作っぺか?」
「イメージは黒檀・・・かな」
「色は近けぇべ、色塗っちまえぇばわかんねぇもんだべ」
写真のような配置図です。
当然、省くところは省いて作るわけですが、アガサの雰囲気を醸し出すのには、大変な労力を要しました。
大学キャンパス内で大工作業をするわけです。
壁紙をベニヤに張り付けて、柱の高さを見ながら、パーツとして作成。
それを前日、舞台に取り付けます。
小道具にしても、例えば、電気のスイッチはかなり頻繁に出てくる小道具なのですが、当時のイギリスの一般家庭にあるようなものを探さなくてはならなかったりするわけです。
当然、日本、仙台にあろうはずはなく、昔のスイッチ(昭和三十年代前半にあったようなもの)で代用です。
ソファは当然、革張りでなくては意味がなくて、これは中古品を誂えました。電気スタンドは、これは傘がやっかいでして、女性人の手作り。
みちよ、と、ともこの得意分野でございました。
と、舞台の方はああでもない、こうでもないと、おおた君やわしあし君の、非常に事細やかなご指摘にめげることなく、遅々とは言うものの、着々と進んではおります。
「メイクプランが出来ました」
これは、ロコちゃんとちえみの担当。
「酔漢君、やっぱり金髪ね!」
「白髪ではなかったのすか?」
「うーーん、少し、若作りで行こうかって、これはね、わしあし君の意向でもあるんだ」
せっちゃんの説明は、なんだか・・・・こう・・・。
「としお君はじょうずに髭生やしてね!」
「髭?やっぱりね。刑事=アガサとくれば、ポアロ的なイメージだもんな」
「おい、でもとしおに髭だろ?あんな感じで・・ポアロに似てなくもない」
「いや、これはイメージにぴったりな部分がある」
と、みなさん、かなり盛り上がってはおりますが・・・。
「酔漢君の金髪って・・・・・」
「酔漢先輩が・・・ですよね」
何故か、後輩共が一斉に見ております。
「何っしゃ!そげにおらいの金髪が見たいのすか?」
結果ですね、じつは、公演終了後、打ち上げに向かう道すがら。仙台は一番町を僕らは歩くわけです。
戦災復興記念館では時間の都合で、後片付けが、間に合わなくなりまして、メイクを落とす間がなかったわけです。
ですから・・・その、酔漢は金髪のまま、一番町を歩いていたわけです。
全員ですから、衣装とメイクはそのままだったのでした。
異様な集団!だったろうなぁ・・・。
舞台はまだ一幕。後半。殺人事件の現場に居合わせた、スタークエッダー(猫写真家)とローラ(みつえちゃん)
偽装工作に入ります。
スタークエッダー (死体の向こうへ行き)つまりです、僕らの考えている線でいけば、そのマックなんとかやら氏は復讐の一念に燃え、まなじりを決してとびこんでくるわけですから、当自分の銃を用意してくるという事になる。しかし、、それとは別の線からゆくと、けっこうもっともらしい状況が出来上がるわけです。この男が飛び込んでくる。リチードは、寝ぼけまなこで拳銃をひっつかむ。相手はそれを奪い取り、そして発射する。どうもいささか無理な設定ですが、まぁ少々のことは目をつぶるということにいたしましょう。いずれにせよ、どこかで危険を冒さなきゃならないんですから。(銃を車椅子の側のテーブルに置き、下手中央寄りへ来る)さてと、これであらゆる点を考慮したかな?そのつもりだが。彼が実際には十五分か二十分早く撃たれていたと事実は、警察がここに来るころには、左程目立たなくなっているはずです。この霧の中を、あの迷路ような道路を通ってここまでたどり着けるのは、そうたやすいことじゃないですからね。(カーテンをかかげて、弾痕をながめる)R・Wか。じつにいい。これがダメ押しをしてくれるはずだ。(カーテンをもとにもどして、舞台を横切って、ソファの下手端に坐る)銃声を聞いたら、あなたは騒ぎ立てて、ミス・ベネットでもだれでも、呼んでこられる人を呼んで、ここに降りてきてください。あなたの申し立てることは、なんにも知らないということ。いったんベッドに入ったが、ひどい頭痛で目がさめ、アスピリンをもらいにいった。それだけです。あなたの知っていることは・・・・・・分かりますね?(ローラ頷く)それ以外のことは、いっさい僕にお任せなさい。
どうです、元気が出てきましたか?
ローラ ええ。
スタークエッダー じゃあもう行って、やるべきことをやってください。
ローラ あなたは、あなたはこんなことなさるべきではありませんわ!じちゃいけないことです。巻き込まれちゃいけません!
スタークエッダー ここまできて、それを蒸し返すのよしましょう。人にはそれぞれ違った・・・ええと、さっきなんて言いましたっけね・・・・そう、ゲームの楽しみ方あるんです。あなたはご主人を射殺するというゲームを楽しんでいた。今、僕は、僕なりのゲームを楽しんでいるんです。今までずっとひそかなる願望をあたためていたんですよ。実際に探偵小説のような事件に出会ったら、自分がどうそれに対処できるか知りたいと願望をね。さぁ、今僕が話した事。やりとげられますか?
ローラ ええ
スタークエッダー
けっこう。あ、そうだ、時計を持っていますね。今何時になっていますか?
ローラ、腕の時計を見せる。
(それに自分の時計を合わせながら)十分前をちょっと過ぎたところか。じゃあ三分・・いや、四分時間をあげましょう。四分間で台所へ行き、そいつをボイラーにほうりこんで、二階へ行って、服を着替え、ミス・ベネットのところへ行く。出来ると思いますか。ローラ?
スタークエッダー(ローラが出て行った後に)彼女のジャケットがソファの上手側の腕ののっているのに気づき、呼び戻して、彼女のそれを渡し、も一度ほほえみかける。ローラは出ていき、その背後でスタークエッダーはドアを閉める。これからやるべきことを考えて、ちょっと立ち尽くす。ややあって、時計をみ、たばこ取り出す。上手、安楽椅子のそばのテーブルに行き、ライターを取り上げようとしたとき、目の前の書棚に飾られたローラの枠入りの写真に気づき、取り上げて、眺める。ほほえんで写真をもとにもどして、煙草に火をつけ、ライターはそのままテーブルに置く。ハンカチを取り出して、安楽椅子の腕や写真についているかもしれない指紋を拭い、椅子をもとの位置に戻す。灰皿からローラの煙草の吸殻を摘み上げ、ソファの手前を横切って、車椅子の側のテーブルへ行き、そこの灰皿から自分の煙草の吸殻を取り上げる。その後、スツールの向こうを通ってデスクに近づき、そのあたりに残っているかもしれない指紋をふき取ってから、はさみと便箋の綴りをもとにもどし、吸い取り紙の位置を直す。床を見回して、新聞の切れ端が落ちていないかどうかを確かめ、デスクの上に一片を見つけて、それをひねり、ズボンのポケットに入れる。下手ドアの側の明かりのスイッチ、およびデスクの椅子の指紋を拭い、デスクに置いた自分の懐中電灯を取り上げて、フランス窓に歩み寄ると、わずかにカーテンをかき分けて、窓越しに庭の小道を照らしてみる。
これだけかたければ、足跡は残らんな
懐中電灯を車椅子のそばのテーブルに置き、拳銃を取り上げる。十分装填してあることを確かめたうえ、拭って指紋を消し、スツールのところへ持っていって、そこに置く。いま一度、時計を見てから、アルコーヴの肘掛椅子へ行って、帽子をかぶり、スカーフを巻き、手袋をはめる。オーバーを腕にかけて上手ドアへ行き、明かりのスイッチを切ろうとして、ふと思い出し、ドアのふち、およびノブから指紋を拭い取る。それから、明かりを消し、スツールのところへ来て、オーバーを着、銃を取り上げて、壁の頭文字めがけていざそれを発射しよとしたときに、文字がカーテンで隠れていることに気が付く。
くそ
急いで、デスクの椅子を持って来て、それでカーテンをおさえ、スツールのそばに戻る。銃を発射したあと、結果を確かめにいく。
悪くない
デスクの椅子を元に戻そうとしているとき、ホールに声が聞こえる。銃を持ったまま、大急ぎでフランス窓から飛び出す。一瞬おいて、ふたたび現われ、懐中電灯をひっつかんで、また飛び出してゆく。
舞台外でがやがやと声がして、しだいに近づいてくる。
ウォリック夫人 どうしたんだい。ジャン。この騒ぎは一体何ごとなのか!
ジャン リチャードだよ。こんな霧の中なのに鉄砲撃っているんだ。安眠を妨害してもらいたくない!
ローラ すぎ霧のなかでいったい何を撃っていたのかしら。へんだわ叫び声も聞こえたのよ。
ベニー どうしてあなたがそんなに興奮しているのかわかりませんよ。銃声がしたのですか。またリチャードが撃っているのだけだと思いますけど。彼のやり方はひどすぎますからね。勝手す ぎる振る舞いには違いありません。一言言ってやりましょう。
リチャード!困ります。こんな夜中に!みんながびっくりすじゃありませんか!・・・・・リチャード!リチャード!
ジャン どうしたんだい?何があったの?
ベニー リチャード・・が・・・自殺してます。
ジャン リチャードのリボルバーがないよ。
スタークエッダー どうしましたか?何があったのですか?
ベニー 外から?誰が?
スタークエッダー。フランス窓から入ってくる。
招かれざる客。
彼なのか。
手作りの舞台・・・皆で作り上げた作品ですね。
いい思い出をお持ちで羨ましいかぎりです。
単に、やってきたこと。だけでは、終わらないような・・・・・展開に。
さて、さて・・。