酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

招かれざる客って誰 台詞

2012-01-16 11:09:33 | 大学演劇部の頃の話
「酔漢、落語はどうやって覚えるんだ?」
帰りの仙石線車中。
ある友人君=わしあし君。そして、刑事役「みずま君」。
帰りが一緒になることが多かった僕らでした。
みずま君は、石巻まで。
「普通なんて、嫌だ!」これはごもっとも。
僕らは、快速に乗るために普通電車をやり過ごすことが定番となっておりました。
その車中での会話です。
 
「まずは聴く。できれば見る。そして落語本を読むんだけんど、自分で写す奴もいる」
「自分で脚本さぁ書くってことか?」
「落語は脚本ではねぇけんどっしゃ。そうしてる奴は結構多いべ」
「酔漢は・・・そうしてる?」
「そげな、面倒なことはしてねぇっちゃ。んだから、おらいの噺はおんなし語りがねぇんだべ」
「案外自由なんだなぁ」
「高座の座布団さぁ座っちまえばこっちのもんだっちゃ」
「いい加減なのか?…凄いのかぁぁ?・・・」

落語を覚える時は、読む、聞くが半々。当時ビデオやらディスクなんてなかったから、テレビの番組をかじりつくように見ておりました。
ですから、芝居の台詞のように「完全に覚え込ませる」的な要素はなかったと思います。
でも、これもやはり人それぞれでして、学院大学落研「快亭視現君」などは、自分で書いて、何度も書き直しながら、落語を憶えておりました。
(彼の落語は、時計で計ったかのように落ちまでの時間がいつも決まっておりました。酔漢はいつもばらばら・・・)

「じゃぁ、何だな、落語が出来るからって、『台詞に抵抗がない』って訳ではない」
わしあし君が、そう言っております。
「俺も、なぁ、台詞を覚えるなんてぇ初めてだからなぁ」と、みずま君。
「抑揚やアクセント、会話の間。表情。しぐさ・・・・細かく自分を分解できねぇと舞台で台詞はまわせねぇって」
本当にそう思いました。
セリフを覚えてそれを表現する。この単純なようで、これほど難しいことはなかったと、今でもこう思うのです。

一幕の終わり近くから物語を始めます。

ウォリック夫人、息子の死体に歩み寄る。

ウォリック夫人 (かすれた声で)リチャード。

スタークエッダー、死体の向こう側を通り、フランス窓に背を向けて立つ。

ジャン (死体の方へ進みでながら)ごらんーごらんー彼の胸のところに何かあるよ!紙だ!何か書いてある。(手をのばす)
スタークエッダー (その手を抑えて)さわっちゃいけない!他のことはどうあれ、手を触れることだけはいけない。(死体の上にかがみこみ、ゆっくりと読む)「五月十五日借りは完全に返した」
ベニー (ソファの後ろを横切りながら)マグレガーだわ!

 ローラゆっくりと立ち上がる。ウォリック夫人、眉をひそめる。

ウォリック夫人 というと。あの男。あの父親。あの轢き殺された子供の?
ローラ (上手安楽椅子に腰をおろしつつ、独白)そうだわ!マグレガーだった。
ジャン (スタークエッダーの後ろを通って、死体の下手へ来る)全部新聞だ。切り抜きだ!・・・ほら!

 スタークエッダー、ふたたび彼が触ろうとするのを止める。

スタークエッダー ダメダ!さわっちゃいけない!ここはこのままにしておいて、警察にまかせなきゃ。(電話のほうへ歩きかけながら)なんなら・・・僕が・・・。
ベニー (ソファの上手側をまわりながら)私がやります
ウォリック夫人 (きっぱりと)いえ。私がやります。(事態を掌握し、気力をふるいおこすと、デスクに歩み寄り、ダイヤルを回しはじめる)

 ジャン、興奮のていでスツールの中央へ行くと、それに膝をつく。

ジャン (ベニーに)その逃げて行ったていう男。あんたその男が・・・
ベニー (ジャンに近づき)しっ!いけませんジャン!
ウォリック夫人 (静かな、だが明瞭な、威厳のある声で話しだす)警察ですか?こちらはランゲラート館、リチャード・ウォリックの屋敷です。いましがた、リチャード・ウォリックが死体で発見されました。撃たれて・・・・死んでいます。

 ウォリック夫人の最後の言葉ををもに、エンジェル、部屋着の紐を結びながら登場。部屋に一歩入ったところで、はっと立ち止まり、石のように立ち尽くす。

 __幕___

「あのなぁ、ジャンって、精神的に幼いだけなんだ!なかだて!やりすぎ!落語の与太郎じゃないんだから!」
「性格的に幼い・・・・先輩・・難しい・・・なぁ・・・」
「あまり、子供こどもさせてもいけないし、かと言って分別のある成人的要素でもない・・・要はダ!普段の『お・ま・え』!だ!」
わしあし君(演出)の説明に、おおた君が補足してます。
「酔漢、与太郎って、お前話してたよな?」
「まぁ落語の世界では、半分与太郎は・・バカとは言えないし、知恵が回るとも違う・・・そのぅ・・・『気の利いたバカ』としか言いようがない。だけど、ジャンの台詞は、それよりか奥深い。そのぅ・・分別のない、純粋な素直な子供的、半大人というか・・・」
「酔漢先輩『純粋な子供的半大人』って、先輩言葉。難しいですよぉぉ」
「でもな、なかだて!これは、俺もそう思う」

台詞から想像する人物を、自身の意識フィルターでもって消化して、自らが表現する。でも、テクニック的な問題はさておき(大変重要なファクターではあるのですが)この表現が、演出家と温度差が大きければ、これは修正するのに大変な時間を要します。
役者はそれに応えなくてはいけないわけです。

「さとみ(ウォリック夫人)は、自分のばあちゃん演じてんでないんだから!もう少し、年寄くささを省いて!」
「えーーっつ!そんなに年寄を演じたつもりはなかったんですけどぉぉ」

彼女、演技、上手いです。
おとなしめの口調ですが、声は良く出ていてるし、何せ、舞台で物怖じしない、その物腰はとても一年生の雰囲気ではありませんでした。
流石に、高校演劇出身(上記、なかだて君も)ではないわけです。

「電話を掛けるそのう、動きをもう少し若々しくしてもいい」
「分かりました。やってみます」
と、すぐ様修正できるところが彼女の凄いところ。

二幕開始。
幕が上がります。

同じ部屋。翌日の午前十一時頃。
晴れた小春日和の一日。窓は大きく開け放たれている。車椅子と、アルコーヴの肘掛椅子の位置が入れ替わっている。車椅子の側にあった小テーブルの上はきれいに片づけられ、デキャンターと灰皿のみが残っている。デスクの上に、家人一同の指紋を記録した、書類。
幕があがると、キャドワラダー部長刑事がアルコーヴの車椅子に坐って、詩集を読んでいる。三十年配のウェールズ人で、詩人タイプ。やわらかな音楽的な声の持ち主。ややあって立ち上がる。
部長刑事役「みずま君」登場。

部長刑事 美しい。適切で、かつ美しい。

トマス警部、ブリーフケースをさげて上手より登場。

警部 (けわしく)キャドワラダー部長刑事!
部長刑事 (ふりむきつつ)霧とあまやかな実りの季節、成熟をもたらす太陽の親しい友。
警部 なに?
部長刑事 (ひとり税に入って)キーツですよ。どうも心からいい日和だとは言い切れませんね。夕べここにたどり着くまでの騒ぎを思うと。あんなひどり霧、何年もお目にかかったことがありませんよ。カーディフ・ロードで車の事故が続出したのも無理がありません。

「ストーップ!みずま!にやけすぎぃぃ」
「詩の朗読だろ。こんな感じでいいのかと・・・・」
「確かに、そうだけどさぁ。あんまりにやにやしながらの台詞でもないと思うよ。ここんとこ」
せっちゃんは、笑いをこらえながら、話しております。
あまりにも・・デス。ナンパへ向かう彼の顔を思い出してしまう、酔漢も含め一同の感想。
「としお(警部役)が登場して、少しは場面が重くなるとこなんだけど、それにしても、お気楽過ぎた演技だぁぁ」
「だって、ここに『小春日和』ってあるし、『霧とあまやかなる実りの季節』とか・・雀が春庭先で『ちゅんちゅん』って風景が・・あたまの中にぃぃ・・」
「確かにそうだ!だがな、殺人事件の現場にいるスコットランダヤードの刑事なんだ。詩集にふけっているということと、詩集にどっぷり浸っている。というのとは、訳が違う!」
「二幕の緊張感をもう少しだなぁぁ、背中から語るような演技が理想と・・思う」
わしあし君の適切な?ご指導。否もっともなんですが、例えば、酔漢がこの役だったとしたら、どうだったか?とも考えてしまいます。
そして、としお君の警部。
アガサだぁぁ!こういった警部がやはり必要です。髭は見事に生えております。

警部 指紋採取の係は、もう仕事を終えたのかね?
部長刑事 (当面の任務を思い出して)はい!終わりました。ここに全部用意しております。
警部 さて、拝見すとするか。ウォリック氏。これは被害者だな。ローラ・ウォリック夫人、ウォリック老婦人、ジャン・ウォリック青年、ミス・ベネット。それから、なんだこれは、アングル?ああエンジェルか。そうか、あの看護人兼メイドだな?それと、あと二組。何?まてよ?窓の外側、デキャンター、ブランデー・グラス。これはリチャード・ウォリックおよびエンジェル、およびローラ・ウォリック夫人の指紋と重なっている。それから、ライター。最後にリボルバーか。これはあのマイクル・スタークエッダーに違いない。ウォリック夫人にブランデーを飲ませて、庭から銃を持って来ているからな。
そして、二組目の未確認の指紋。死体の側のテーブルに男と見られる掌紋。フランス窓の内と外にぼやけた指紋が数個。
部長刑事(指を鳴らしながら)マグレガーだ!
警部 しかし、リボルバーにはその指紋はなかった・・・。そして、テーブルの上に男掌紋。・・・・・不思議だなぁ。
部長刑事 客かもしれませんよ!
警部 きの一日、この家に来客はなかったそうだ。あのメイドからもっとくわしい話しを訊けるかもしれん。読んで来てくれ!

原作は従僕、男となっているエンジェルです。
わしあし君はメイドとしました。
この役「てるよ」でした。
原作では「ヘンリー・エンジェル」ですが、舞台では「メアリー・エンジェル」と直しております。
二幕半ば。
全員の聞き取りが、劇の大半を占めております。
アガサの脚本の真骨頂です。
言葉を全く発することがない、自分を語ることない死体となったリチャードウォッリク。ですが、回りに住む人々からの証言でその人物像を浮かび上がらせて来ます。

酔漢、この時間。幕袖で、出番を待っております。
緊張しっぱなし!心臓が飛びだしてきそうです。

次回。続きます。

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