「いいかぁ、よーく聞きやがれ!お前はゆんべ、死んでるよ!」
「だけどよ、兄貴ぃ、どうも俺は死んだようなきがしねぇ」
「何言ってやがんでぇ。初めて死んだ奴に死んだ奴の気持ちなんてぇ判るもんか!だから、おめぇは馬鹿だっていうんだ」
行き倒れの現場から熊公の長屋へ着いた八。熊公を行き倒れの現場へ連れて行こうとしております。
「なんだったら最初(はな)から話しをしてやろうじゃねぇか。今朝方俺は、いつものようにあそこに行ったんだ。・・・どこだっけ・えーっとあそこ拝みにいったのよ。あそこだよ!おめぇも何とか言ったらどうなんだい!」
「大根おろしかぁ?」
「そうそう大根おろし!・・なわけねぇだろう! そう!観音様だ」
「その観音様のめぇに来ると、人だかりよ。なんだと思って中掻き分けてへぇると、行き倒れだ。な?その行き倒れってぇのが・・おめぇだ」
「やっぱりそうかぁ」
「そんなんだよ!今からおめぇを連れて行くから、さっさとしやがれ」
熊を長屋から連れ出しました。
「おめぇはゆんべ何所で何してたんだい」
「ゆんべ?ゆんべは吉原(なか)をひやかして、帰りに一杯やろうと思って馬道で酒呑んだ。その時喰ったもんがあたっちまったのか、気分が悪くなっちまって、観音様のとこまでは覚えちゃぁいるんだけどよ、あとはどう帰って来たのか覚えちゃいねぇ。気が付いたら長屋(ここで)寝てたんだ」
「そうれ見ろ!何よりの証拠でぇ。吉原(なか)の帰りに悪い酒呑んじまったんだ。それで苦しくなって観音様の前で倒れちまった。それを忘れて長屋(ここ)まで帰ってきたってな訳だ!」
「そうかなぁ?」
「まだ言ってやがる!そうにちげぇねぇ。そう考えりゃ、辻褄があうじゃねぇか」
「おうここだ。どーも先ほどは」(この「どーも」は金原亭馬生が演じた「蕎麦清」風にやると面白いでぇす)
「また、さっきの変な奴が来やがった。どうですぅ?人違いだったでしょ?えっつ?いたぁ?この人ぉぉぉ」
「いえね。こいつなんでさぁ。最初(はな)は、『俺は死んだような心持がしねぇ』なんぞ言っておりやしたが、よぉく言い聞かせやしたらね、こいつも馬鹿じゃぁねぇからようやく納得いたしやした。おい!熊、こっちこい挨拶しねぇか!」
「どうもすみません。悪気はねぇんです。兄貴に言われて気づいたんです。あっしはゆんべ、ここでおっちんじまったそうで・・・」
目茶苦茶だぁ!周りにいる野次馬連中でさえ「あの人ですよ。行き倒れってなぁ。まったくかわいそうだねぇ」なんて言っててやがる訳でございます。
「おいしっかり見とけよ!だから俺は普段からおめぇに言ってんだ『顔洗え』って、俺は毎日洗ってるから自分の顔がわかる。だからどこで俺に会ったかなんてぇすぐに判るんでぇ。おめぇは顔なんて洗わねぇから判らねえぇんだ。俺は俺が判っておめぇも判る。両方判る俺が言うんだから間違いねぇ。もう一回言うぞ。この死骸は間違いねぇ・・・おめぇだぁ!」
「そうだ!兄貴ぃやっぱり・・俺だぁ」
「だろう!今頃になってようやく判りやがったなぁ。こうなりゃ熊公。ちゃんと成仏させてやんなきゃなんねぇ」
「やい!俺めぇ。こんな浅ましい姿になりやがって、こんな姿になっちまうんだったらもっと旨ぇもんでも喰っておきゃよかった・・・なぁ」(熊公泣いている)
「おい、おい泣いてやがる」
「馬鹿野郎!自分の死に目にあってるんだ。てめぇで死んだ事もねぇ奴が生意気な口聞いてやがる。おい!熊公。誰に遠慮なんかあるもんか!いいから抱いちまえ」
熊公、死骸を抱きかかえる。その死骸に向ってさらに・・
「やい、俺めぇ。汚ねぇ顔にもなっちまって」
「おい、抱いたぜ。何かぶつぶつ言ってますよ」
その時、ふと熊、泣くのをやめる。しげしげ、自分の死骸を眺めている。
「おい、どうしたんだ熊公。何なやんでやがる?」
「だけどよう、兄貴ぃ。俺なんだか判らなくなっちまった」
「なんだよ。じれってぇなぁ。言ってみろ!」
「抱かれている俺は確かに俺だぁ。だけどよぉ、抱いている俺はどこの誰だい?」
考えれば、少しシュールな落ちです。が会場は爆笑でした。
前列に座っておりました三女高落研部員も、笑い転げておりました。
「味がでていたねぇ」とは東北学院大学落研「鯉乃弥舞」(こいのやまい)さん。
コーチに来ていた東北大学落研の人達も誉めておりました。
特に熊がポイント。この噺。生きるも死ぬも熊次第。とぼけた味が「からす」君にはあったのです。
「あん好先輩。どうでした?」
「もう最高だよ。正直やられたネ」本音でした。
それから後、彼とは何度も高座を一緒にいたしました。独特な声の持ち主でもありました。
「酔漢のくだまき」は今回で2年を過ぎ、3年目に入りました。
「はやいなぁ」
「何語ってのっしゃ?」です。
ここで「粗忽長屋」の「落げ」(さげ)をもう一度復唱してみましょうか。
「抱かれているのは確かに俺だが、抱いている俺は誰だい?」
本当は「くだまきを語っている酔漢(俺)はいったい何所の誰なんだろう・・」
お後がよろしいようで・・
「だけどよ、兄貴ぃ、どうも俺は死んだようなきがしねぇ」
「何言ってやがんでぇ。初めて死んだ奴に死んだ奴の気持ちなんてぇ判るもんか!だから、おめぇは馬鹿だっていうんだ」
行き倒れの現場から熊公の長屋へ着いた八。熊公を行き倒れの現場へ連れて行こうとしております。
「なんだったら最初(はな)から話しをしてやろうじゃねぇか。今朝方俺は、いつものようにあそこに行ったんだ。・・・どこだっけ・えーっとあそこ拝みにいったのよ。あそこだよ!おめぇも何とか言ったらどうなんだい!」
「大根おろしかぁ?」
「そうそう大根おろし!・・なわけねぇだろう! そう!観音様だ」
「その観音様のめぇに来ると、人だかりよ。なんだと思って中掻き分けてへぇると、行き倒れだ。な?その行き倒れってぇのが・・おめぇだ」
「やっぱりそうかぁ」
「そんなんだよ!今からおめぇを連れて行くから、さっさとしやがれ」
熊を長屋から連れ出しました。
「おめぇはゆんべ何所で何してたんだい」
「ゆんべ?ゆんべは吉原(なか)をひやかして、帰りに一杯やろうと思って馬道で酒呑んだ。その時喰ったもんがあたっちまったのか、気分が悪くなっちまって、観音様のとこまでは覚えちゃぁいるんだけどよ、あとはどう帰って来たのか覚えちゃいねぇ。気が付いたら長屋(ここで)寝てたんだ」
「そうれ見ろ!何よりの証拠でぇ。吉原(なか)の帰りに悪い酒呑んじまったんだ。それで苦しくなって観音様の前で倒れちまった。それを忘れて長屋(ここ)まで帰ってきたってな訳だ!」
「そうかなぁ?」
「まだ言ってやがる!そうにちげぇねぇ。そう考えりゃ、辻褄があうじゃねぇか」
「おうここだ。どーも先ほどは」(この「どーも」は金原亭馬生が演じた「蕎麦清」風にやると面白いでぇす)
「また、さっきの変な奴が来やがった。どうですぅ?人違いだったでしょ?えっつ?いたぁ?この人ぉぉぉ」
「いえね。こいつなんでさぁ。最初(はな)は、『俺は死んだような心持がしねぇ』なんぞ言っておりやしたが、よぉく言い聞かせやしたらね、こいつも馬鹿じゃぁねぇからようやく納得いたしやした。おい!熊、こっちこい挨拶しねぇか!」
「どうもすみません。悪気はねぇんです。兄貴に言われて気づいたんです。あっしはゆんべ、ここでおっちんじまったそうで・・・」
目茶苦茶だぁ!周りにいる野次馬連中でさえ「あの人ですよ。行き倒れってなぁ。まったくかわいそうだねぇ」なんて言っててやがる訳でございます。
「おいしっかり見とけよ!だから俺は普段からおめぇに言ってんだ『顔洗え』って、俺は毎日洗ってるから自分の顔がわかる。だからどこで俺に会ったかなんてぇすぐに判るんでぇ。おめぇは顔なんて洗わねぇから判らねえぇんだ。俺は俺が判っておめぇも判る。両方判る俺が言うんだから間違いねぇ。もう一回言うぞ。この死骸は間違いねぇ・・・おめぇだぁ!」
「そうだ!兄貴ぃやっぱり・・俺だぁ」
「だろう!今頃になってようやく判りやがったなぁ。こうなりゃ熊公。ちゃんと成仏させてやんなきゃなんねぇ」
「やい!俺めぇ。こんな浅ましい姿になりやがって、こんな姿になっちまうんだったらもっと旨ぇもんでも喰っておきゃよかった・・・なぁ」(熊公泣いている)
「おい、おい泣いてやがる」
「馬鹿野郎!自分の死に目にあってるんだ。てめぇで死んだ事もねぇ奴が生意気な口聞いてやがる。おい!熊公。誰に遠慮なんかあるもんか!いいから抱いちまえ」
熊公、死骸を抱きかかえる。その死骸に向ってさらに・・
「やい、俺めぇ。汚ねぇ顔にもなっちまって」
「おい、抱いたぜ。何かぶつぶつ言ってますよ」
その時、ふと熊、泣くのをやめる。しげしげ、自分の死骸を眺めている。
「おい、どうしたんだ熊公。何なやんでやがる?」
「だけどよう、兄貴ぃ。俺なんだか判らなくなっちまった」
「なんだよ。じれってぇなぁ。言ってみろ!」
「抱かれている俺は確かに俺だぁ。だけどよぉ、抱いている俺はどこの誰だい?」
考えれば、少しシュールな落ちです。が会場は爆笑でした。
前列に座っておりました三女高落研部員も、笑い転げておりました。
「味がでていたねぇ」とは東北学院大学落研「鯉乃弥舞」(こいのやまい)さん。
コーチに来ていた東北大学落研の人達も誉めておりました。
特に熊がポイント。この噺。生きるも死ぬも熊次第。とぼけた味が「からす」君にはあったのです。
「あん好先輩。どうでした?」
「もう最高だよ。正直やられたネ」本音でした。
それから後、彼とは何度も高座を一緒にいたしました。独特な声の持ち主でもありました。
「酔漢のくだまき」は今回で2年を過ぎ、3年目に入りました。
「はやいなぁ」
「何語ってのっしゃ?」です。
ここで「粗忽長屋」の「落げ」(さげ)をもう一度復唱してみましょうか。
「抱かれているのは確かに俺だが、抱いている俺は誰だい?」
本当は「くだまきを語っている酔漢(俺)はいったい何所の誰なんだろう・・」
お後がよろしいようで・・
お忙しい毎日でしょうけれども、楽しいお話をこれからもたくさんお聞かせ下さい。
職場で・家庭で・ブログで・・・
其々の顔があるのでは?
じゃー今、酔漢の記事を読んでる酔漢はどこの誰なんだい?
お後がよろしいようで
おめでとうございます。
面白い話、これからも期待してます。
私が配属されていた店舗とは別の店舗に私の分身?が働いておりました。
その店舗では、分身さんはまさしく「○○(私の本名)さん」と呼ばれてすらおりました。
ある日、とうとう私の店舗の同僚が分身さんの顔写真を持ち込んで私に見せてくれました。
「え?女子社員じゃん!」
ドッペルゲンガーを体験すると死に至る、そういった伝承があります。
まあ、脳腫瘍がドッペルゲンガーの原因らしく、それゆえの死、ではあるのでしょうが。
でも、吉祥寺駅のホームで電車を待つ間に、向かいのホームにも自分自身が立っているような感覚に、しばし襲われます。
向かいのホームは信州まで繋がっているものですからね。
三年目を祝し、乾杯!
いつかは皆さんで飲みまくりましょう。
落語シリーズも快調ですね (^_^)v
「芝浜」「粗忽長屋」ときたんで、次のネタはなんだろ~?
酔漢さんの影響か、
近ごろ雑誌やムックの落語特集がやたらと目に付き
つい買ってしまいます・・・ ^ ^;
相変らずのブログです。
まだ、ご紹介したい人達がいるんですよ。
「すず様」のお知り合いもいらっしゃたりして?
すみません。八の兄貴となりまして、是非お答えを下さいませ。
最近めっきり忙しく「散歩道」へおじゃまする機会も少なくなっております。
ですが、必ず目は通しておりますゆえ、楽しい記事をお願いいたします。いや「懐かしい記事」ですよね。
当ブログへ、いつもながらコメントありがとうございます。
塩竈つながりですものね。ですがクロンシュタット様へはそれ以外のつながりもあると、ひしひしと感じております(汗)
これからも宜しくお願いいたします。
いつか「本家本元」のくだ巻きを登場させようかと考えております。
「著作権」問題がありますでしょうか?
ネットの中で、一人歩きをしております。
今後もご指導宜しくお願いいたします。
僕のデビューも小学校の頃でした。
父親のLP(懐かしいぃ)を聞いて覚えておりました。不思議と大学で覚えた噺より子供の頃覚えた噺は忘れていないのでした。
「門前の小僧・・」とはよく言ったものです。
七ヶ浜の海風。
ブログから感じております。
今後も宜しくお願い申し上げます。