酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

仙台与太郎物語 兄弟というものは その二

2009-04-30 10:37:02 | 落語の話?
多くの、記録と少ない記憶を照らし合わせておりますが、やはり落語です。「自分が演じたら」というのがどうしてもあるのです。
前回、くすぐりの部分で「宮城語」を入れてみました。この感覚は、「今もし、自分がこの演目を高座にかけたら」との前提になっています。今の自分です。学生の頃ならば「宮城語」なんて思いもつきません。
落語はどうしても、自分の意識フィルターを通しませんと、伝わらない部分が出てきます。(酔漢自身が未熟なことは確かなのです)
そして、今、彼(快亭枝現君)がおりますれば、はたしてどのような噺をするのか、興味もございます。
前置き、長くなりました。(そして、本題も長いです)
前回の続きです。

裏店(うらだな)から表に店をかまえまして、奉公人を一人おき、二人おき。十年経ったときには、深川蛤町、蔵が三戸前ありまして、間口が四間半ある。りっぱな大棚となりました。(その一最後の部分です)

「あ、番頭さん・・・・番頭さんや」
「へい、お呼びでございますか?」
「(まだ、やはり訛っております竹次郎さんです)あぁ、今日はえらく風があるでぇ、もう店ぇぇ閉めてしまうべぇ。なぁ。それと、寒い夜だんべぇ、今暖けぇものこしらえさせているから、みんなさぁ食わしてくんろ」
「へぇ、ありがとう存じまして・・・」
「それからぁ、ちょっくら出かけんべぇと思って・・・うん。いやぁ、兄(あに)さんとけぇ(処)久しぶりで尋ねて行くが、留守中、こだに風があるから、どうか気をつけて・・・
蔵の目塗りはすぐにやっておかねぇと・・」
「(頭を下げまして)承知いたしました。何はさておきましても目塗りだけはかならずいたしますが・・・」
「そいからぁ・・・鼠穴さぁ・・」
「(手を打って)はっ!・・さようでございます。先だっても左官屋の親方の方へたびたび使いに行かしておりますが、もう少し、猶予を願いたい、いま仕事が立て込んでいるところでという・・・・どうにもしょうがございません。そのまんまになっておりまして・・
早急に、手配をかけますんで・・・旦那様申し訳ございません。ですが、旦那様、これだけ大勢の若い衆もあります。どうぞ、ご安心くださいませ」
「まぁなぁ、番頭さんがいるからわしも安心ぶぶってはいるが・・・どうかたのみますよ、・・・ええか?それからぁ(奥へ向って)・・・・おいおい、番頭さん(小声で)あのぉ、昨日話してた・・うん・・あれだ・・そうそう・・半紙に包んで三文ばかし銭をな。えっ?いんやぁ間違い(まちげぇ)じゃねぇ、三文。それから別に二両包んで、二包みばかしこさえてぇ、出来たらこっちぃへ・・あぁ、これでいい。そんじゃぁ、番頭さんちょっくら行ってくらだが、くれぐれも、火事だけはださねぇようにな、こっだに風が強ぇから、何度もくどいようだが・・たのんだよ!」
「へぃ、旦那様、いってらっしゃいやし!」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃやし」
「行ってらっしゃいまし」
店の者がずらっと並んで、送られる。気持ちのいいものでございます。竹次郎さん大棚の主でございます。

「はい、ごめん下さいまし」
(番頭、驚いた顔をして、一瞬、竹次郎の顔を見て)いらっしゃいまし!おや、お珍しいじゃございませんか!竹次郎さんで!」
「(竹次郎、びっくりして)あんれまぁ!・・・あんたもえれぇもんだべ。いっぺんきりしか会ってねぇが、よく覚えていなすって・・・」
「いえもうねぇ、旦那様と今日も・・・いえ、噂をいたしておりました!まぁよく・・えぇ、えぇ、もうよくおいでくださいました。(奥へ。心得た様子で)だんなさまぁ!旦那様ぁ!あのぅ・・竹次郎さんあお見えでございまぁす!」
「おう!おうおう・・・・(竹次郎を見て)よく来た!よく来たのぅ・・・のう竹!あれ、まぁまぁ、こんなとこで小さくなってねぇで、まぁまぁ、こっちに入れ(へぇれ)いや、遠慮なんかいらねぇ!・・いいからいいから、こっちさ来(こ)!何してるだぁ。なぁ。番頭さん!もう商い(あきねぇ)は終いだ!えぇ、えぇっちゅうだに!店さぁ閉め!そんでもって(番頭へ小声でいろいろ指図する)ん、ん?んだ!そうそう・・・酒さぁ用意して、飯の用意さぁ・・・・奥へな。それと・・・ああ?おらが言うまで持って来ねぇでええ。そっち行ってなぁ。そこそれ閉めて・・・・(竹次郎に向って)さぁさぁ、もっと前(めぇ)さぁ来(こ)!こっちぃ来い」
「はぁ・・・・えぇ、兄さん忙しいだら、『また後で』ってことも・・・」
「何(あに)言ってるだ!せっかく来たんだから・・・なぁに、今日は忙しい事なんてなぁんもない!いいから、あがれや!」
「兄(あに)さんが言うんなら、おらも遠慮なんかさぁしねぇけど・・今日、来たのは他でもねぇ。いつぞや、兄さんから借りていた商売(しょうべぇ)の元手(もと)、そのままになっていやして、長ぇことそのままになっていやして、すんませんで・・・今日はお返しにあがりました」
「何(あに)元手を返しさぁ来た?わかった、わかったから、ここじゃぁなんだ。こっちさ来(こ)!」
(竹次郎、兄に誘われるまま、奥の座敷に入る)
「兄さん。改めて、無沙汰して、すまんこった。まずはこの包みさぁ、見てもらいてぇ」
(竹次郎、三文入った包みを兄に渡す)
「おうおう、そうか、そうか。どれ、(前に置かれた包みと手に取り、中を検める)あぁ、間違ぇねぇ!うん。三文、確かに三文入って(へぇって)いる!(その包みを検めると、また脇に置きなおす)あぁ、よく遣ぇ(つけぇ)込まなかったな!」
「(呆れて、竹次郎。小声で)誰が遣ぇ込む奴があるもんか・・・・(再び、兄を見ながら)それから、これは、兄さん。・・・利子っちゅう訳ではないんだけんど。おらぁ、田舎もんだべ。兄さんに何土産買って行ったらいいか、解んねぇだで、こんで、兄さんの口さぁ合ったもんでも買うてくれたらよかんべ、思って・・」
(もう一つの包みを、兄に渡す)
「なんだなぁ、竹。そんなに気さぁ使うこたぁねんだべ・・いや、せっかくだから、頂く。うん、おらぁ、貰えるもんは、何でも貰うっちゅう主義だで・・まぁお前(おめぇ)さんの前(めぇ)でも失礼ちゅうもんだが、中をちょっくら見さしてもらうべ・・と(包みを開ける。会心の笑みを浮かべる!)うーーん。二両!二両入って(へぇって)る!二両だ。なぁ竹!はははは!竹!豪儀なもんだ。のう!竹よ!三文の銭も十年経つと二両さぁ化ける!はははは、ありがてぇ。ありがてぇ。のう。竹!いやま、ちゃんとおもらいしておくべぇ。(竹の目をじっと見る。少し落ち着いた口調に変わる)あぁ、もちっと、もちっと、こっちぁ来!・・・・(さらに、しみじみとした口調に変わる)・・なぁ。竹ょ・・」
「はい」
「お前(おめぇ)、十年前(めぇ)ここさぁ来て、『奉公ぶたしてもらいてぇ』と言っていた。おらぇ、そん時に『自分で商いぶってみろ』と、お前(おめえ)さぁ、三文、商いの元手(もと)を貸してやった。あんときぁ、さぞ。さぞ、はらわた煮えくり返ったろう。のう竹!何が(あにが)・・まぁまて、まて(竹次郎を制するように・・)。そんだな事はねぇ?何(あに)言ってるだ。腹立ったに違ぇねぇ!腹も立たなきゃ生きた人間じゃぁねぇだ。そりゃぁ、当たり前(あたりめぇ)だ。なぁ。(ふと、上を見て、思い出すように)あん時あおらぁ、どんすんべか・・・・相当迷った。五両、十両あれば、商いは充分に出来る。いくら貸そうか迷った。だがな竹!そりゃ、だめだ!あん時のお前の顔をよぉぉく見てな、そりゃだめだと判った。(じっくり竹の顔を見る)お前(おめぇ)あんとき、まだ茶屋酒が腹へ染み込んでいた。そんな奴が五両手にしたら一体(いってぇ)どうなる!『三両で商いは出来る。だから二両は別にして前景気に一杯』そう考えるもんだ。どうだ、竹違うか?・・これが、竹、いけねぇ!まだ商いぶたねぇうちに商いの元手に手をつけるようじゃ商人(あきんど)はだめだ。んだども、おらぁ、お前ぇ(おめぇ)さぁ、わざと、三文。三文渡した。お前が、腹立てて、一分にでもしてここさぁ戻って来た時ぁ、おらぁ五十両でも百両でも貸してやろうと思ったが・・ふふふ汝も死んだ父っつまさぁ似て、強情だ。おらぁん処(とこ)さぁ来ねぇ!十年経った今じゃぁ、深川蛤町、表。蔵が三戸前。立派な身代(しんでぇ)だ。なぁ、草葉の父っつまもさぞ喜んでいるだろうに・・なぁ。あん時、お前(おめぇ)さぁ、たとえ十両、いや五両でも貸していたら・・今の身代(しんでぇ)になっちゃいねぇ・・竹。そだな訳で、あん時ぁおらぁ、わざと三文貸した。(次第に涙ぐむ。さらにしみじみと・・)お前(おめぇ)もさぞかし、ひどい兄だと恨んだに違いねぇ(ちげぇねぇ)・・・・・・詫びる!竹。この通りだ。竹、許してくれぇ」
(頭を下げる兄。何度も下げる)
「(泣き伏す竹次郎)あ・に・さ・ん!・・・・兄さん・・・すんません。おらぁも、あん時、兄さんが三文、三文、貸してくれた・・・まるで、鬼みてぇだと・・(ふと、気づく。言いかけて・・)まるでお兄様みてぇだと・・・(洟をすすり上げて)恨んだ。恨んだけんど・・・そりゃおらが悪い!兄さん頭下げるのはおらの方だべ!どうか兄さん、勘弁しておくんなせぇ・・・兄さん!」
「竹、こんな兄。許してくれんだが・・」
「兄さんの気持ちもわからねぇでおらぁ・・・おらぁ・・・(泣きながら)」
「そうか、そうか竹!話が判れば、それでいいちゅうもんだ。なぁ、ゆっくりしてけ!
(奥へむかって、ぽんぽんと手を叩く)おい!出来た?うん!支度?そうけぇ。あぁこっちさぁ持って来(こ)!はやぐ!酒さぁこっちさぁ・・・」
(酒、肴。竹次郎と兄の前に運び込まれる)
「さぁ、さぁ久しぶりだぁ、なぁ竹!一杯呑んでけや!ゆっくりしていけ」
(これから、兄弟で、杯のやり取り・・)
「さぁ、さ。遠慮ぶたねぇでもっと呑めや。呑んだらよかんべぇ!」
「いや、兄さんの前だど遠慮ぶつこたぁねぇだが。今日はもう充分に馳走さぁなっただなぁ。そろそろおらぁ、おいとますべぇと思って・・」
「なんだぁ?帰ぇる?帰ぇるこたぁねぇだぁ、なぁ。久しぶりなんだで、竹。泊まってけや!」
「いや、こればっかりは・・・泊まっちゃなんねぇだべ・・」
「なんでいかねぇ・・ふふふ・・汝のかみさん・・なんだ?うん?やきもちか?」
「いやぁ、そだなこったはねぇんだが、風が強いで、もし火事にでもあっっちゃなんねぇ。心配(しんぺえ)で帰らしてもろいてぇ・・」
「何だぁ(あんだぁ)そんだな事で帰ぇる事ぁねぇだな。汝んとこさぁ蔵もあんべぇ・・」
「いや、蔵たって、兄さんとこのような立派な蔵でねぇ。おらんとこはもうぼろ蔵だで。鼠穴だらけで・・もし火事にでもあっちゃぁ、身代(しんでぇ)無くしてしまうべ・・」
「はははは・・・竹。そんなお前ぇ、先の先まで案じていたら命がいくつあっても足りねぇちゅうもんだ。ははは・・なぁ(思い出すように)じゃぁこうすべ!そんだな事はねだが、いや、竹、ねぇんだど!もし、おめぇの家が焼けるようなことがあったら、おらの身代ぇそっくりおめぇさやるべ!そんでどうだ!な?そんだらよかんべぇ。十年前ぇじゃぁ三文しか貸せねぇが、今の汝(われ)ならおらの身代そっくり渡しても決して惜しくはねぇ!・・・まぁええっちゅうに!泊まってけや!・・・おめぇの苦労はよぉぉく知ってる。んだども、おらもここまでなるには、人にも言えねぇ辛ぇ事もあった。そんだな事をお互ぇに、話てみてぇ・・・いいから、なぁ竹。泊まっていけや!」
と久しぶりに兄弟、枕を並べてぐっすり寝込みました。


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2 コメント

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気になりますね~ (ひー)
2009-04-30 13:30:19
やはり、先に見ないで正解です。
鼠穴が出てきましたね。
風も気になります。
枕を並べて・・・・さて、どうなる???
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ひー様へ その二でもって・・ (酔漢です )
2009-04-30 17:42:18
ようやく、前半部分が終わったところです。
ですから、まだ先はあるのでした。
落ちへ繫がる大事なところです。
演じておりますと、ここを丁寧にすることが後半へのポイントになるのでした。
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