酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

仙台与太郎物語 ほめることのむずかしさ 前編

2009-01-19 09:40:58 | 落語の話?
「仙台タウウン情報さぁ募集載せたら、東北大学から出演申し込みがあったど」
第一回寄集め落語会開催です。話しておりますのは「強家語児羅」(つよいやごじら)君です。
彼、仙台向山高校落研の後輩。学年で言いますと3年あん好→2年からす→1年
語児羅となるのでした。ちなみにこの話しの頃は、からす君、宮城教育大1年。酔漢プー太朗でした。
「誰がエントリーすんのっしゃ?」
「『くるみ』さんだっちゃ」
「東北大学からの申し込みでねぇのっしゃ。彼女自ら連絡してきたのっしゃ」
「寄集め落語会」は連絡先を「語児羅」君の家にしていたのでした。
あのーですね。この頃は当然、今の家内など知る由もしないわけです。
後々に解ったことなのですが、この語児羅君と酔漢の家内とは、中学の同級生だったのでした。世の中狭いです。
この落語会のコンセプトが「落語する者この指止まれ」だったわけです。

打ち合わせです。
「こんにちわ」と、くるみさん。
「この前、東北大の高座見たっちゃ。『くるみ』さん『子ほめ』してたっちゃね」
「そうなんですよ。ですから、今度も『子ほめ』やってもいい?」
番組的には、「少し後ろにしようか」と話していた僕らでした。
「んで、くるみさんトップバッターでいいすか?」
「いいですねぇ。案外好きなんですよ。最初って」
番組の構成は頭を悩ませます。「取り」と「中取り」を最初に決めて、その前後を固めるように構成します。
でも、どの落語会でも、「一番」はプレッシャーが掛かるものなのです。
「彼女の『子ほめ』なら間違いねぇっちゃ」
逆に僕らの方にプレッシャーが掛かりました。

「こんちわー。おうご隠居さんいるかーい」
「あっ、ばあさんや。表に口の悪い奴が来やがった。八公だ。しょうがねぇ酒のしたくでも。そうそうすぐ追い返すから・・・(表見ながら)どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもねぇ。今ね表でもって、金公の奴に会ったんだ。あの野郎気持ちよさそうに酔ってやがる。『おう!どうしたんだい』って聞いたら『ご隠居のところでただの酒をごっち(ご馳走)になった』って言いやがった。おい!金公に飲ませて俺に飲ませねぇこたぁねぇだろう?俺にも飲ませろ!ただの酒だせぇい」
「何馬鹿な事言ってんだい。家に『ただの酒』なんてぇのはない」
「なにぃ!ただじゃねぇぇ?銭とんのか!」
「何言ってんだい。金公に飲ませたのは『ただ』じゃぁない。あれは『灘』の酒だ!」
「なんだい『灘』かい?おい。俺ぁてっきり『ただ』かと思っちまった・・なんでもいいや、ご隠居、酒出せぇい」
「まったくお前は人に対する口の聞き様というものを知らん奴だ。人様から酒をごっち(ご馳走)になろうかと思ったら、『世辞・愛嬌』の一言ぐらい言ったらどうなんだい」
「なんだ?おいその『世辞・愛嬌』ってのは」
「持ち上げるんだよ」
「なあんんだ。簡単だよ。俺力あるんだよ。ご隠居なんて簡単に持ち上げちまうよっと。よーーつと」隠居を持ち上げようとする
「おいおい、その持ち上げると言う事ではない。言葉で持ち上げるんだ」
「なんだと?言葉で持ち上げる?」
「そう、言葉じゃ。例えばな『ご隠居さんはたいそうお長生き、ご長命でございますな』とでも言ってごらん。『ほう、そうか、ありがとうよ』(右手をさしだしながら)では一杯。と酒を勧める手が自然にでるじゃないか」
「なるほどねぇ。んじゃ簡単だよ。言ってやるよ!『ご隠居さん長生きだねぇ』」
「そうかい、ありがとう。そんな長生きか・・ね・・」
「そう、長生き。後がつかえてるじゃねぇか・・早く逝け!」
「そこがお前さんの口の悪いところだ。お前さん、通りで知った顔に会ったとしよう。何て言うんだい?」
「表で知った顔?そうだなぁ『おう、よく生きてたねぇ』」
「そんな事言って酒などご馳走しようなんて考える奴なんざぁいるかい!。例えばその人が商売をしていたとしよう。こう言ってごらんよ『久しくお目にかかっておりませんでしたが、どちらかへお出かけでございましたでしょうか。道理でお顔が黒くなっていると思いました。そうやってお顔が黒くなるまでお働きになる。でもご安心下さい、故郷の水でお顔を洗えばもとの通り白くなります。商売繁盛。誠に結構なことでございます』とな。そうしたら相手も悪い気がしないからこう言い返すに決まっている『どうです、ここいらで一杯でも』と。相手を誉めることが肝心なんだ」
「へぇそういうもんかね。他にはありやすか?」
「そうさなぁ。相手の年を聞くのもよかろう」
「えっつ?年なんて聞くのかい」
「ああそうだ。見た目よりも若く言うのがいいじゃろうて・・相手の年を聞くとするすると相手が『四十五』と言ってくる。こう答えてみてごらん『ほう、四十五とは大変お若く見えますな。どう見ても厄そこそこ』と、こう言うんだ」
「何ぃ?百そこそこ?これじゃぁ年よりもたいそう年取って・・・」
「違う!厄だ。お前さん厄をしらのかい。四十二に見えるということだ」
「へぇなるほどねぇ。でもよ、ご隠居。相手が五十だったら何て言えばいいんです?」
「そしたら、四十五・六と」
「七十だったらどうします?」
「六十五・六とな」
「八十だったら」
「七十五・六」
「九十だったら」
「八十五・六」
「百二十八歳だったら?」
「そんな奴がお前さんの前にいるかい!」
「へへ、いやしやせん」
「それ見ろ!」
「だったらご隠居さん。逆に若いのなんかどうするんです?赤ん坊とか」
「おういきなり赤ん坊か。どうしたんだい?」
「いやね。竹んところに先だって子供が産まれたって話しなんでさぁ。赤ん坊だから『どうみても、二・三ヶ月に見えます』とか」
「それ以上若くなんてなりゃしないよ。赤ん坊には赤ん坊なりの誉め方というものがある。間違っちゃいけないのは、赤ん坊を誉めながら、その身内を誉めることだな。こうするんだ。『失礼な事をお聞きするようですが、このお子さんは、あなたのお子様でしょうか。このようなおこさんがいようとはついぞ知りませんでした。額のあたりから耳下にかけましては、お父様そっくりでございます。目元はおかぁさまそっくりで円らな瞳をしていらっしゃいます。総体を見ませば、お亡くなりになりました緒爺様そっくりでございます。なんと福々しいお子様でしょうか。蛇は寸にしてその気を表す。実のなる木は花よりも知れず。栴檀は双葉より芳し。と申します。私もこのようなお子様にあやかりたい、あやかりたい』と。こう言われて悪い気持ちになる親なんぞいやしないもんだ。『どうです一杯』とお酒を勧められるじゃろうて・・」
「なるほどねぇ。流石にご隠居だねぇ。伊達に長生きしてるわけじゃねんだねぇ。『早く逝け』なんて先ほどは失礼いたしやした。言い方変えますんで・・やっぱりそんじゃぁ、ご隠居はこうですね!『憎まれっ子世にはばかり』って」
「汚ねぇじゃないか。それを言うなら『世にはばかる』って・・・馬鹿もん!それでも誉め言葉になりゃしねぇじゃねぇか・・・おい、おいどこ行くんだい?」
「へつへぇ。ちょっくら行ってくらぁ」

八つあん。ご隠居の家から表へ飛び出します。
「子ほめ」この噺はリズム感と八の間の抜けた気配りをどう演出するかが鍵となります。メジャーな噺なので、落ちは知られております。ですから、本人の感性とくすぐりの腕がものを言います。

日立ファミリーセンター楽屋。
「くるみさん。さすがだべ。痞えてねぇっちゃ」
「どころでねえぇべ。完璧だっちゃ。お客は少ねぇけんどっしゃ。みんな大うけだべ。んでも・・・」
「んでも何っしゃ?」
「彼女、高座に座っと、結構大きく見えっちゃ」
からす君と語児羅君の会話です。
その通りでした。彼女は完璧に客席の心を掴んでいたのでした。
スターターが絶好調。僕らは気持ちが高ぶりました。
かわいらしい彼女の大胆な演技が続きます。

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7 コメント

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お! (ひー)
2009-01-19 18:43:41
いいですね~
あっしは、落ちがわからねぇんで、後編が楽しみでさぁ~

ところで、この落語どうやって覚えるんですか?
テープでも聴くんですか?
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ただ酒といえば (クロンシュタット)
2009-01-20 06:16:24
大学2年の頃、サークルの部室に突然現れた40歳前後の男は、私にはまったくの初対面でした。
「俺は先輩なんだ。おごってやるぞ!飲みに行くか?」たとえ悪魔の囁きであろうとも、ただ酒に抵抗できる我々ではありません。
親しげな口調でした。その場にいた5、6人の仲間の誰かとは顔見知りなんだろう、そう思わせる態度でした。

夏の盛りでしたので、新宿の小田急デパート屋上のビアガーデンに出撃しました。新宿西口の高層ビル街が望まれます。
で、ここぞとばかりに生ビールを詰め込んだ?我々でした。支払いを済ませてもらい、そのままあっという間にその男は去っていきました。そのあとに皆で確認しあったのですが、結局のところ誰一人知らない男でした。会話の中身からも、どうも大学OBですらないような、そんな印象でした。
おごる方もおごられる方も、なんかね、むちゃくちゃな時代でした。
返信する
つい手が出ちまったいッ! (ぐずら)
2009-01-20 20:22:54
小学館のCD付きマガジン「落語/昭和の名人/決定版vol.1」
たいがいのところ、この手のマガジンには記事は名人、録音は若手というのが多いんで
ふだんは手を出さないんだけど、
今回は、記事録音とも三代目志ん朝、
ネタは「夢金(33分52秒)」と「品川心中(31分08秒」・・・
しかも初回価格なんと490円!(次号以降1190円)
次号五代目志ん生、次々号五代目小さん・・・
で、つい持ち上げた手を下ろせなくなり、買ってしまいました・・・

今度ひーにも聞かせてやんべぇ~
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ひー様へ (酔漢です )
2009-01-21 09:54:10
おっしゃる通り、まずはその落語を聴きます。
ですが、聞くと、身振りであるとかわからない事がありますので、そこは、本を読むわけです。大概想像の部分もあるのですが、ビデオは当時高かったしソフトもあまりありませんでしたので。後は先輩から仕草とか教えられました。一つの噺を自分で作るのに一ヶ月程かけました。自分で脚本のようなノートを作っている人もおりましたが、僕はアバウトでした。
一つの演題が演じた回数だけ違ってくるのでした。ですが、ストップウォッチで計って、その間の秒数まで計算して演じている先輩もおりました。これまた伝説になっております。
彼の事は近じかお話したいと考えております。
後編は明日更新予定です。
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クロンシュタット様へ (酔漢です )
2009-01-21 09:59:47
「ただより恐いものはなし」
コメントを読んで、そのような落ちかと思いました。何事もなかったようで安心。
これまたあたらしい落ち?でしょうか。
従兄弟がおりまして、一つ上ですが。
玉川中学校、塩竈高校、そしてクロンシュタット様の後輩にあたります(大学が・・)
彼から話しを聞きますと、そのような事がありえそうな大学?といった雰囲気ですよね。

小田急ビアーデン。行きましたぁーーー。
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ぐずら様へ (酔漢です )
2009-01-21 10:07:34
買いました!!。
志ん朝師匠の「品川心中」さすがです。
「火炎太鼓」「幾世餅」
この師匠の面白いところは「乗ってるとき」と
「そうでないとき」との話しのギャップが楽しめる?ところかと・・・。
絶好調の師匠。もうだれも寄せ付けないオーラを感じます。お兄様「金原亭馬生」師匠のような不動心で話をされる(園生師匠のような)の聞きますと、父親の雰囲気を楽しめるのでした。「夢金」はもう490円以上の価値があります
ひとつ「ニコニコ動画」に収録されております
「談志師匠の『鼠穴』」と「小三治師匠の『鼠穴』」聞き比べますと、どちらも、それぞれの「凄さ」「凄み」に出合えます。
是非御一聴を!
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ちびちびと・・・ (クロンシュタット)
2009-01-22 06:18:44
相当に開放的な川内高校ではありましたが、高田馬場大学は、桁外れでした。
あの時代は、全国各地から「何かやってやるぞー」的学生が集まって来ていましたからね。
ネタ?は山ほどありますが、酔漢さんの話題に絡む範囲で、ちびちび出していきますね。

で、仙台時代の記憶をたどると、三女の友人が、たぶん落研の部長だったような記憶があります。
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