お侍の屋敷へ入ろうとしている甚兵衛さん。門番さんとの会話です。
「おう、道具屋か。聞いておるぞ。ここから屋敷へ入れ!」
「ヘイ。では、ここから・・はいらしてもらいやす・・。へぇ、俺が来るのをちゃんと知ってるんだ。さすが、きちんとしたお侍は違うもんだねぇ。(あたりを伺うように、キョロキョロしながら歩いていく甚兵衛)庭なんかてぇしたもんだぜ。この砂利。白いだけじゃねぇ、粒まで揃えてるようだ。植木だって、こりゃ、腕のいい植木職人がだよ、大勢かかってやらねぇことには、これだけの庭、つくりゃしねぇ・・・きれいな庭だぁなぁ・・・それに引き換えこの太鼓。きたねぇよなぁぁ(ため息交じりで・・ふと目を上に上げると・・)いい枝ぶりの大きな松の木だぁ。かかぁの野郎、言いやがったなぁ、本当にあるんだよぉ。思い出したじゃねぇか。『この無礼者!松の木に吊るしてしまぇ』・・・あの枝あたりなんかだよきっと・・そうなる前に太鼓置いてこよう!『申し訳ございませぇぇん。この太鼓はさしあげまぁぁすぅぅ』って、ひゅーってけぇってこよう!」
屋敷、裏口へ到着。
「えー、お頼み申します!道具屋でございます。お頼みもうします!」
「どーーれ。誰だその方は?」
「へぇ、道具屋でございます」
侍、裏方と話中・・「誰ぞ、聞いておるか。道具屋がまいっておる。そうか、その方が・・では拙者は・・」
「おう、道具屋。待っておったぞ」
店先に来ていた侍が登場する。
「へい、先ほどの太鼓を持参いたしやした」
「ふむ、ご苦労であった。遠慮せずともよい!ちとこちへ上がれ!」
「・・ええぇ・・あのぉ・・ここの方がいざという時に・・逃げられるぅ・・」
「何を申しておる。上がらなくてはお上に太鼓を見せられぬではないか。こっちへ上がって・・・」
「で・では、上がらしてもらいやして・・(しぶしぶ上がる)・・どっこいしょのしょっと・・」
背中に背負った太鼓を脇に置くようにして上がり、座り込む。
「その今しがた脇に置いたのが、先ほどの太鼓であるな。では、拙者がその太鼓を見るとするが、包みをほどいてもらえぬか」
「これをですかぁ。あのぉお侍様。ご覧になるのはちぃぃとばかしおよしになられた方がよろしぃかとぉ・・・思いやすがぁ・・」
「何を申しておるか!拙者が見なくては殿へ見せることが出来ないであろう。はようせい!」
「では、・・と・・(甚兵衛包みを解く。太鼓を侍の前へ差し出す)ぷはぁ(埃っぽい)ごほ・ごほ(少し咳き込む)・・これなんでございます」
「ほう!たいそう時代がかった太鼓でござるな」
「ええぇもうぅねぇ。時代が時代をかぶったような太鼓なんでございやす。へぇ。もうこの太鼓から時代を取りましたら、なぁぁんにも残らねぇんで・・」
「おかしな事を申すでない。では、早速殿にお見せするとしよう」
「見せるんですかぁ?お殿様へぇ?どうしてもぉぉぉ・・」
「その方商いをする気があるのか!」
「商いする気がぁ・・・はぁ・・・(小声で)ないようなぁ・・あるようなぁ・・」
「ええいよい!その方ここで待っておれ!拙者が、その太鼓を殿へ持ってまいる」
(侍、太鼓を持とうとする。思いのほか重たいのに気づく)
「お侍様重たいでしょ!重いのと汚いのは請負います。あのぉ『おもきたない』ってやつでして・・あっ という間に持っていっちめぇやがった。・・・これから来るんだろうなぁ『このようなむさい太鼓を持参するとは何と無礼な道具屋だぁ・・ひっ捕らえろぉぉ』って・・・・あっ お侍が戻って来た。やだなぁもう・・あのぉ・・どうでしたぁ?お殿様怒ってらっしゃって・・・」
「いや、いや、誠に御意に召されてな。お買い上げになられるそうじゃ」
「えっ?またぁ、ご冗談を!そうやって油断させておいて『松の木につるせぇ』って始まる寸法でぇ・・・しょ?」
「何をがっかりしておるのじゃ?その方売る気があるのか!」
「いやもう、売ります!売りますですぅ。。へい 売りやす!」
「そうか、売る気になったか。で、いくらで手放すな?」
「へ?いくら?で手放す・・と申されますと・・いくらでしょう?」
「その方、道具屋であろう。この太鼓の値を申せと言っておる!」
「へぇ、いくらと申されましても・・」
「はっきりせん奴だな。儲けるときにきちんと儲けるのか商人であろう。ではこちらから切り出すが・・手一杯申してみよ」
「手一杯でございますか・・では これくらい・・で(甚兵衛両手を一杯に広げて侍の前に出す。顔は下を向いたままである)いかがでしょう」
「ほう!両手一杯とな。で、いくらか?」
「十万両!」
「十万両?これはちと高すぎないか?」
「ええもう高いですよ。高いの通りこしてやすからねぇ。ここからもうへい、どんどんまけやす。もうねぇ。一日中まけます。どころか明日になってももうねぇ。負けやすから!」
「そのような商いがあるか。では、拙者が申そう。三百金ではどうじゃ」
「あ?左様でござ・・い・・やす・・か。あのぉ三百金ってなぁ、どのような三百金でございま す でしょう か?」
「わからん奴だ。三百両じゃ」
「はぁさんびゃく・・・両!!!ってどのような三百両で?」
「小判で三百じゃ!」
「小判で三百・・三百・・さ・・・ん・・びゃ・・くぅぅ うううう・・・」
(甚兵衛さん驚きのあまり泣き出している?)
「うぉーい!さんびゃく!はい!もうねぇ・・三びゃく・・びゃく・くださぁぁい!」
「何を裾にすがっておるか!ではここに受け取りを書いてもらおう」
「えっ?受け取り?いえいえそんな物、いりやせん!」
「こっちがいるのだ!ここに印を押してもらおう!」
「印でございますか?ここに?あっしのこれ(指で)でいいんですかい?ええもうねぇ。一杯おしやす!押しやす!もうねぇ(証文全部に何十箇所と押し続ける)ここと、ここに。そしてこっちも・・」
「これこれ!そんなに押したら証文が見えんではないか!」
「もうねぇ、これは出血大サービスでございやして・・」
「そんなサービスがあるか!いいかでは、ここに金子(きんす)を持っておる、その方しかと確かめるのだぞ。よいな!」
侍「では、まず五十両だ」
「ごじゅうりょう?ご・ご・ごじゅう・・両・・?」
「では、百両」
「ひ!ひ!ひぃひゃく・・・りょう・・りょう?」
「百五十両!」
「ひひぃぃぃぃやゃぁyl;l:;くごぉぉぉじゅいおぽういおぷいおりょう!」
「また泣いておる!では、二百両」
「・・・・・亜t区d分おうぇあいお0」
「二百五十両」
「あぁぁぁのぉぉ み・みず をを 下さいやし」
「しょうもない奴じゃな。これ水を持ってまいれ(甚兵衛さん。水を飲む。一息ついた様子)どうじゃ。これ三百両じゃ」
「さんびゃく びゃく びゃく りりりり りょう!!!!」
「おい!しっかりいたせ!その柱に捕まっておれ!」
「これ、本当にあっしが頂いてよろしいんで?」
「その方の商いによってつかわした金子である。その方の物であろう」
「えぇぇえぇ、もうねぇ(お金を懐へ入れながら)これはね、あっしが頂いて行きやす。えぇもうねぇ。で。お侍様、あっしは、一度売ったものは二度とお返しはいたしやせんで、へぇ。これは、おじいちゃんからの遺言でございやして・・でお侍様、お伺いしたいんでございやすが。あの汚い太鼓がなんで三百両もいたしやすんで?」
「なんじゃ、商いをしていてその方もしらんのか!いやな拙者も良くは知らんのだが、お上がその様なものに目がお高くてな。なんでも『火炎太鼓』と申して、世に二つとない名器であるそうな。これ道具屋、よく見つけたな」
「さいですか?・・ではあっしはこれにて・・」
「おい!風呂敷をわすれ・・・これ!」
「風呂敷はあんたにあげます!」
「へぇ、火炎太鼓ねぇ・・ども!門番さん!では!」
「商いはあったようじゃな」
「よけいなお世話だ・・てんだ!」
帰り道。独り言である。
「かかぁのやろう!今に見てろ!死ぬほど食わしてやるからなぁ・・やいこん畜生めぇ、今けぇった!」
「どうしたんだい!おまえさん!早くお逃げよ!」
「何言ってやがんでぇ!あああののの・・・落ち着きやがれ!」
「お前さんが落ち着きなよ!」
「おっかぁ、いいかぁ!あの太鼓はこの世に二つとない太鼓で・・」
「お前さん一分で売ってきたんだろうねぇ」
「そう言おうと思ったら、舌が吊っちまった・・」
「もう肝心なときに舌がつるんだよ!まったく!舌抜くよ!」
「それでもって向こうがよ『手一杯申せ』って言うから両手広げて十万両って!」
「もう、馬鹿が固まってるよ!この人は」
「向こうが高いって・・」
「当たり前だよ、まったく!」
「そいからよ、ドンドン負けて、三百両で・・」
「お前さんも可愛いところあるじゃないか!そうでも言わなきゃおまんま食べさしてもらえないとか思ってさぁ」
「この野郎!本当に三百両で売れたんだよぉ!この懐の膨らんでるのが判らなねぇのかい!ここに持ってるんだ!」
「本当にかい?どうせまたウソなんだろう?本当だったら早く見せやがれ!馬鹿!」
「ようぅし!見せてやる!三百両見て、ビックリして座りしょんべんでもするんじゃねぇぞぉ いいかぁ そら 五十両 だぁ」
「おおまえさん 本当なの?」
「あたぼうでぇ!さぁどうでい!百両!」
「まぁ!百両なんてぇ・・・やだぁ!」
「『やだ』じゃねぇや、こん畜生!そうらぁ百五十両だぁぁぁぁ・・」
「まぁ!まぁ!ひゃく?ひゃく!ご?十両・・弱っちゃうぅぅ・・」
「おう!後ろの柱捕まってろよ!」
「こうかい」
「あぁ、そうだぁ! どうでぇ二百両だぁ」
「まぁお前さん!商売上手だねぇ」
「何言いやがる!そうら二百と五十両だぁ」
「お前さん!み・み・水をね飲ませておくれ!」
「そうなんでぇ!俺もなここんとこで水のんだんだ」
「さぁ三百両でぇ」
「まぁお前さん。本当の三百両だよぉぉ。でもあんな汚い太鼓がよく三百両で売れたねぇ!やっぱり、音がしたから良かったんだよぉ」
「ああそうさぁ、音がするもんに限るぜ!こんだぁ半鐘仕入れてこようって・・」
「ダメだよ!お前さん半鐘なんかじゃ おじゃん になるよ」
「22分とちょっと」最後のあたりで、リズムに乗り切った進笑さんです。
顔中汗びっしょり。
完璧な演技でした。
「進笑さん、時間なんですが」と酔漢が言いかけると・・
「あん好・・時間なんていいや・・練習しといて良かったよ・・」
最後は、やはり自分の計算を越えたところで集中していた様子でした。
進笑さん人前(ホールで)で落語をしたのがこれが最初。公演の後のアンケートにはこうありました「通る声に、あの顔けだけでも面白いのに、噺は完璧でした」と。
酔漢もこの「火炎太鼓」を高座にかけた事がございますが、後半のリズムが意外に難しく、難儀いたしました。言葉は難しくないのですが、間の取り方、ポジションのタイミングが難しい噺なのでした。
進笑さん、本当にすばらしい演技でした。この人が演じたこの噺も生涯忘れることの出来ない噺なのでした。
ところで・・・このブログの題が「火炎太鼓」ではなくて「かえんだいこ」と平仮名になっておりますが・・。
実は小学校のとき、「志ん生」師匠の「火炎太鼓」を初めて聞きましたが、題名を見ずに勝手に噺の内容から「かえんだいこ」=「買えん太鼓」→「お金をだしても買えない太鼓」だと信じ込んでおったのでした・・・・ちゃん!ちゃん!
「おう、道具屋か。聞いておるぞ。ここから屋敷へ入れ!」
「ヘイ。では、ここから・・はいらしてもらいやす・・。へぇ、俺が来るのをちゃんと知ってるんだ。さすが、きちんとしたお侍は違うもんだねぇ。(あたりを伺うように、キョロキョロしながら歩いていく甚兵衛)庭なんかてぇしたもんだぜ。この砂利。白いだけじゃねぇ、粒まで揃えてるようだ。植木だって、こりゃ、腕のいい植木職人がだよ、大勢かかってやらねぇことには、これだけの庭、つくりゃしねぇ・・・きれいな庭だぁなぁ・・・それに引き換えこの太鼓。きたねぇよなぁぁ(ため息交じりで・・ふと目を上に上げると・・)いい枝ぶりの大きな松の木だぁ。かかぁの野郎、言いやがったなぁ、本当にあるんだよぉ。思い出したじゃねぇか。『この無礼者!松の木に吊るしてしまぇ』・・・あの枝あたりなんかだよきっと・・そうなる前に太鼓置いてこよう!『申し訳ございませぇぇん。この太鼓はさしあげまぁぁすぅぅ』って、ひゅーってけぇってこよう!」
屋敷、裏口へ到着。
「えー、お頼み申します!道具屋でございます。お頼みもうします!」
「どーーれ。誰だその方は?」
「へぇ、道具屋でございます」
侍、裏方と話中・・「誰ぞ、聞いておるか。道具屋がまいっておる。そうか、その方が・・では拙者は・・」
「おう、道具屋。待っておったぞ」
店先に来ていた侍が登場する。
「へい、先ほどの太鼓を持参いたしやした」
「ふむ、ご苦労であった。遠慮せずともよい!ちとこちへ上がれ!」
「・・ええぇ・・あのぉ・・ここの方がいざという時に・・逃げられるぅ・・」
「何を申しておる。上がらなくてはお上に太鼓を見せられぬではないか。こっちへ上がって・・・」
「で・では、上がらしてもらいやして・・(しぶしぶ上がる)・・どっこいしょのしょっと・・」
背中に背負った太鼓を脇に置くようにして上がり、座り込む。
「その今しがた脇に置いたのが、先ほどの太鼓であるな。では、拙者がその太鼓を見るとするが、包みをほどいてもらえぬか」
「これをですかぁ。あのぉお侍様。ご覧になるのはちぃぃとばかしおよしになられた方がよろしぃかとぉ・・・思いやすがぁ・・」
「何を申しておるか!拙者が見なくては殿へ見せることが出来ないであろう。はようせい!」
「では、・・と・・(甚兵衛包みを解く。太鼓を侍の前へ差し出す)ぷはぁ(埃っぽい)ごほ・ごほ(少し咳き込む)・・これなんでございます」
「ほう!たいそう時代がかった太鼓でござるな」
「ええぇもうぅねぇ。時代が時代をかぶったような太鼓なんでございやす。へぇ。もうこの太鼓から時代を取りましたら、なぁぁんにも残らねぇんで・・」
「おかしな事を申すでない。では、早速殿にお見せするとしよう」
「見せるんですかぁ?お殿様へぇ?どうしてもぉぉぉ・・」
「その方商いをする気があるのか!」
「商いする気がぁ・・・はぁ・・・(小声で)ないようなぁ・・あるようなぁ・・」
「ええいよい!その方ここで待っておれ!拙者が、その太鼓を殿へ持ってまいる」
(侍、太鼓を持とうとする。思いのほか重たいのに気づく)
「お侍様重たいでしょ!重いのと汚いのは請負います。あのぉ『おもきたない』ってやつでして・・あっ という間に持っていっちめぇやがった。・・・これから来るんだろうなぁ『このようなむさい太鼓を持参するとは何と無礼な道具屋だぁ・・ひっ捕らえろぉぉ』って・・・・あっ お侍が戻って来た。やだなぁもう・・あのぉ・・どうでしたぁ?お殿様怒ってらっしゃって・・・」
「いや、いや、誠に御意に召されてな。お買い上げになられるそうじゃ」
「えっ?またぁ、ご冗談を!そうやって油断させておいて『松の木につるせぇ』って始まる寸法でぇ・・・しょ?」
「何をがっかりしておるのじゃ?その方売る気があるのか!」
「いやもう、売ります!売りますですぅ。。へい 売りやす!」
「そうか、売る気になったか。で、いくらで手放すな?」
「へ?いくら?で手放す・・と申されますと・・いくらでしょう?」
「その方、道具屋であろう。この太鼓の値を申せと言っておる!」
「へぇ、いくらと申されましても・・」
「はっきりせん奴だな。儲けるときにきちんと儲けるのか商人であろう。ではこちらから切り出すが・・手一杯申してみよ」
「手一杯でございますか・・では これくらい・・で(甚兵衛両手を一杯に広げて侍の前に出す。顔は下を向いたままである)いかがでしょう」
「ほう!両手一杯とな。で、いくらか?」
「十万両!」
「十万両?これはちと高すぎないか?」
「ええもう高いですよ。高いの通りこしてやすからねぇ。ここからもうへい、どんどんまけやす。もうねぇ。一日中まけます。どころか明日になってももうねぇ。負けやすから!」
「そのような商いがあるか。では、拙者が申そう。三百金ではどうじゃ」
「あ?左様でござ・・い・・やす・・か。あのぉ三百金ってなぁ、どのような三百金でございま す でしょう か?」
「わからん奴だ。三百両じゃ」
「はぁさんびゃく・・・両!!!ってどのような三百両で?」
「小判で三百じゃ!」
「小判で三百・・三百・・さ・・・ん・・びゃ・・くぅぅ うううう・・・」
(甚兵衛さん驚きのあまり泣き出している?)
「うぉーい!さんびゃく!はい!もうねぇ・・三びゃく・・びゃく・くださぁぁい!」
「何を裾にすがっておるか!ではここに受け取りを書いてもらおう」
「えっ?受け取り?いえいえそんな物、いりやせん!」
「こっちがいるのだ!ここに印を押してもらおう!」
「印でございますか?ここに?あっしのこれ(指で)でいいんですかい?ええもうねぇ。一杯おしやす!押しやす!もうねぇ(証文全部に何十箇所と押し続ける)ここと、ここに。そしてこっちも・・」
「これこれ!そんなに押したら証文が見えんではないか!」
「もうねぇ、これは出血大サービスでございやして・・」
「そんなサービスがあるか!いいかでは、ここに金子(きんす)を持っておる、その方しかと確かめるのだぞ。よいな!」
侍「では、まず五十両だ」
「ごじゅうりょう?ご・ご・ごじゅう・・両・・?」
「では、百両」
「ひ!ひ!ひぃひゃく・・・りょう・・りょう?」
「百五十両!」
「ひひぃぃぃぃやゃぁyl;l:;くごぉぉぉじゅいおぽういおぷいおりょう!」
「また泣いておる!では、二百両」
「・・・・・亜t区d分おうぇあいお0」
「二百五十両」
「あぁぁぁのぉぉ み・みず をを 下さいやし」
「しょうもない奴じゃな。これ水を持ってまいれ(甚兵衛さん。水を飲む。一息ついた様子)どうじゃ。これ三百両じゃ」
「さんびゃく びゃく びゃく りりりり りょう!!!!」
「おい!しっかりいたせ!その柱に捕まっておれ!」
「これ、本当にあっしが頂いてよろしいんで?」
「その方の商いによってつかわした金子である。その方の物であろう」
「えぇぇえぇ、もうねぇ(お金を懐へ入れながら)これはね、あっしが頂いて行きやす。えぇもうねぇ。で。お侍様、あっしは、一度売ったものは二度とお返しはいたしやせんで、へぇ。これは、おじいちゃんからの遺言でございやして・・でお侍様、お伺いしたいんでございやすが。あの汚い太鼓がなんで三百両もいたしやすんで?」
「なんじゃ、商いをしていてその方もしらんのか!いやな拙者も良くは知らんのだが、お上がその様なものに目がお高くてな。なんでも『火炎太鼓』と申して、世に二つとない名器であるそうな。これ道具屋、よく見つけたな」
「さいですか?・・ではあっしはこれにて・・」
「おい!風呂敷をわすれ・・・これ!」
「風呂敷はあんたにあげます!」
「へぇ、火炎太鼓ねぇ・・ども!門番さん!では!」
「商いはあったようじゃな」
「よけいなお世話だ・・てんだ!」
帰り道。独り言である。
「かかぁのやろう!今に見てろ!死ぬほど食わしてやるからなぁ・・やいこん畜生めぇ、今けぇった!」
「どうしたんだい!おまえさん!早くお逃げよ!」
「何言ってやがんでぇ!あああののの・・・落ち着きやがれ!」
「お前さんが落ち着きなよ!」
「おっかぁ、いいかぁ!あの太鼓はこの世に二つとない太鼓で・・」
「お前さん一分で売ってきたんだろうねぇ」
「そう言おうと思ったら、舌が吊っちまった・・」
「もう肝心なときに舌がつるんだよ!まったく!舌抜くよ!」
「それでもって向こうがよ『手一杯申せ』って言うから両手広げて十万両って!」
「もう、馬鹿が固まってるよ!この人は」
「向こうが高いって・・」
「当たり前だよ、まったく!」
「そいからよ、ドンドン負けて、三百両で・・」
「お前さんも可愛いところあるじゃないか!そうでも言わなきゃおまんま食べさしてもらえないとか思ってさぁ」
「この野郎!本当に三百両で売れたんだよぉ!この懐の膨らんでるのが判らなねぇのかい!ここに持ってるんだ!」
「本当にかい?どうせまたウソなんだろう?本当だったら早く見せやがれ!馬鹿!」
「ようぅし!見せてやる!三百両見て、ビックリして座りしょんべんでもするんじゃねぇぞぉ いいかぁ そら 五十両 だぁ」
「おおまえさん 本当なの?」
「あたぼうでぇ!さぁどうでい!百両!」
「まぁ!百両なんてぇ・・・やだぁ!」
「『やだ』じゃねぇや、こん畜生!そうらぁ百五十両だぁぁぁぁ・・」
「まぁ!まぁ!ひゃく?ひゃく!ご?十両・・弱っちゃうぅぅ・・」
「おう!後ろの柱捕まってろよ!」
「こうかい」
「あぁ、そうだぁ! どうでぇ二百両だぁ」
「まぁお前さん!商売上手だねぇ」
「何言いやがる!そうら二百と五十両だぁ」
「お前さん!み・み・水をね飲ませておくれ!」
「そうなんでぇ!俺もなここんとこで水のんだんだ」
「さぁ三百両でぇ」
「まぁお前さん。本当の三百両だよぉぉ。でもあんな汚い太鼓がよく三百両で売れたねぇ!やっぱり、音がしたから良かったんだよぉ」
「ああそうさぁ、音がするもんに限るぜ!こんだぁ半鐘仕入れてこようって・・」
「ダメだよ!お前さん半鐘なんかじゃ おじゃん になるよ」
「22分とちょっと」最後のあたりで、リズムに乗り切った進笑さんです。
顔中汗びっしょり。
完璧な演技でした。
「進笑さん、時間なんですが」と酔漢が言いかけると・・
「あん好・・時間なんていいや・・練習しといて良かったよ・・」
最後は、やはり自分の計算を越えたところで集中していた様子でした。
進笑さん人前(ホールで)で落語をしたのがこれが最初。公演の後のアンケートにはこうありました「通る声に、あの顔けだけでも面白いのに、噺は完璧でした」と。
酔漢もこの「火炎太鼓」を高座にかけた事がございますが、後半のリズムが意外に難しく、難儀いたしました。言葉は難しくないのですが、間の取り方、ポジションのタイミングが難しい噺なのでした。
進笑さん、本当にすばらしい演技でした。この人が演じたこの噺も生涯忘れることの出来ない噺なのでした。
ところで・・・このブログの題が「火炎太鼓」ではなくて「かえんだいこ」と平仮名になっておりますが・・。
実は小学校のとき、「志ん生」師匠の「火炎太鼓」を初めて聞きましたが、題名を見ずに勝手に噺の内容から「かえんだいこ」=「買えん太鼓」→「お金をだしても買えない太鼓」だと信じ込んでおったのでした・・・・ちゃん!ちゃん!
「かえんだいこ」なるほど、その方がいいでしょうね。
小生、マジックをチョットやってました。
マジシャンは、今からどんな現象が起こるマジックかは話しません。
それと同じような感じですね。
楽しく、拝読しました。
ありがとうございます。
1両あれば庶民は1年暮らせたとか、いや数両は必要だったとか・・・
まあ、とにかく、300両は、ものすごい大金であったことでしょうね。
で、平成の庶民はってーと、私のビール用の陶器コップが9,000円でがす。
これが普段の生活では最大最高の贅沢でして。
でも、中身は130円の第三のビールなんですがね。
たまにはね、プレミアビールなんぞ。
こう、鯨の刺身をぐわっと食しつつ。
ぶつぶつぶつぶつ・・・
はてさて、ぐずら様が最近お買いになられました雑誌にも同じ演題が入っております。
是非御一聴を。
落語をブログでと思ったのはいいのですが、落語を書くのに熱中しまして、あっという間に字数がオーバーしかかるのでした(笑)
お読みになられる方の事を少しは考えませんといけませんよね。
基本的には四進法なのです。
でも、これとも違う場合がありまして。
甚兵衛さん三百両という物凄い大金を得たわけですから、これからどんな生活を送るのか、非常に興味があるところではございます。
以前「芝浜」で五十両を拾った勝五郎さんを語りましたが、五十両でも、相当な大金。
自分だったら、「もう働くのよそう!」
かもしれません。
オズと申します。
はじままして!!
落語の話と思い、お邪魔したのです。
若いとき「じゅげむじゅげむ」を
暗記して、よく皆を笑わせてました。
先日その話を娘にしてたら、
「今でも言えるの?」と言われて、調子に乗って言い出したら、
最近のことなど、覚えられないのに、
サラで言えた自分に、ビックリ!!
若いときの記憶って凄いなー思いました。
初めてのコメントなのに、
自分のことですみません。
今度ゆっくり、酔漢さんのブログ読ませてもらいますね。
ほんの隣り町に住んでる割にはなかなか会う機会ができないので
ひーのところへCD送ったらさっそく記事にしてました。
そしたら常連さんたちも落語の話題に反応してるし・・・
酔漢さんの「かえんだいこ」の訳、なっとくです
こどもの頃って知らないコトバは、
知ってるコトバの意味で理解しようとするもんですよね
帰ってみれば恐い蟹
夕焼け小焼けの赤とんぼ
追われてみたのはいつの日か
確かに昔の貨幣価値はピンと来ませんね。
手がかりは日本の場合は米の値段、
西洋の場合は小麦粉の値段だそうです。
なんでも江戸時代(といってもどの時期かはわかんないですけど)、女中奉公を一年間やった給金が一両だったそうです。
東海道を大人一人が旅して、かかる費用が五両(片道か往復かは不明)。
大相撲の「十両」って、年間の給金が「十両」だったことから来てるそうですね。
あと、「十両盗めば首が飛ぶ」。
昔の刑法はキビシかったですね・・・
何でも江戸時代の窃盗事件について、被害届けも判決書も、とってつけたように「九両三分二朱」ってのがヤタラメッタラ多いんだそうです。意図的に十両から二朱引いて、死刑を回避したことの表れだとか(山本博文さんの本が面白いです)。
四朱=一分 四分=一両・・・
酔漢さんの「江戸時代の通貨は四進法」を裏づける話です。
初めまして、酔漢でございます。
コメント拝読いたしました。ありがとうございました。
今は落語を中心に語っております。
その前はお酒(もっぱらウィスキー)そして、小学校の頃やらいろいろな話題で「くだをまいて」おります。
郡山の美容室なんですね。
オズ様のブログにも遊びに参りますね。
今後とも宜しくお願いいたします。
CDですよね。私も買い求めました。
親子での写真となっております。
いずれお話しようと考えておりますが「金原亭馬生」師匠の「そば清」の音か映像を探しております。あまり知られてはおりませんが私の中では「絶品中の絶品」です。
一度ラジオでやっていたのを聞いたのですが、この一度限りで(録音できなかったのです)二度は聞いておりません。
ところで「ブログ内 落研」作りましょうか!
そして「九両三分二朱」の被害届。
本当の話だったそうです。
もしよろしければ「ニコニコ動画」で「落語 柳家小三治 鼠穴」で検索して、聞いてみてください。このあたりの事情をまくらにしております。
見事な解説!
ありがとうございました。
山本氏の本、私も読みました。これお薦めですよね!
そう・・・
「越後屋、お主も悪よのう」
「いえいえ、お奉行様ほどではございませぬ」
のアレですよ。
菓子折の中の「山吹色のお菓子」でなくて、
白い包みを渡すやつがありますね。
いわゆるソデノシタ。
あの包み、一つが二十五両。
包み二つで五十両ってのが
ワイロの相場だったんだそうです。
両人時代に予備校の先生から教わりました。
共通一次にゃ出ませんでしたが・・・
最近、下の息子が相手です。
今でも時々「お代官ごっこ」をしませんと。
で、商人が小生で悪代官が愚息。
弥七がおりません。
シティラピッド君を誘いますが「俺は知らん!」と言っております。
たった一言の台詞
「へぇぇぇ・・そういう訳だったのかい!」
「何者!」
天井裏へ槍を刺す。
「おぉーっと。あぶねぇ!あぶねぇ」
これですよ!これ!
あぁーあ!
本気になって、やりてぇぇぇ!
今度相手して下さい!(懇願!)