甚兵衛さん今朝の仕入でもって古い太鼓を買ってまいりました。おかみさん、いつものように?お説教を始めております。
そのおかみさんのお説教から噺は始まります。
「太鼓なんて買ってきやがって、本当にお前さんは商売する気があるのかい?太鼓なんてなぁねぇ『際物』と言って、一番商売が難しいんだよ!知ってて買ってきたのかい?お祭りだとか初牛とかに、その日に買ってその日に売っちまうのが普通じゃないかい!どんな太鼓かよーーく見せてご覧よ!・・こっちへお出し!私が普通に話しをしている間にお出しったら!」
「何が普通にしている間だぁ!うるせぇかかぁだなぁまったく!べらぼうめぇ!見せてやらぁ!」
甚兵衛さん、しぶしぶ太鼓を表へ出す。おかみさんに見せる。
「うっつまぁぁぁぁーーーーー。き・た・な・い・太鼓だねぇ!」
「何言ってやがんでぇ、だから素人だって言ってんだ!これはな汚いって言うんじゃねぇんだ。時代が掛かっているって言うんだ。おらぁ古いもんには、商いで失敗したことなんてぇねぇんだ!」
「ウソ言ったねぇ。じゃぁこの前の『家康の尿瓶』あれ、まだ残ってるじゃないかい!」
「あれは・・な・・確かに失敗だ。あとは『巴御前の鉢巻』とか・・」
「それごらんよ!おまぇさん失敗ばかりじゃないか!どうするのさぁ!この太鼓。売れやしないよ!」
「そんなもん店出してみなきゃぁ、判らねぇじゃねぇか!」
「で、いくらで買ったんだい?」
「二分」
「まぁ二分も出したのかい!」
「うるせぇなぁ。 おーーい定公!ちょっとこっち来い!」
「おじさん、なんだい?」
「いいからこっち来て、その太鼓のほこりを叩いちまいな!」
「叩いたって無駄だよ!ほこり叩いちまったら、太鼓がなくなるよ!」
「うるせぇーーいいからな定公。表行ってほこり叩きな!」
「へぇぇい。おじさんとおばさん、またやりあってらぁ! ごほん・ゴホン・・
それにしても、すげぇ埃だ!埃で前が見えなくなっちまった! おじさぁん。汚ねぇ太鼓だねぇ!」
「お前まで言うこたぁなえんだよ!だまってやりやがれ!本当に!」
定吉、太鼓の埃を叩く。太鼓の音が出る。
ドン・ドン・ドドドドド・ドーーン!
「あれ?なんか面白い音がするぞぉ。(埃を叩きながら、太鼓の音を出す)ド・ドドドン・ドドドン・ドン!」(応援団の太鼓風に調子を付けて)
「お前のおもちゃに買ってきたんじゃなぁぁぁい!俺は『埃を叩け』って言ったんだ!太鼓を叩けって言ってねぇんだ!」
「だって。おじさん、本当に面白いんだこれ!ねぇ、真ん中じゃなくて、済みの方叩いてもさぁ、音が出るんだ、こいつぁ・・」
ドドドド・ドン・ドン・ドドドン・ドドドンドン!
そこへ、お侍が一人、店に入って来る。
「許せよ」
甚平小さな声で、慌てた様子。
「おい、馬鹿!お侍じゃねぇか!お前ぇは裏にすっこんでいろ! ヘイ何か御用でございましたでしょうか?」
「いや、さしたる用でもないが。今太鼓を叩いておったのはその方の店であるか」
「は?へい左様でございますが・・(小声で)何覗いてやがるんだ馬鹿!すっこんでろ!・・いやぁ、太鼓を叩いておったのはあっしじゃねぇんで・・へい・・こいつなんで、親戚から預かっておりやして、怠けてばかりいやがってロクな仕事しねぇんで・・へい・・なりはでかいのですが、年はまだ十一でござんす。お侍様、こいつの目を見てくださいやし。ね!目です。へい・・あのこう言った目は『ばかめ』と言いまして、味噌汁かなんかに入れやすと結構旨かったりなんか・・最近はサラダとかもよろしいようで・・」
「何を申しておる。いやな。別段、太鼓を叩いた事を咎めておるのではない!今お上が通りを御通行中の折、太鼓の音が耳に入った。『どのような太鼓か見たい』と、か様に申しておる。その太鼓を屋敷まで持参していただきたい。事によってはお買い上げになるやもしれん」
(小声で)
「上手く叩きやがったな!こん畜生。・・ヘイ!左様でございますか。太鼓を叩いたのはこちらの者でございます」
「おう、そうであったな。確か親戚の者と・・」
「そうなんでございます。親戚からあずかりましたしっかり者で、年は十五でございまし・・て・・」
「先ほどは十一と申しておったではないか」
「えぇえぇ、十一の時もあったなぁぁ・・と」
「おもしろい奴じゃ。屋敷は判るか?」
(侍、屋敷を教えている様子)
「へい!よく存じておりやす。へぇ、では持参いたしやすんで。では、お屋敷で。また。どうぞ!・・ほうれぇ、見ろ!店出すか出さねぇ内に売れちまったじゃねぇか。へへへ・・ざまぁみやがれってんだ!」(おかみさんへ言う)
「馬鹿だねぇお前さん!売れちゃいないよ!あれで売れたっておもってんのかい!本当にお目出度いねぇ。損の上塗りだよまったく。いいかいお前さん。お殿様は籠の中から音だけ聞いてんだよ。こんな汚い太鼓だなんて見ちゃいないんだよ。きっとね錦絵かなんか描いてある太鼓だと思っているんだよ。そこへもって、こんな汚い太鼓をさぁ屋敷へ持って行ってごらんよ『こんなむさい太鼓を持参するとは何事だぁ』って言われてさぁ、『この道具屋を逃がすでないぞぉ』って。家来もお殿様のご機嫌を伺うわけだろ『そこの者をひっ捕らえろ』でさぁ。屋敷の中をぐるぐる引きずり回されて。ああいうお屋敷には、必ず枝ぶりのいい大きい松の木かなんかあってだよ、『道具屋を縛り付けてしまえぇ』って。お前さん、一晩中松の木に縛られてさぁ。顔の上に蜘蛛なんか降りてくるんだよ。家になんか帰ってやこれないんだよ!ざまぁ見やがれ!」
「なんだか俺ぁ・・行くのよそう・・か・・なぁ」
「行かなきゃ行かないで『何故屋敷に太鼓を持参しない』とか、お侍に言われるのが落ちなんだからさぁ。お前さんが売れた、売れたで調子に乗っているから、冗談で言ったんだよぉ。いいかいお前さんお侍はさ『事によるとお買い上げになる』と言ったんだよ。『事によらない』ときはさぁ、お買い上げにならないかもしれないじゃぁないか。だからさぁ、お前さんこの太鼓二分で買ったんだろ?儲けようなんて、欲なんか持っちゃぁいけないよ!『この太鼓は二分で仕入ました口銭(こうせん)なんかいりません』って言ってさぁ。二分でいいから売ってくるんだよ。じゃやなきゃ、この太鼓は、あと三百年も残ってさぁ、尻尾なんか生えて化けて出て来るんだよ」
「おいおい、そこまで脅かすこたぁねぇじゃねぇか・・行ってくらぁ・・太鼓しょわせてくれぇぃ・・」
「いいかい、お前さん、判ってんだろうねぇ。売ってこなきゃ、おまんま抜きになるんだよ!」
「なんだよ、そりゃ?」
「口で言っても判らなきゃ、喰いもので教えるんだよ!」
「犬じゃねぇんだ!・・まったく」
「お前さんはね馬鹿なんだから。『今馬鹿が太鼓を背負ってるんだ。俺は馬鹿なんだ』って忘れちゃいけないよぉーー」
「うるせぇ、こん畜生!いまいましぃかかぁだなぁ、まったくもう!ガタガタ言いやがって、べらぼうめぇ。女あんんかこの世に腐るほどいやがんだってんだ!あおの野郎向こう脛蹴飛ばして、空の彼方まで飛ばしてやるぞ!まったくもう!冗談じゃねぇぇぇんだってってんだ!(大声でわめきながら通りを歩いると、お屋敷の前までやって来る)
「何だ、通りを変な奴が歩いて来る。こっちへ来るな・・その方何用か」
「へい、毎度あり!道具屋でございます」
「何だ道具屋か。その方が参るのは聞いておるぞ!こちらから入るがよい!」
道具屋、甚兵衛さん。屋敷の中へ入ってまいりました。
袖下(幕裏)時計を計測中の酔漢です。
「26分30秒」これは、「まくら」を入れてのフィニッシュまでの時間。「進笑」さん少しペースが早いようです。
「酔漢、ペースが狂っているようだったらサインを送ってくれ」
と打ち合わせました。サインも決めておりました。が、場内爆笑!
このままでいいと思いました。
「志ん生」師匠。「志ん朝」師匠とは違った「火炎太鼓」の完成です。独自の「くすぐり」も効果てきめん。嫌味なところなく(→客にこびるような「くすぐり」を無理矢理入れて来る若手の噺家がおります。あれはいただけません)うけております。「進笑」さん汗をかきながらの熱演です。
次回、いよいよ「落ち」に向います。
そのおかみさんのお説教から噺は始まります。
「太鼓なんて買ってきやがって、本当にお前さんは商売する気があるのかい?太鼓なんてなぁねぇ『際物』と言って、一番商売が難しいんだよ!知ってて買ってきたのかい?お祭りだとか初牛とかに、その日に買ってその日に売っちまうのが普通じゃないかい!どんな太鼓かよーーく見せてご覧よ!・・こっちへお出し!私が普通に話しをしている間にお出しったら!」
「何が普通にしている間だぁ!うるせぇかかぁだなぁまったく!べらぼうめぇ!見せてやらぁ!」
甚兵衛さん、しぶしぶ太鼓を表へ出す。おかみさんに見せる。
「うっつまぁぁぁぁーーーーー。き・た・な・い・太鼓だねぇ!」
「何言ってやがんでぇ、だから素人だって言ってんだ!これはな汚いって言うんじゃねぇんだ。時代が掛かっているって言うんだ。おらぁ古いもんには、商いで失敗したことなんてぇねぇんだ!」
「ウソ言ったねぇ。じゃぁこの前の『家康の尿瓶』あれ、まだ残ってるじゃないかい!」
「あれは・・な・・確かに失敗だ。あとは『巴御前の鉢巻』とか・・」
「それごらんよ!おまぇさん失敗ばかりじゃないか!どうするのさぁ!この太鼓。売れやしないよ!」
「そんなもん店出してみなきゃぁ、判らねぇじゃねぇか!」
「で、いくらで買ったんだい?」
「二分」
「まぁ二分も出したのかい!」
「うるせぇなぁ。 おーーい定公!ちょっとこっち来い!」
「おじさん、なんだい?」
「いいからこっち来て、その太鼓のほこりを叩いちまいな!」
「叩いたって無駄だよ!ほこり叩いちまったら、太鼓がなくなるよ!」
「うるせぇーーいいからな定公。表行ってほこり叩きな!」
「へぇぇい。おじさんとおばさん、またやりあってらぁ! ごほん・ゴホン・・
それにしても、すげぇ埃だ!埃で前が見えなくなっちまった! おじさぁん。汚ねぇ太鼓だねぇ!」
「お前まで言うこたぁなえんだよ!だまってやりやがれ!本当に!」
定吉、太鼓の埃を叩く。太鼓の音が出る。
ドン・ドン・ドドドドド・ドーーン!
「あれ?なんか面白い音がするぞぉ。(埃を叩きながら、太鼓の音を出す)ド・ドドドン・ドドドン・ドン!」(応援団の太鼓風に調子を付けて)
「お前のおもちゃに買ってきたんじゃなぁぁぁい!俺は『埃を叩け』って言ったんだ!太鼓を叩けって言ってねぇんだ!」
「だって。おじさん、本当に面白いんだこれ!ねぇ、真ん中じゃなくて、済みの方叩いてもさぁ、音が出るんだ、こいつぁ・・」
ドドドド・ドン・ドン・ドドドン・ドドドンドン!
そこへ、お侍が一人、店に入って来る。
「許せよ」
甚平小さな声で、慌てた様子。
「おい、馬鹿!お侍じゃねぇか!お前ぇは裏にすっこんでいろ! ヘイ何か御用でございましたでしょうか?」
「いや、さしたる用でもないが。今太鼓を叩いておったのはその方の店であるか」
「は?へい左様でございますが・・(小声で)何覗いてやがるんだ馬鹿!すっこんでろ!・・いやぁ、太鼓を叩いておったのはあっしじゃねぇんで・・へい・・こいつなんで、親戚から預かっておりやして、怠けてばかりいやがってロクな仕事しねぇんで・・へい・・なりはでかいのですが、年はまだ十一でござんす。お侍様、こいつの目を見てくださいやし。ね!目です。へい・・あのこう言った目は『ばかめ』と言いまして、味噌汁かなんかに入れやすと結構旨かったりなんか・・最近はサラダとかもよろしいようで・・」
「何を申しておる。いやな。別段、太鼓を叩いた事を咎めておるのではない!今お上が通りを御通行中の折、太鼓の音が耳に入った。『どのような太鼓か見たい』と、か様に申しておる。その太鼓を屋敷まで持参していただきたい。事によってはお買い上げになるやもしれん」
(小声で)
「上手く叩きやがったな!こん畜生。・・ヘイ!左様でございますか。太鼓を叩いたのはこちらの者でございます」
「おう、そうであったな。確か親戚の者と・・」
「そうなんでございます。親戚からあずかりましたしっかり者で、年は十五でございまし・・て・・」
「先ほどは十一と申しておったではないか」
「えぇえぇ、十一の時もあったなぁぁ・・と」
「おもしろい奴じゃ。屋敷は判るか?」
(侍、屋敷を教えている様子)
「へい!よく存じておりやす。へぇ、では持参いたしやすんで。では、お屋敷で。また。どうぞ!・・ほうれぇ、見ろ!店出すか出さねぇ内に売れちまったじゃねぇか。へへへ・・ざまぁみやがれってんだ!」(おかみさんへ言う)
「馬鹿だねぇお前さん!売れちゃいないよ!あれで売れたっておもってんのかい!本当にお目出度いねぇ。損の上塗りだよまったく。いいかいお前さん。お殿様は籠の中から音だけ聞いてんだよ。こんな汚い太鼓だなんて見ちゃいないんだよ。きっとね錦絵かなんか描いてある太鼓だと思っているんだよ。そこへもって、こんな汚い太鼓をさぁ屋敷へ持って行ってごらんよ『こんなむさい太鼓を持参するとは何事だぁ』って言われてさぁ、『この道具屋を逃がすでないぞぉ』って。家来もお殿様のご機嫌を伺うわけだろ『そこの者をひっ捕らえろ』でさぁ。屋敷の中をぐるぐる引きずり回されて。ああいうお屋敷には、必ず枝ぶりのいい大きい松の木かなんかあってだよ、『道具屋を縛り付けてしまえぇ』って。お前さん、一晩中松の木に縛られてさぁ。顔の上に蜘蛛なんか降りてくるんだよ。家になんか帰ってやこれないんだよ!ざまぁ見やがれ!」
「なんだか俺ぁ・・行くのよそう・・か・・なぁ」
「行かなきゃ行かないで『何故屋敷に太鼓を持参しない』とか、お侍に言われるのが落ちなんだからさぁ。お前さんが売れた、売れたで調子に乗っているから、冗談で言ったんだよぉ。いいかいお前さんお侍はさ『事によるとお買い上げになる』と言ったんだよ。『事によらない』ときはさぁ、お買い上げにならないかもしれないじゃぁないか。だからさぁ、お前さんこの太鼓二分で買ったんだろ?儲けようなんて、欲なんか持っちゃぁいけないよ!『この太鼓は二分で仕入ました口銭(こうせん)なんかいりません』って言ってさぁ。二分でいいから売ってくるんだよ。じゃやなきゃ、この太鼓は、あと三百年も残ってさぁ、尻尾なんか生えて化けて出て来るんだよ」
「おいおい、そこまで脅かすこたぁねぇじゃねぇか・・行ってくらぁ・・太鼓しょわせてくれぇぃ・・」
「いいかい、お前さん、判ってんだろうねぇ。売ってこなきゃ、おまんま抜きになるんだよ!」
「なんだよ、そりゃ?」
「口で言っても判らなきゃ、喰いもので教えるんだよ!」
「犬じゃねぇんだ!・・まったく」
「お前さんはね馬鹿なんだから。『今馬鹿が太鼓を背負ってるんだ。俺は馬鹿なんだ』って忘れちゃいけないよぉーー」
「うるせぇ、こん畜生!いまいましぃかかぁだなぁ、まったくもう!ガタガタ言いやがって、べらぼうめぇ。女あんんかこの世に腐るほどいやがんだってんだ!あおの野郎向こう脛蹴飛ばして、空の彼方まで飛ばしてやるぞ!まったくもう!冗談じゃねぇぇぇんだってってんだ!(大声でわめきながら通りを歩いると、お屋敷の前までやって来る)
「何だ、通りを変な奴が歩いて来る。こっちへ来るな・・その方何用か」
「へい、毎度あり!道具屋でございます」
「何だ道具屋か。その方が参るのは聞いておるぞ!こちらから入るがよい!」
道具屋、甚兵衛さん。屋敷の中へ入ってまいりました。
袖下(幕裏)時計を計測中の酔漢です。
「26分30秒」これは、「まくら」を入れてのフィニッシュまでの時間。「進笑」さん少しペースが早いようです。
「酔漢、ペースが狂っているようだったらサインを送ってくれ」
と打ち合わせました。サインも決めておりました。が、場内爆笑!
このままでいいと思いました。
「志ん生」師匠。「志ん朝」師匠とは違った「火炎太鼓」の完成です。独自の「くすぐり」も効果てきめん。嫌味なところなく(→客にこびるような「くすぐり」を無理矢理入れて来る若手の噺家がおります。あれはいただけません)うけております。「進笑」さん汗をかきながらの熱演です。
次回、いよいよ「落ち」に向います。
そういった交流?があったことを実感できるのが落語の世界ですね。
先日、カミさんちの畑の脇を、視察のため両陛下の車列が通過しました。
あん時に太鼓でも叩いてれば・・・
こりゃ~ブログでも、落ちを引っ張るなんぞ、なかなかやるじゃありませんか・・・
なんて、言える私ではありませんが面白いですねぇ
後編楽しみです。