酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

仙台与太郎物語 マドンナ登場! 後編

2009-02-04 10:48:22 | 落語の話?
この落語会には登場しておりませんでしたが宮城教育大学「可愛家奇矯」さんは、中国語が堪能で「時そば」を中国語で留学先(中国です)で「時粒麺」をやったのでした。一度聞きましたが、言葉が判らなくてもも面白かった。
現在「翔家からす」君(仙台向山・宮城教育大学落研)の細君でございます。
(このエピソードは後程・・)
閑話休題
「織苑亭しおん」さんの熱演振りを語ります。
「千早振」の続編を始めます。

「竜田川で?先生。いきなり『竜田川』ですかい?でどこにあります川なんで?」
「そう来なすったな。そこが『素人のあさはかさ』というもんだ。普通は川の名だと思うもんだな」
「じゃぁなんですかい。川の名前じゃねぇって・・」
「その通り。では何んの名前かと思う?」
「何んでしょうね!あっしにはさっぱり判らねぇ・・何なんですかい?」
「これはな、実は相撲取りの四股名じゃ」
「相撲取りぃ?また変な名前で・・あんまし聞いた事がねぇんで」
「そりゃ無理もない。遠く昔に活躍した相撲取りだった。なんでも大関まで上り詰めた大層強い力士だったそうじゃ」
「てぇしたもんですねぇ。大関ですかい」
「あぁ、そうじゃ。でもな最初から強かったわけではない。当人、『相撲の世界へ入ったんだから、三役までは何とかなりたい』と強い希望を持っておった。だがな、そこはそこ。厳しい世界だ。人と同じような努力では到底三役までは覚束ない。そこで、願をかけることにした。女を五年断つことにしたのじゃ。そのかいあって大関にまでなった」
「へへへつ・・あっしなんか五年どころか五日と・・とと・・その話しはまた」
「まぁ、普通ならそうだろう。わしは聖人君主であるから。五年は左程長くはないがな。まぁ、『竜田川』大関であるな。大関ともなれば贔屓衆も大勢出来る。人気は上がる。そんなとき、贔屓連中に連れられて吉原へ夜桜見物へ出かけた。不夜城の如く、夜でもこうこうと明かりの煌びやかな吉原である。月は満月。桜は満開。いやぁその吉原の風景たるや・・」
「先生・・先生・・さっき『聖人君主』とか言ってませんでした?」
「うん?(少しばつが悪そうな顔をする)そ・その通り。物の本にはそう書いておった・・な」
「その夜桜、桜並木の向こうからやって来たのが吉原名物『花魁道中』。チャンラン・チャンラン・チャンラン・・とぉ・・」
「なんですこのチャンランってなぁ?」
「清掻(せいそう)と言って吉原特有の三味線の音じゃて。そこから『第一に何屋の誰。第二に何屋の誰と花比べ。飾り競った売れっ子の花魁達が、しゃなり・しゃなり・・と・・」
「先生。見たんですかい?」
「いや?  な  どうでもよいではないか!」
「さてさおの三番目に出でたるは今は江戸の人気一。千早太夫が登場した。もうこの美しさたるや言葉ではいい語れない程。その姿をみた竜田川。人目惚れ以上の様子。人目見た途端。振るえが出て、その振るえが三日三晩、止まらなかった。これが竜田川と千早の出会いだった」
「あっしの場合はちと違いやすぜ!女を見ると武者震いってやつでして・・」
「それは、お前さんの浅はかなところだ・・まぁ竜田川はこう思った『世の中にはあんないい女がいたとはついぞ知らなんだ。一度でいいからああいう女と杯を交わしたいし、話もして見たい』と。この事を知った贔屓の一人が竜田川にこう言ったな『関取、お金を出せばなんとかなるかもしれない』とな。ところが、当世一人気の高い千早太夫、大名とは相手はするが、職人だの商人などとは、金を積まれたって相手にしない。吉原へ通い詰めた竜田川も振られてばかりおった。だが、千早には妹がいてな、姉様同様器量良しと来ている、その名を『神代太夫』と言った。竜田川、その神代に、言い寄った。が、神代の返事はこうだった『姉様の嫌いなお人であればあちきも嫌いでありんす』と、言う事を聞いてくれなかった」
「そりゃぁ、竜田川も切ねぇでしょうねぇ」
「竜田川、そうとうがっかりしたと見えてこう言った『吉原で女一人口説けないようじゃ、相撲取りとしてやっていけない』と、大関まで上り詰めた力士であったが、相撲取りを辞めた。そして、豆腐屋になった」
「ちょっとぉぉ。花魁に振られたからって、大関からいきなり角の豆腐屋ぁぁ?おかしかねぇですかい?」
「これにも、訳がある。竜田川の実家。実は豆腐屋だった。もう年老いた両親は大喜び。『せがれや良く帰って来てくれたな』『これからは豆腐屋をやります。一生懸命働きます』と。月日の経つのは早いもので早三年。ある秋の夕暮れ時、次の日の豆腐の仕込みを終えた竜田川が一息つけていると、そぼろを身に纏った女乞食が竹の枝にすがりながら足元も覚束ない様子で歩いてくるのが見えた。店先まで歩いてきたその女乞食、こう言った『二日、三日と何も口には入れておりませぬ。ひもじゅうて、ひもじゅうて。どうぞ卯の花なりとも分けてくださらぬか』と。もとより情の深い竜田川であった。『このような物でよろしかったら、お召し上がりになれば』と卯の花を渡そうとしたその時に・・目と目が合って・・・」
「いよぉーっと・・チャンリン・チャンリン・チャンリン・・・」
「妙な合いの手を入れるではない!でな、お前さんに聞くがな。この女乞食、一体誰だったと思う?」
「えっ?誰って?そんなぁ、急に言われたってあっしにはとんと判りやせんです。で、先生、誰なんです?」
「良くぞ、聞いてくれた!実はこれが千早の成れの果て・・」
「ちょっとぉー、先生。先生の話し聞いているとですよぉ。大関がいきなり豆腐屋で、絶世を極めた太夫が女乞食ですかい?ちょっとなんでまた女乞食なんぞに・・」
「そりゃわしだって知らん。当人がなりたかったんだから、しょうがあるまい」
「そんなぁ、乞食になりたいなんてぇ奴、いるんですかい?」
「お前さん知らんのか?乞食と何とかは三日やったらやめられないって。なんだったら紹介しもよろしいがな・・」
「いやぁ、もうねぇあっしは大工がいいんでぇ。でどうなりました?」
「しかし、因縁というものは恐ろしい。でなもう一つ聞くが、お前さんだったらその乞食に卯の花をやるかい?」
「そうですねぇ・・あっしならやらねぇなぁ」
「そう、わしもやらん」
「竜田川はどうしたんで?」
「烈火のごとく怒った竜田川『お前のおかげでおれは大関を捨てたんだぁ』と言うか言わないか、手に持った卯の花を地べたへ叩きつけると、千早の胸をどぉーんと一突き。関取衆の中でも突き無双と評判の竜田川の突きを食らったものだからたまらない。しかも二日・三日何も食べてない千早である。半町ほどの土手までぽーんと吹っ飛んだ。その土手へ当たったかと思うと、こちらへ跳ね返ってくる。跳ね返って来た千早をまた一突き。跳ね返ってきた千早をまた一突き・・と・・」
「何だか、篭球(バスケットボール)みてぇな女ですねぇ」
「豆腐屋の前に古い柳の木があってな、その前に井戸がある。この井戸は豆腐屋には欠かせないものであった。千早はその柳に木の幹にどーんと当たると、井戸のヘリへドザっと落ちた。ようやく、半身を起こした千早。空を恨めしそうに見ていたと思うや否や、自らその井戸の中へ身を投じた」
「で・で・先生。先生。こっから先はあっしだって知ってやすぜ。『夜な夜な竜田川のところに幽霊になって出てきた』って・・」
「いや!そうじゃぁない。おしまいじゃ」
「おしまいって?話しがおしまいですかい?」
「そう、おしまい」
「先生、あっしは歌の話しはおわっちまった・・かと・・」
「お前さん判らんのか?今話したことが歌の話しだ。いいかい。吉原で千早に一目ぼれした竜田川が振られたろ。だから『千早振る』じゃぁないか。千早が振ったあとに妹の神代に話しをつけようとしたが、神代も言う事を聞かなかった、だから『神代も聞かず竜田川』となる。三年経って乞食に落ちぶれた千早が、豆腐屋になった竜田川の店先で卯の花をくれと言ったではないか。卯の花は、おからと言うな。けれども竜田川は千早におからをあげなんだ。だから『からくれない』となる」
「なるほど、『おから』とは気づきやせんでした」
「その後じゃが、井戸へ千早が飛び込むな。水に入るわけだから『水くぐる』となる」
「へぇーっ。なるほどねぇぇ。でもね先生もう一つ判らねぇんですがね」
「なんだいまだあるのかい?」
「へぇ、その最後の『とは』って何なんです?」
「ああ『とは』か。『とは』は・・・お前さんも、そのくらいまけたらどうなんだい!」
「まけられません!おせぇて下さいよぉ」
「なら教えよう。『とは』は調べたらな、千早の本名だった」

「織苑亭しおん」さん。実力通りの演技でした。彼女、芝居の言葉で申しますと、顔に力があるんですよね。表情にメリハリがある。
芝居の練習をしていた時、顔の筋肉をつける練習をいたしました。ですが、彼女の場合、その表情の作り方が天性とでもいうのでしょうか、感がいい表情をつくるのでした。話しの上手さは練習でなりますが、顔は感に頼ることがあるわけです。
「絶好調だったっちゃ」
「・・俺も見た事がない」→琴舎豊作さん。またご登場の学院大学部長。
「本番に強いってぇのは、武器だっちゃね」
「練習で最後まで苦労していた個所を見事に克服していた」
すばらしい、演技でした。酔漢も忘れることはありません。

ところで、この歌の本当の意味を解説いたしましょう。
「神様の力でいろいろなことがおきた神代(昔の)世の中でも、こんなことは聞いた事がございません。竜田川の水を美しい紅色に染めるとは(なんたる美しい様子であろうか)」でした。


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8 コメント

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長男の給食に鯨の竜田揚げが! (クロンシュタット)
2009-02-05 06:19:45
竜田川(大和川?)や生駒あたりは、東北人にとってはなじみが薄い地域ですね。竜田揚げはうまい!けれど。
紅葉が川面に映っている様をくくり染め(絞り染め)のようだ・・・いやー景色がちんまりしすぎていて。東北の紅葉は「全山極彩色」ですもんね。
みやこびとの歌は「想像した景色」を基にしている場合も多く、業平も竜田川は見たことがないらしいです。

文学的な追体験や鑑賞は可能なのですが、自分自身の実生活と結びついていない和歌は、なんかニガテです。
それゆえか、古文の成績は惨憺たるものがありました。
世界史と地理の成績で切り抜けてきたもんすから・・・
返信する
いがったですねぇ (ひー)
2009-02-07 06:10:40
昨夜は読みながら、睡魔と闘い、降参して寝ました。
今回も面白いかったですよ。
こんな古典落語はやはり江戸時代からのものなのですかねぇ。
所謂、作家ですよね。
奥が深いと、今更ながら感じます。
学生時代は、意外と多い女性人に驚きです。
何がきっかけで、落語の世界に入ったのでしょうね。
今回も感動です。
返信する
初めまして (雨漏り書斎/あーさん)
2009-02-07 13:39:38
ひーさんちでよくお見かけしますが、先日は浅学非才の身を省みず、生意気なことを申し上げてしまいました。
ご無礼の段、ご容赦くだされませ。


ひーさんの関連記事にも記しましたが
以前読んだ「古典落語」講談社文庫で6冊 
my書棚に並んでますが、貴記事を拝読して
また繙きたくなりました♪

ではでは。
返信する
中国語の (ぐずら)
2009-02-08 13:23:01
「時そば」聞いてみたいなぁ~

ちょいとご無沙汰してしまいましたが、
その間に「落語昭和の名人vol.3」を買いまして、
しばらく振りで柳家小さん師匠の「時そば」聞きましたよ ^o^v

それにしても、仙台の学生落語界は多士済々だったんですねぇ~
うちのぱるえもひと頃中国語を習いに行ってたことがありましたが、
今じゃすっかり忘れてしまったみたいです・・・

さて、宮城の民話ですが、
オイラも今回初めて読んだようなものでして・・・
艶話がやたらと多いことや全国版の昔話に似た話があることに驚いています。
これから、もう少し探して読んでみようかなと思っています。
でも、こうなると、郷土本出版の老舗宝文堂が廃業したのがひどく惜しまれます・・・
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クロンシュタット様へ (酔漢です )
2009-02-09 18:56:12
鯨の竜田揚げは、定番でした。
給食のお肉と言えばそうでした。塩竈あたりは直の事だったと思います。東京でもでたのですか。食べてみたかったです。
落語の話題は・・まぁいいか!
で、仙台駅前「松竹梅」(ひー様ブログに写真掲載されました)は、鯨の竜田揚げのおいしい居酒屋です。お立ち寄りあれ!
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ひー様へ (酔漢です )
2009-02-09 18:59:43
宮城教育大学で落語研究会を発足させました際、殆どが高校落研経験者でした。ですが、動機はそれぞれ。
ですが、練習がきつくて辞めていかれる方もいらっしゃいました。これは何でも同じかもしれませんが。
一回目の寄席集め会では看護学校の方が参加されました。見事に演じきりました。
彼女は独学でした。
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あー様へ (酔漢です )
2009-02-09 19:02:57
初めまして。
興津要さんの著書ですね。
実家には文庫になる前のものが全巻ございました。私のバイブルかもしれません。
父の影響で、「東宝名人会」のレコードを聴き。「興津要氏編纂 古典落語 六巻」は、小学校の頃から親しみました。
本当に爺臭い?小学生?
今でも大切に読んでおります。
また、あそびに来てけらいん!
返信する
ぐずら様へ (酔漢です )
2009-02-09 19:09:57
奇矯さんのお父様が、長野でとある村の村長さんでした。その関係で中国へ留学されたわけです。自身で枝雀師匠の「TIME NUDOLE」を下にネタをこさえたとか。
落語は国境を越える!
アメリカ人のスタッフで実験したいと考えますが・・
そうそう「ほったいもいずんな」でちゃんと通じました。これは実験済みでした。

宝文堂より「塩竈の民話」がでておりました。
例の「はないで」(鼻いでぇ)お化け。が「日本昔ばなし」でアニメ化放映された時は、感動しました。自分としては「へったれ嫁ご」の方がえがったかも・・
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