それでは、知事の隣に座っていた夫人のネリー・コナリーの証言はどうか。
一般にこの事件をめぐる言説において、公式説を疑う立場からもその重要性はほとんど見逃されているが、実際のところ彼女こそ、大統領と知事の二人の被弾をともに見届けた、唯一の人物である。
しかもその位置たるや、被弾した二人に対して至近距離、目の前数十センチである。
*パレードでのリムジン車上。前席向かって右側の女性がネリー・コナリー夫人、その隣がコナリー州知事である。被弾した二人に対し、夫人がいかに至近距離にいたかがわかる。
加えて、彼女はケネディ夫人ジャクリーンのように恐慌を来したわけでもない。大統領夫人が(後述のとおり、多分)逃げたのと比べて、ネリー夫人はくずおれた夫の体を膝にかかえ上げ、偶然とはいえそれで出血を食い止め夫の命を救ったとされる。終始冷静を保っていたと言えよう。
かつ、長年の伴侶を目前で殺されかけた彼女が事件に関与したとする余地は全くない。
すなわち、空間的な近接性は全ての目撃者の中で最も高く、二人の銃撃の一部始終を目撃していたという意味で最も完全性のある、百%中立的な立場からの、身体的・精神的ショックで自己を失うことのなかった人物の証言である。
実際、彼女は次に見ていくように冷静に一貫した証言を行っており、この点で重体に陥った知事や恐慌をきたしたジャクリーン夫人にはない一貫性があることにすぐに気づく。
ウォーレン報告に沿って彼女の証言を見ていこう。証言中、銃撃に関わる部分だけを抜粋する。
夫人は銃撃の直前に大統領と会話を交わしている。生前のケネディ大統領が最後に会話を交した人物は彼女なのである。その会話の直後、銃声を聞いている。この一事を見ただけでも、夫人の証言が本来いかに重要かがわかるであろう。
なお、細かい点のようだが、証言の表題が「ネリー・コナリー夫人」ではなく「ジョン・コナリー夫人の証言」とされていることに注意されたい。この時代、レディ・ファーストの国とされる米国においても、妻たる女性の地位とはあくまで夫に従属するものであったことを如実に表している(この点、現在の米国ではどのように表現するのかは未確認であるが)。
そもそも、わざわざ「レディ・ファースト」というようなことを強調すること自体が、建前とは別の実質において強い男権主義が支配的であったことの裏返しのようなものであって、きわめて偽善臭い。
反権威的で左翼的な姿勢の強いO・ストーン自身が、映画「JFK」でギャリソン夫人をまさに典型的な、時に夫の仕事に無理解なハウスホールドワイフとして、しかもそれを麗しいものとして描いていたことは、90年代においてすらそれが普通ないし当然だと観念されていたことをうかがわせる。
鋭く体制批判をした彼の一方での男権主義はまた、二度離婚し三度めに韓国人の妻を迎えたことにも現れているのかもしれない。映画で露骨に描写されていた彼のホモセクシュアルへの嫌悪感・罪悪視も当然であったろう。
隠された強固な男権主義――これもまた現代アメリカのひとつの裏面であろう。
あえて強調するのは、後で見ていくように、最重要であるはずの夫人の証言がウォーレン委員会においてどのように歪曲されてきたか、要するにいかに「半人前」扱いされてきたかを理解する上で、この観念こそがキーとなっているからである。
それは次の聴聞会でのやり取りにもはっきりと現れているので、その点に注意してお読みいただきたい。
TESTIMONY OF MRS. JOHN BOWDEN CONNALLY, JR.
ジョン・ボウデン・コナリー・ジュニア夫人の証言
スペクター氏:コナリーさん、暗殺の時、何が起こったのかお話しください。
Mr.SPECTER. Mrs. Connally, tell us what happened at the time of the assassination.
(質問者のA・スペクターは、当時弁護士としてウォーレン委員会の実務上の中心であった重要人物。のちに共和党の上院議員となっている)
……
コナリー夫人:本当にどの場所でもたいへんな歓迎ぶりで、そのことについて話さないよう私は我慢していましたが、ついに耐えきれなくなりました。ちょうどその場所(エルム通り)に差し掛かるあたりで、私は大統領のほうを向いて言いました。「大統領、ダラスがあなたのことを愛していないなんてもう言えませんね」と。
そしてすぐに音(noise)が聞こえました。どのくらいすぐにかはわかりませんが、私には非常に短い時間に感じられました。ライフル射撃には長けていないので、それがライフルによるものだったとは気づきませんでした。ほんとうにびっくりするような音で、右側のほうから聞こえました。
右肩越しに振り返り後ろを見たところ、大統領が両手を喉元に当てていました。
スペクター氏:あなたは両手を使って示されていますが、両手を重ねるようにして首を掴んでいたのですか?
コナリー夫人:そのとおりです。大統領は声を出さず叫んでもいないようでした。出血も見えませんでしたし、何も見えませんでした。大統領は何というか無表情で、力を失って倒れました。
そのすぐ直後、二度めの銃撃があって、ジョン(知事)に命中しました。最初の銃弾が命中して、同時に私がそちらを見ようと振り返ったとき、ジョンが「オー、ノーノーノー!」と言ったのを覚えています。そのとき、二番目の銃声がして、ジョンに当たったのです。そして彼が右側に、まるで傷ついた動物のように体を丸めて右に倒れながら言いました。「マイゴッド! やつらはわれわれを皆殺しにしてしまう!」と。そのあとはもう……
ダレス委員:「右側」というのは、あなたの腕の中にということですか?
コナリー夫人:違います。夫は私から離れるように体を回転させました。私は彼を引き寄せようとしました。夫が撃たれてからは後ろの座席は一度も見ていません。
Mrs.CONNALLY. In fact the receptions had been so good every place that I had showed much restraint by not mentioning something about it before. I could resist no longer. When we got past this area I did turn to the President and said, "Mr. President, you can't say Dallas doesn't love you."
Then I don't know how soon, it seems to me it was very soon,that I heard a noise, and not being an expert rifleman, I was not aware that it was a rifle. It was just a frightening noise, and it came from the right.
I turned over my right shoulder and looked back, and saw thePresident as he had both hands at his neck.
Mr.SPECTER. And you are indicating with your own hands, two hands crossing over gripping your own neck?
Mrs.CONNALLY. Yes; and it seemed to me there was--he made no utterance, no cry. I saw no blood, no anything. It was just sort of nothing, the expression on his face, and he just sort of slumped down.
Then very soon there was the second shot that hit John. As the first shot was hit, and I turned to look at the same time, I recall John saying, "Oh, no, no, no." Then there was a second shot, and it hit John, and as he recoiled to the right, just crumpled like a wounded animal to the right, he said, "My God, they are going to kill us all."
I never again----
Mr.DULLES. To the right was into your arms more or less?
Mrs.CONNALLY. No, he turned away from me. I was pretending that I was him. I never again looked in the back seat of the car after my husband was shot.
……
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