この番組は特に後編・episode IIが出色であったと思う。
後編でのポイントは、元CIA高官ロルフ・ラーセンという人物の内部告発である。
彼は番組で、この暗殺事件について「CIA部内における一部の暴発だった」と明言した。
さらにその中心人物として、事件当時のCIAダラス支局長ウォルトン・ムーア、およびCIA西半球局局長であったジェイク・エスターラインという、2人のケースオフィサー(上級工作員)の名を挙げていた。
特にエスターラインは、暗殺事件のきっかけとなったピッグス湾事件での侵攻部隊の指揮官を務めた人物で、ケネディの軍介入拒否によって多数の部下を死なせたというから、確かに動機は十分である。
この告発は事実関係としてはきわめて説得力がある。何より長年同じケースオフィサーを務めてきた人物の見立てだけに、そのリアリティは疑いない。
詳細に関してはぜひ番組をご覧いただきたい。
さらに、暗殺後の世論における「カストロシンパの共産主義者」というオズワルドの犯人像形成も、CIAの画策によるものだったことが判明しているという。
番組では、「オズワルドがカストロシンパとしての政治活動を行っていた」という事件直後に全国に流布された情報は、反カストロの亡命者集団が捏造したものであったこと、そしてCIAから多額の資金がこの反カストロ派集団に流れていたことを、CIAの内部文書から明らかにしている。
この宣伝工作を指導したのが、当時CIAのケースオフィサーとしてニューオーリンズで活動していた、ジョージ・ジョアニーデスという人物だった。別の内部記録により、CIAでの彼の当時の職務がまさに「反カストロ派を利用したプロパガンダ」とされていたことまで暴かれていた。
何より、当時の反カストロ組織の幹部が、番組のためのインタビューに対して、ジョアニーデスの名を挙げそう証言しているのである。
映画『JFK』では、検事ジム・ギャリソンの真相究明はニューオーリンズを起点に行われ、反カストロ派の亡命者集団とCIAとのつながりを告発していた。
ギャリソンは当時これらの証拠に接することができず、結局敗訴に終わった。しかしその追及の方向性が、実は極めて的確であったことが、今回番組が明らかにした事実からわかる。
ラーセンは、「ムーア、エスターラインら一部強硬派が暴発した」と、在任中の内部調査に基づいて語っていた。彼らの犯行自体はそのとおりであったのだろう。一方、ラーセンは「組織としてのCIAは潔白であった」とも主張する。
しかし番組ではそれについて、「彼らの上に立つ人物は暗殺事件の研究者たちが調査中」とし、暗に彼の言う「一部の暴発」にとどまらない、組織的関与があったとの認識を匂わせていた。ラーセンの見立てには、その点で懐疑的なのである。
実際そのとおりである。
60年近くにもわたり真相隠蔽が横行したこの事件については、一見もっともらしい意見も徹底して疑う必要がある。特に陰謀の主体の側からのリークの場合はそうであろう。
真実の一部は、真実全体を説明するわけではないのだ。
例えば番組ではラーセンが、引退後もいまだ組織に忠誠を誓っているとされ、優秀な工作員に贈られるという長官メダルなどを大事に自宅にしまっている様子までが紹介されていた。
彼は取材に対し、
と語っていた。
その真偽はともかく、発言自体がいまだに「そちら側」の人物であることを自ら示しているように感じられた。
そもそもこの超重大事件に関し、彼が言うように、本当に局内の「狂信的な一部暴発者による犯行」などということがありうるのか?
CIAとはいうまでもなく国家機関であり、彼らは公務員である。しかも当時はこの組織が「国家の中の国家」ともいうべき存在だったことを歴史は示している。
いわばCIAは超大国の中でも最強の国家組織だったわけだ。たとえその中のエリートであっても、個々人の独走でここまでの企図が実行できるとは到底思えない。
JFK暗殺のオペレーションの規模や、その後の隠ぺい工作の広がりと永続性を考えるなら、明らかに組織が意図をもって遂行したとみるのが適切であろう。
ここで、先に紹介したM・レーン著『大がかりな嘘』(Mark Lane ”Plausible Denial: Was the CIA Involved in the Assassination of JFK?”)を再び見ていきたい。
同書では、下院暗殺調査委員会が活動していた七十年代当時に、CIAが内部の一部工作員の関与について「限定暴露」する方針を、上層部内で決定していたことが記されている。組織の関与が否定しきれない事態に備えての欺瞞工作として、である。
その方針をリークしたCIA長官の元補佐官による新聞記事を巡り、レーンはCIAのケースオフィサーであったハワード・ハントとの名誉棄損裁判を争った。そして、ハントの暗殺当日のアリバイを突き崩し勝訴したのである。
なお、レーンによれば、ハントがケネディ暗殺に関与したのは確実である。ハントはウォーターゲート事件で暗躍し、ホワイトハウスを脅迫した人物として悪名高い。
そのハントが、番組でラーセンの調査対象者の一人として、背景に写真が挙げられていたことに、気づかれた方もあるだろう。
ハントについてはともかく、上記の事例から推測するに、暗殺研究者らのみならずCIA内部にも衝撃を与えたというラーセンの発言には、何か裏があると見るのが適切だと思われてならない。
だとすれば、それは今後、CIAのJFK暗殺事件への関与が否定できない事態を予測したものだったのではないか。
現に、彼は「優れたチェスプレーヤーは結末から一手を考える」と述べていた。意味深長というべきである。
いずれはそうなることが避けられないのであれば、先手を打って「部内の一部の暴発」として世論を誘導する。しかもそうすることで、CIAに自浄作用があることまでアピールできる。
そのための新たな布石である「限定暴露」こそ、今回の「内部告発」の意図なのではないか。
そして「CIAの組織的犯行が明るみに出る事態」とは、近い将来予測される情報公開だったのではないか。
ところで、鳴り物入りだったトランプの「ケネディ・ファイル」の公開が延期されたという事実は、この番組で初めて知った。
てっきりすでに公開されており、今回の番組はそれに基づくものと思っていたのである。
このブログでJFK暗殺に関する過去の連載を始めた理由もそこにあったことは、以前に書いた。トランプによる文書の全面公開で意味がなくなる前に、素人にもあからさまに目につく公式説の矛盾を突いておこうと書きはじめたのである。
そのために、情報公開の延期は今更だが極めて意外であった。
番組では「国家的犯罪を前に、さすがのトランプもやはり情報公開を見合わせた」とされていた。
しかし、本当にそうなのか?
トランプのこれまでの言行からして、彼が自分および自分の政権の利益のため以外に動くとは考えがたい。
だとすれば、そこには彼自身の「利益」を危うくするような情報があったはずだ。推測するに、情報公開を宣言した際、そのことは彼の念頭にはなかったのである。
現職大統領トランプも知らなかった、自らの政権の利益にまで関わるJFK暗殺の真相とは、いったい何だったのか?
それは「共和党政権としての基盤を脅かす情報」だったのではなかったか?
以下はあくまで推測だが、そう考えるに足る根拠は十分にあると思われる。各自ご判断いただきたい。
ソ連から帰国したオズワルドを、妻子ともどもダラスで世話したという人物、ジョージ・ド・モーレンシルトが、そのカギを握っている可能性は高い。この番組でも彼がキーパーソンの一人となっていたが、それとは別の意味においてである。
番組によれば、モーレンシルトは生前、「オズワルドの世話は、CIAダラス支局長ウォルトン・ムーアに依頼されたものだった」と語っていたという。彼のインタビューにあたったある研究家の証言によるものである。
そのインタビューとは、モーレンシルトが下院暗殺調査委員会での証言に先立ち謎の自殺を遂げる、その直前に行われたものであった。彼もまた、暗殺後に不審死を遂げた多数の証言者の一人である。
番組では語られていなかったが、モーレンシルトは石油採掘に関する地理学の学位を持つ専門家であった。
一方、上掲のレーン著ではその巻末にて、1963年の暗殺事件当時、のちに大統領となるジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)が、テキサス州でCIAのために働いていたという事実を、別のジャーナリストの調査結果をもとに記している。
そのポイントは、後年情報公開されたFBI長官フーバーのメモにおいて、彼が暗殺直後に「CIAのジョージ・ブッシュ氏から、暗殺事件への亡命キューバ人の反応に関し説明を受け、そのことを国務省に報告した」と記されていたことにある。
この疑惑に基づく照会に対してCIAは、それは別の「ジョージ・ブッシュ元職員」であったと回答するが、しかし元職員への直接の面会調査でその真実性は否定されている。
その他諸々により、後年の大統領ブッシュが、暗殺事件当時、しかも暗殺のあったテキサス州でCIAの重要な地位にあったことは、レーンによれば間違いないようだ。
ブッシュはこの時期政界進出前で、富裕な石油事業家であったが、彼の自伝でもこの間の経歴は多くが空白なのだそうである。ニューオーリンズにおけるクレイ・ショーのような立場だったのだろうと推測される。
さらにそれ以前、ブッシュはCIAを主体としたピッグス湾事件に深く関与していたという。彼が経営していた会社は「サパータ・オフショア社」、その所在はヒューストンにあった。ブッシュはピッグス湾作戦、すなわちCIA部内で言う「サパータ作戦」の兵員輸送のために2隻の船舶を調達し、自ら「ヒューストン」と「バーバラ」と名付けたという。ちなみにブッシュの妻はバーバラである。
CIAでの経歴がない彼が、なぜのちのCIA長官になったのかは就任当時不審に受け取られたというが、レーンは隠されたCIAへの長年の関与を考えれば当然であっただろうとしている。
(同書が手元になく、上記の大筋以外、詳細は失念してしまったが、いずれも説得力のある根拠が挙げられていたのを記憶している。ぜひレーン『大がかりな嘘』をご参照いただきたい。)
ここで重要なのは、後年の大統領ブッシュが、今回の番組でケネディ暗殺のキーパーソンと目された人物たちに、きわめて近い位置にあったという事実である。
すなわちブッシュが、CIAダラス支局長ウォルトン・ムーア、そして石油掘削の専門家モーレンシルトと密接な関連があったことは、状況からしておそらく間違いない。
しかもモーレンシルトは、ブッシュにとって学生寮での同室の友人の叔父にあたり、両者は家族ぐるみの付き合いがあったという。それを証拠に、「自殺」前のモーレンシルトが、CIA長官になったブッシュと個人的な手紙をやり取りしていることまで明らかになっている(詳細は英語版ウィキペディア「George de Mohrenschildt」参照)。
状況証拠から、ブッシュがJFK暗殺に何らかの形で関与している可能性は極めて高いと思われる。
これは単なる「陰謀論」ではない。
民主党出身のジョンソン大統領が、JFK暗殺に関しておそらく事後従犯の立場にあったことは前に記した。彼が暗殺の陰謀を知りながら大統領の地位に就いたことは、はからずも後年の彼の言葉が明らかにしている。
しかしその程度のことなら、トランプはためらわず情報公開したに違いない。むしろ自身の選挙戦略のために、民主党を貶める材料として利用したことであろう。それは彼及び彼の政権の利益になるからである。
仮にCIAが関与しているとしても、それはトランプの不利益にはならない。むしろ、長年の隠蔽を暴露することとなる自分の功績をアピールすることができるのだ。だから彼は公開を言明したのだと推測される。
しかしジョージ・H・W・ブッシュの疑惑に関してはそうではない。
ブッシュ親子の共和党政権は遠い過去の話ではない。ブッシュのケネディ大統領暗殺事件への関与などが明るみに出ることになれば、共和党政権そのものへの致命的なマイナスイメージが避けられないからである。
自分の選挙戦略のために無節操とも見える行動を取るトランプが、情報公開の約束を翻した理由はほかに思い浮かばない。
ともあれ、この番組の描き出した暗殺事件の真相のおそらく一端は、今後の全容解明の確固とした基盤になるものだと思われた。
ドキュメンタリー+ドラマによって、理知と感情に訴えるその手法も見事だし、何より現実を踏まえた問題意識が信頼できると感じられた。
日本のテレビにもここまでできるのだと認識を新たにした次第である。
ぜひ続編を期待したいと思う
後編でのポイントは、元CIA高官ロルフ・ラーセンという人物の内部告発である。
彼は番組で、この暗殺事件について「CIA部内における一部の暴発だった」と明言した。
さらにその中心人物として、事件当時のCIAダラス支局長ウォルトン・ムーア、およびCIA西半球局局長であったジェイク・エスターラインという、2人のケースオフィサー(上級工作員)の名を挙げていた。
特にエスターラインは、暗殺事件のきっかけとなったピッグス湾事件での侵攻部隊の指揮官を務めた人物で、ケネディの軍介入拒否によって多数の部下を死なせたというから、確かに動機は十分である。
この告発は事実関係としてはきわめて説得力がある。何より長年同じケースオフィサーを務めてきた人物の見立てだけに、そのリアリティは疑いない。
詳細に関してはぜひ番組をご覧いただきたい。
さらに、暗殺後の世論における「カストロシンパの共産主義者」というオズワルドの犯人像形成も、CIAの画策によるものだったことが判明しているという。
番組では、「オズワルドがカストロシンパとしての政治活動を行っていた」という事件直後に全国に流布された情報は、反カストロの亡命者集団が捏造したものであったこと、そしてCIAから多額の資金がこの反カストロ派集団に流れていたことを、CIAの内部文書から明らかにしている。
この宣伝工作を指導したのが、当時CIAのケースオフィサーとしてニューオーリンズで活動していた、ジョージ・ジョアニーデスという人物だった。別の内部記録により、CIAでの彼の当時の職務がまさに「反カストロ派を利用したプロパガンダ」とされていたことまで暴かれていた。
何より、当時の反カストロ組織の幹部が、番組のためのインタビューに対して、ジョアニーデスの名を挙げそう証言しているのである。
映画『JFK』では、検事ジム・ギャリソンの真相究明はニューオーリンズを起点に行われ、反カストロ派の亡命者集団とCIAとのつながりを告発していた。
ギャリソンは当時これらの証拠に接することができず、結局敗訴に終わった。しかしその追及の方向性が、実は極めて的確であったことが、今回番組が明らかにした事実からわかる。
ラーセンは、「ムーア、エスターラインら一部強硬派が暴発した」と、在任中の内部調査に基づいて語っていた。彼らの犯行自体はそのとおりであったのだろう。一方、ラーセンは「組織としてのCIAは潔白であった」とも主張する。
しかし番組ではそれについて、「彼らの上に立つ人物は暗殺事件の研究者たちが調査中」とし、暗に彼の言う「一部の暴発」にとどまらない、組織的関与があったとの認識を匂わせていた。ラーセンの見立てには、その点で懐疑的なのである。
実際そのとおりである。
60年近くにもわたり真相隠蔽が横行したこの事件については、一見もっともらしい意見も徹底して疑う必要がある。特に陰謀の主体の側からのリークの場合はそうであろう。
真実の一部は、真実全体を説明するわけではないのだ。
(画像はNHKサイトより)
例えば番組ではラーセンが、引退後もいまだ組織に忠誠を誓っているとされ、優秀な工作員に贈られるという長官メダルなどを大事に自宅にしまっている様子までが紹介されていた。
彼は取材に対し、
「暗殺の真相はオリバー・ストーンの描いたような複雑なものではない。
CIAのプロが計画・立案し実行した仕事なのだから、シンプルで合理的で、証拠など残さない、抜かりのないものだったはずだ」
CIAのプロが計画・立案し実行した仕事なのだから、シンプルで合理的で、証拠など残さない、抜かりのないものだったはずだ」
その真偽はともかく、発言自体がいまだに「そちら側」の人物であることを自ら示しているように感じられた。
そもそもこの超重大事件に関し、彼が言うように、本当に局内の「狂信的な一部暴発者による犯行」などということがありうるのか?
CIAとはいうまでもなく国家機関であり、彼らは公務員である。しかも当時はこの組織が「国家の中の国家」ともいうべき存在だったことを歴史は示している。
いわばCIAは超大国の中でも最強の国家組織だったわけだ。たとえその中のエリートであっても、個々人の独走でここまでの企図が実行できるとは到底思えない。
JFK暗殺のオペレーションの規模や、その後の隠ぺい工作の広がりと永続性を考えるなら、明らかに組織が意図をもって遂行したとみるのが適切であろう。
ここで、先に紹介したM・レーン著『大がかりな嘘』(Mark Lane ”Plausible Denial: Was the CIA Involved in the Assassination of JFK?”)を再び見ていきたい。
同書では、下院暗殺調査委員会が活動していた七十年代当時に、CIAが内部の一部工作員の関与について「限定暴露」する方針を、上層部内で決定していたことが記されている。組織の関与が否定しきれない事態に備えての欺瞞工作として、である。
その方針をリークしたCIA長官の元補佐官による新聞記事を巡り、レーンはCIAのケースオフィサーであったハワード・ハントとの名誉棄損裁判を争った。そして、ハントの暗殺当日のアリバイを突き崩し勝訴したのである。
なお、レーンによれば、ハントがケネディ暗殺に関与したのは確実である。ハントはウォーターゲート事件で暗躍し、ホワイトハウスを脅迫した人物として悪名高い。
そのハントが、番組でラーセンの調査対象者の一人として、背景に写真が挙げられていたことに、気づかれた方もあるだろう。
ハントについてはともかく、上記の事例から推測するに、暗殺研究者らのみならずCIA内部にも衝撃を与えたというラーセンの発言には、何か裏があると見るのが適切だと思われてならない。
だとすれば、それは今後、CIAのJFK暗殺事件への関与が否定できない事態を予測したものだったのではないか。
現に、彼は「優れたチェスプレーヤーは結末から一手を考える」と述べていた。意味深長というべきである。
いずれはそうなることが避けられないのであれば、先手を打って「部内の一部の暴発」として世論を誘導する。しかもそうすることで、CIAに自浄作用があることまでアピールできる。
そのための新たな布石である「限定暴露」こそ、今回の「内部告発」の意図なのではないか。
そして「CIAの組織的犯行が明るみに出る事態」とは、近い将来予測される情報公開だったのではないか。
ところで、鳴り物入りだったトランプの「ケネディ・ファイル」の公開が延期されたという事実は、この番組で初めて知った。
てっきりすでに公開されており、今回の番組はそれに基づくものと思っていたのである。
このブログでJFK暗殺に関する過去の連載を始めた理由もそこにあったことは、以前に書いた。トランプによる文書の全面公開で意味がなくなる前に、素人にもあからさまに目につく公式説の矛盾を突いておこうと書きはじめたのである。
そのために、情報公開の延期は今更だが極めて意外であった。
番組では「国家的犯罪を前に、さすがのトランプもやはり情報公開を見合わせた」とされていた。
しかし、本当にそうなのか?
トランプのこれまでの言行からして、彼が自分および自分の政権の利益のため以外に動くとは考えがたい。
だとすれば、そこには彼自身の「利益」を危うくするような情報があったはずだ。推測するに、情報公開を宣言した際、そのことは彼の念頭にはなかったのである。
現職大統領トランプも知らなかった、自らの政権の利益にまで関わるJFK暗殺の真相とは、いったい何だったのか?
それは「共和党政権としての基盤を脅かす情報」だったのではなかったか?
以下はあくまで推測だが、そう考えるに足る根拠は十分にあると思われる。各自ご判断いただきたい。
ソ連から帰国したオズワルドを、妻子ともどもダラスで世話したという人物、ジョージ・ド・モーレンシルトが、そのカギを握っている可能性は高い。この番組でも彼がキーパーソンの一人となっていたが、それとは別の意味においてである。
番組によれば、モーレンシルトは生前、「オズワルドの世話は、CIAダラス支局長ウォルトン・ムーアに依頼されたものだった」と語っていたという。彼のインタビューにあたったある研究家の証言によるものである。
そのインタビューとは、モーレンシルトが下院暗殺調査委員会での証言に先立ち謎の自殺を遂げる、その直前に行われたものであった。彼もまた、暗殺後に不審死を遂げた多数の証言者の一人である。
番組では語られていなかったが、モーレンシルトは石油採掘に関する地理学の学位を持つ専門家であった。
ジョージ・ド・モーレンシルト
それにしても、その「自殺」の真相もさることながら、ドイツ系貴族の家系としてベラルーシに生まれ、ポーランドの騎兵学校を卒業しベルギー・リエージュの大学を出、米国に移住した後はテキサス大学で石油資源に関する地理学の学位を取得し、南部の極右団体の一員だったという、その経歴も謎めいている。そんな彼が、同じく不可解な経歴を持つオズワルドの「友人」だったというのである。
それにしても、その「自殺」の真相もさることながら、ドイツ系貴族の家系としてベラルーシに生まれ、ポーランドの騎兵学校を卒業しベルギー・リエージュの大学を出、米国に移住した後はテキサス大学で石油資源に関する地理学の学位を取得し、南部の極右団体の一員だったという、その経歴も謎めいている。そんな彼が、同じく不可解な経歴を持つオズワルドの「友人」だったというのである。
一方、上掲のレーン著ではその巻末にて、1963年の暗殺事件当時、のちに大統領となるジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)が、テキサス州でCIAのために働いていたという事実を、別のジャーナリストの調査結果をもとに記している。
そのポイントは、後年情報公開されたFBI長官フーバーのメモにおいて、彼が暗殺直後に「CIAのジョージ・ブッシュ氏から、暗殺事件への亡命キューバ人の反応に関し説明を受け、そのことを国務省に報告した」と記されていたことにある。
この疑惑に基づく照会に対してCIAは、それは別の「ジョージ・ブッシュ元職員」であったと回答するが、しかし元職員への直接の面会調査でその真実性は否定されている。
その他諸々により、後年の大統領ブッシュが、暗殺事件当時、しかも暗殺のあったテキサス州でCIAの重要な地位にあったことは、レーンによれば間違いないようだ。
ブッシュはこの時期政界進出前で、富裕な石油事業家であったが、彼の自伝でもこの間の経歴は多くが空白なのだそうである。ニューオーリンズにおけるクレイ・ショーのような立場だったのだろうと推測される。
さらにそれ以前、ブッシュはCIAを主体としたピッグス湾事件に深く関与していたという。彼が経営していた会社は「サパータ・オフショア社」、その所在はヒューストンにあった。ブッシュはピッグス湾作戦、すなわちCIA部内で言う「サパータ作戦」の兵員輸送のために2隻の船舶を調達し、自ら「ヒューストン」と「バーバラ」と名付けたという。ちなみにブッシュの妻はバーバラである。
CIAでの経歴がない彼が、なぜのちのCIA長官になったのかは就任当時不審に受け取られたというが、レーンは隠されたCIAへの長年の関与を考えれば当然であっただろうとしている。
(同書が手元になく、上記の大筋以外、詳細は失念してしまったが、いずれも説得力のある根拠が挙げられていたのを記憶している。ぜひレーン『大がかりな嘘』をご参照いただきたい。)
ここで重要なのは、後年の大統領ブッシュが、今回の番組でケネディ暗殺のキーパーソンと目された人物たちに、きわめて近い位置にあったという事実である。
すなわちブッシュが、CIAダラス支局長ウォルトン・ムーア、そして石油掘削の専門家モーレンシルトと密接な関連があったことは、状況からしておそらく間違いない。
しかもモーレンシルトは、ブッシュにとって学生寮での同室の友人の叔父にあたり、両者は家族ぐるみの付き合いがあったという。それを証拠に、「自殺」前のモーレンシルトが、CIA長官になったブッシュと個人的な手紙をやり取りしていることまで明らかになっている(詳細は英語版ウィキペディア「George de Mohrenschildt」参照)。
状況証拠から、ブッシュがJFK暗殺に何らかの形で関与している可能性は極めて高いと思われる。
これは単なる「陰謀論」ではない。
民主党出身のジョンソン大統領が、JFK暗殺に関しておそらく事後従犯の立場にあったことは前に記した。彼が暗殺の陰謀を知りながら大統領の地位に就いたことは、はからずも後年の彼の言葉が明らかにしている。
しかしその程度のことなら、トランプはためらわず情報公開したに違いない。むしろ自身の選挙戦略のために、民主党を貶める材料として利用したことであろう。それは彼及び彼の政権の利益になるからである。
仮にCIAが関与しているとしても、それはトランプの不利益にはならない。むしろ、長年の隠蔽を暴露することとなる自分の功績をアピールすることができるのだ。だから彼は公開を言明したのだと推測される。
しかしジョージ・H・W・ブッシュの疑惑に関してはそうではない。
ブッシュ親子の共和党政権は遠い過去の話ではない。ブッシュのケネディ大統領暗殺事件への関与などが明るみに出ることになれば、共和党政権そのものへの致命的なマイナスイメージが避けられないからである。
自分の選挙戦略のために無節操とも見える行動を取るトランプが、情報公開の約束を翻した理由はほかに思い浮かばない。
ともあれ、この番組の描き出した暗殺事件の真相のおそらく一端は、今後の全容解明の確固とした基盤になるものだと思われた。
ドキュメンタリー+ドラマによって、理知と感情に訴えるその手法も見事だし、何より現実を踏まえた問題意識が信頼できると感じられた。
日本のテレビにもここまでできるのだと認識を新たにした次第である。
ぜひ続編を期待したいと思う
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