〈私〉はどこにいるか?

私たちは宇宙にいる――それこそがほんとうの「リアル」のはずである。この世界には意味も秩序も希望もあるのだ。

「未解決事件 File.08 JFK暗殺」(NHK)について①

2020-05-05 | JFK暗殺事件について
 NHK地上波で、連休中の特番的にやっていた以下の番組を見た方は多いと思う。

 「未解決事件 File.08 JFK暗殺 episodeⅠ “はめられた”男」(4/29放送)
 「未解決事件File.08 JFK暗殺 episodeⅡ 浮かび上がる“黒幕”」(5/2放送)

 ケネディ大統領暗殺事件に関しては、オズワルドの犠牲および黒幕CIAという核心部分に触れる言説に対し、これまでずっと「陰謀論」とレッテルが貼られてきた。
 この番組は、まさにその核心部分に切り込んだドキュメンタリーと、それに基づくドラマで構成されていた。

 長らく、この事件に関してはウォーレン報告=公式説をそのまま追認するような報道や番組づくりを見せつけられてきたので、こうした真相究明は主要メディアでは期待できないと思っていた。
 したがって、こうした展開の番組であるとは全く予想していなかったのだが、かのNHKスペシャルでこうした番組が作られたことに正直驚いた。
 その点で「すばらしい」の一言である。未見の方はぜひご覧いただきたい。

 内容をつづめるなら、「ケネディ大統領暗殺の真犯人がCIA部内の人物だったことを、新たな証拠・証言の数々から明らかにしたもの」というに尽きる。
 しかも番組ではその陰謀の主犯の個人名にまで言及している。それらはすでに知る人ぞ知るだったのかもしれないが、個人的には全く初めて知る事実が多かった。

 かつてJFK暗殺については拙ブログで長々と書いてきた。
 そもそもザプルーダー・フィルムのわずか一コマ(フレーム224)によってオズワルド単独犯行説ははなから崩壊しており、ということはウォーレン報告のストーリーがフェイクであることが元々確実なのである。

 そこから逆算すれば、この番組の結論はむしろ当然なのだ。
 しかし、完全に疑いの余地のない視覚的事実にもかかわらず、単独犯行説の否定を「陰謀論」などと決めつける愚かしい言説が、なぜかこの日本でも横行していて辟易としていたところである。

 実際にテレビ番組、しかもNHKスペシャルでこの内容を見るとは驚きだ。私が言うのも全くなんだが「よくやってくれた」と胸がすく思いがする。

 番組にて、ケネディ政権の司法長官だったロバート・ケネディの息子(JFKの甥)が、「CIAの息のかかった米国ではなく、日本のメディアにならば」と取材に対して語った言葉には、実に執念が籠っていた。彼は父も叔父も暗殺されたのだから当然だが、それにしても60年にわたるこの事件の真相隠蔽の根深さと永続性を実感させられる。

 ともかく全く期待していなかったにもかかわらず、意外にも優れたドキュメンタリー+ドラマを見ることができ、繰り返すがついにこの事件を巡る言説もここまで来たかという感がする。録画で見たのだが、思わず上下回を二度見してしまったほどである。

 先日再放送のあった同じNHKの番組を始め、これまでのオズワルド単独犯行説から一歩も出なかった報道番組の数々は一体何だったのだろう。


 この番組、前編のepisode Iでは、孤独で鬱屈したオズワルドの、大統領暗殺に至る前までをドラマを中心に取り上げていた。彼は貧困の中、15歳にして『共産党宣言』を愛読していたという無学歴の読書家であったようだ。
 ドラマでは実際のオズワルドのイメージ通りの線の細い役者が好演していた。
 陰謀に絡め取られ破滅した若き彼を、共感とともに取り上げたというのは、テレビ場番組としてはおそらく世界初なのではないかと思われる。


https://www.nhk.or.jp/mikaiketsu/file008/02/より

 特に、海兵隊を除隊しソ連に亡命したその時点から、すでにオズワルドがCIAの影響下にあったのは確実らしい。厚木基地に駐在していた彼をリクルートしたCIA関係者や、KGBの息のかかった日本女性の名まで含めて明らかにされたことが注目される。

 さらにその亡命が、CIA部内のカウンターインテリジェンスの一環である『モールハント(モグラ狩り)』のために仕組まれた可能性が濃厚であることを、番組ではCIA部内資料によって描き出していた。
 なぜCIAが無意味とも思えるオズワルドのソ連亡命を仕組んだのかが、これまで筆者にとって理解できなかったのだが、今更ながらなるほどという思いがする。


 それでも、闇深いこの事件では、疑うべきはさらにとことん疑う必要があるのではないかと思う。

 例えば、オズワルドは貧困から逃れるため17歳で海兵隊に入隊し、20歳になったかならないかくらいで問題のソ連亡命を企てたわけだが、亡命時点ですでにロシア語に熟達していたのは、いったいなぜなのか?

 その会話能力は、単身ソ連で生活し、わずか1年以内に結婚相手を見つけるのに不足がないほどであったのである。そんな語学能力が一年や二年で身につくものなのか?

 仮に海兵隊で任務として学んだとするなら、「ロシア語を専門で学ぶ海兵隊の兵卒」とはいったい何者なのか?

 番組では「この事件のすべての始まりは彼が日本の厚木基地にいた間にあった」としている。そこでオズワルドは極秘の偵察機U2のレーダー・オペレーターをしていた。そんな彼は当時、すでに共産主義シンパであることを公言する奇矯な人物であったという。

 そんな危険人物を「共産国家ソ連の偵察」という極秘任務のレーダー手に据え、しかもロシア語を教育するなどという軍隊が存在するのか?

 むしろ彼のソ連亡命どころか、少年時代からの共産主義への傾倒や、海兵隊での任務自体が偽装だったと考えるのが自然なのではないか?

 何より、「偵察に関する機密を売る」と言い放って単身ソ連に渡ったオズワルドの行動は、冷戦下では許されないはずものである。ドラマではその点が省かれていたが、そもそも国家反逆罪レベルの行動をした若者が、なぜソ連人の妻まで連れてアメリカに悠々帰国することができたのだろう? その経路や資金はどうなっているのか?

 以上を考えれば、オズワルドという若者には、単に「事件に巻き込まれた」という以上の背景があると見るのが自然である。


 …と疑問は尽きないが、それでも番組はオズワルドの文字通り謎めいた人物像を浮き彫りにした点で、まれにみる秀逸な作品に仕上がっているのは間違いないと思う。

 個人的には、貧困と屈辱の中で生育しながら文学に傾倒していという、孤独で理知的な青年オズワルドが哀れでならない。
 殺される直前に漏らした「I’m just a patsy(私ははめられただけだ)」という言葉は、自身の置かれた状況を正確に理解した、実に悲痛な言葉だったのである。

 暗殺事件の前日、彼は別居していた妻のもとを訪れ和解を試みたという。父を知らずに育ったオズワルドは、妻と2人の子との暖かい家庭生活の再開を夢見ていたのである。
 妻・マリーナはウォーレン委員会の徴取に対して「孤独な彼が幸せになれるのは月面の上くらい」という言葉を語っていたが、実際そのとおりであったのだろう。

 ともあれ、出来すぎたオズワルドの「カバーストーリー」は、逆にそのリアリティのなさによってこの事件を巡る深い陰謀を明らかにしている――そう見ていたが、実際そのとおりだったのである。
(episode IIに続く)



コメントを投稿