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世界価値観調査(WVS)について④――国民としての誇り

2020-04-17 | 世界価値観調査(WVS)等について
 世界価値観調査(WVS)の記事、国民的・集団的アイデンティティにかかわる調査項目については、今回で終わりとなる予定である(次回からは「宗教心」に関する項目を扱う)。

 今回は「国民としての誇りはどのくらいか(How proud of nationality)」についてである。

 現在、新型コロナウィルス感染拡大の渦中で「国民一丸で」「力を合わせて」ということが盛んに言われている。
 つい先ほどの首相のインタビューやそれを巡る報道も、それへの期待・願いが基調となって語られていた。ほとんどの人も多かれ少なかれ同じ思いだろうと思う。もちろん、筆者も大いにそう願っている。

 しかし、「力を合わせ」「一丸となって」集団として危機に立ち向かうためには、その集団をどの程度大切に思っているか・愛しているか、言い換えればアイデンティファイしているかということが、おそらく本質的に関わるはずである。
 難しく考える必要もない。原理的に言って、私たちは好きでもないもの、自分とつながっていると深く想えないもののために、自分を超えて戦うことなどできない。

 「自分を超えて」など、何と古色蒼然とした言葉と感じることだろう。しかし危機状況下で求められているのは、まさに私たち一人一人のそうした心である。
 皆が自分のことだけを思っていたのでは、集団的な危機の対処には必ず失敗する。自分にどの程度その準備があるか、はなはだ心もとないという自戒をこめて書いているつもりである。

 それでは、私たち日本人の集団的なセルフアイデンティティの度合い、言い換えれば「国民としての誇り・自信」は世界的に見てどのような位置にあるだろうか。
 WVSで次のような質問項目がある。

あなたは日本人であることにどのくらい誇りを感じていますか。(1つだけ〇印)
How proud are you to be Nationality?


 これに対し、「非常に誇りを持っている(Very proud)」「かなり誇りを持っている(Quite proud)」と答えた人の割合を合計し、世界60の国・地域の上位から順にランキングしたのが次の表である。



 この図でも、日本は最下位の60位にあり、計65.3%となっている。
 ちなみに世界全体の回答割合を示すのは国名空白の横棒で、「誇りを持っている」と答えた人は9割程度である。
 私たち日本人は、一般に年配の世代ほど「愛国心」という言葉に抵抗を感じると思う。「愛国心」は戦争の記憶・罪責とセットになって、危険なものと感じられているということである。
 しかしそれは人類普遍的なものでは全くないことを、この調査結果は示している。
 「国民であることの誇り」を「愛国心」と言い換えるなら、世界的には「愛国心」があることが普通なのだ。

 少なくともこの調査結果によれば、日本人は国民(集団)であることに対する誇り・自信が世界で最も低い集団であることとなる。
 ついでに言えば、「わからない(Don’t know)」という答え方をする人が1割近く、世界で最も多いのもやはり日本の特徴だ。

 こうした本質的な価値観(一次的な価値)に関わる多くの調査で同様の傾向がみられるのが、上位をいわゆる「第三世界」の地域が占めることだ。近代化され切っておらず、それだけ伝統的価値観が色濃く残存しているということなのだろう。そうした地域では、集団の一員であることに疑問を持たない(持ちえない)ということを示しているのだと思う。もちろん、そうした世界に還るのがいいということではない。

 同時に、「非常に・かなり誇りを持っている」人々が8割を切るのは下位1割程度の国々・地域だけだ。
 同じ第二次大戦の敗戦国・ドイツも低いが、それでも7割を超える。それよりも下位、香港、台湾よりさらに下にあるのが日本なのである。

 もっとも、この調査は2014年発表の第6次調査のものであり、これに関する日本での調査は10年前、2010年のものである。
 以後、およそ10年を経た、最新の2019年の日本の調査結果については、電通総研のレポートをご覧いただきたい。

 これによれば、「非常に・かなり誇りを持っている」と答えた人は77.6パーセントに向上、次のとおり過去最高値となったとのことである(19ページ)。

「2019年は前回調査 よりも大幅に増加し、調査開始以来最高値となった。 年代別でみると、高齢層ほど日本人としての誇りを感じる人が増える傾向にある」


 しかし単純に「過去最高値」「誇りを感じる人が増えた」と評価することはできない。
 WVSサイトではこの日本調査を含む第7次調査結果はまだ発表されていないため国際比較はできないが、第6次調査結果から推測すると、それでも下位にとどまることであろう。
 国際比較しなければ、その数字がもつ意味はわからないのだ。

 少なくとも、日本人は2010年までの段階では世界で最も「ナショナルアイデンティティ」「国民的誇り」「愛国心」の低い国民集団であったし、最新の調査でもあくまで下位にとどまる可能性が高いのである。

 「国民的な力の結集」が求められ、実際必要とされる中、その根拠がこれまで見失われてきたことをこの調査結果は示していると思われる。「誇り」が回復しているとは言え、まだその根拠がはっきりと共有されているとは思えない。
 その根拠とは、これまで再三語ってきたように、おそらく「歴史をどう捉えるか」が深くかかわっていると思う。

 危機は転じてチャンスともなるという。
 ぜひ、その根拠が見直される機会となってほしいと願うものである。


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