僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

初恋

2007-12-04 22:28:55 | 

初 恋


まだあげ染めし 前髪の

林檎のもとに 見えしとき

前にさしたる 花櫛の

花ある君と 思いけり


やさしく白き 手をのべて

林檎をわれに あたえしは

薄くれないの 秋の実に

人恋い初めし はじめなり


我が心なき ため息の

その髪の毛に かかるとき

楽しき恋の 杯を

君が情けに 酌みしかな


林檎畑の 樹の下に

おのずからなる 細道は

誰が踏みそめし かたみぞと

問いたもうこそ 恋しけれ


 有名な島崎藤村の「初恋」です。彼が二十歳の時に明治女学校高等科英文科の教師で食いぶちを稼いでいる頃、佐藤輔子と恋に落ちたのです。この女性が「初恋」のモデルといわれています。
 しかし、藤村は輔子に思いを打ち明ける事はできませんでした。輔子は自分の教え子で、いわゆる禁断の恋だったのです。しかも、彼女にはすでに婚約者がおりました。初めから叶うはずのない恋に苦悩し、教師を辞して、関西へあてのない流浪の旅に出てしまうのです。
 現実逃避の旅は半年にも及びましたが、輔子への思いが消える事はありませんでした。悶々とする藤村のもとに、衝撃的な知らせが舞い込んできます。なんと輔子が病死してしまったというのです。藤村は、この時のショックを
「大地がゆらぐように感じられ、あたりが黄色く見えた」と表現しています。