高校時代読んだ小説で、無性にせつない小説のひとつに久米正雄の「受験生の手記」があります。
主人公健吉は愛する澄子さんを弟に奪われ、一高受験も2度失敗し弟に追い越されてしまいます。
湖での入水自殺する場面の情景描写がやけに悲しみに拍車をかけてきます。
「月の光は、静かにたゆたひ落ちて、向うの山々の容を消した。水はひたすらに水漫と涵へて、僅かに岸辺を波立たすばかり、揺れうつる灯りもなく、影を曳く舟もない単調な湖面は、涙に曇った私の眼に、悲みに満ちた私の心に、和らぎを与ふる夢だと思はれた。私は土堤に腰を下して、ぢつと水面に眺め入った。ふと気がついてみると右手にはもとの舟着場らしく、突堤が湖中へ長く伸び出ていた。黒い真っ直な、誘ふようなその姿が、今度は私の眼に離れなかった。私はこれから起ち上って、その突堤を歩いていくのだ。真っ直ぐに、どこまでも、どこまでも・・・。」
主人公健吉は愛する澄子さんを弟に奪われ、一高受験も2度失敗し弟に追い越されてしまいます。
湖での入水自殺する場面の情景描写がやけに悲しみに拍車をかけてきます。
「月の光は、静かにたゆたひ落ちて、向うの山々の容を消した。水はひたすらに水漫と涵へて、僅かに岸辺を波立たすばかり、揺れうつる灯りもなく、影を曳く舟もない単調な湖面は、涙に曇った私の眼に、悲みに満ちた私の心に、和らぎを与ふる夢だと思はれた。私は土堤に腰を下して、ぢつと水面に眺め入った。ふと気がついてみると右手にはもとの舟着場らしく、突堤が湖中へ長く伸び出ていた。黒い真っ直な、誘ふようなその姿が、今度は私の眼に離れなかった。私はこれから起ち上って、その突堤を歩いていくのだ。真っ直ぐに、どこまでも、どこまでも・・・。」
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