猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

忘れ去られた物語たち 37 古浄瑠璃 小篠②

2015年03月12日 16時16分48秒 | 忘れ去られた物語シリーズ
こざさ②

 その後、国友は、急いで上洛すると、早速に御門に参内するのでした。国友は、
「某が、吉野の権現(金剛蔵王権現)に参詣の折、衣笠の少将正成は、栄耀の余りに大幕を打って、酒盛りをしておりました。我等は、それと知らずに通り過ぎましたが、理不尽にも言いがかり、打ち掛かって参りました。朝廷へご恩を知る者ならば、礼を尽くすべき所を、それどころか、敵呼ばわりする有様です。」
と、讒奏を並べ立てるのでした。御門は、大きに逆鱗されて、
「そういうことであれば、正成を急ぎ成敗いたせよ。」
と言って、愛宕郡(おたぎごおり:京都市北区・左京区辺り)の強者、三千騎を下されたのでした。国友の軍勢三千騎は、やがて、大和路へと向かったのです。
 この事は、すぐに長谷にも聞こえました。正成は、兵庫の介に向かって、
「光尚よ。此の度、国友は、御門に讒奏して、挙兵したとの知らせじゃ。奴ら三千余騎が押し寄せては、我等は無勢。どう考えても敵うまい。そこで、まだ幼い若達を、何処へなりとも落して、生き長らえさせよ。」
と、命ずるのでした。やがて、兵庫の介の妻子が付き添って、御台所と若君二人は、黒渕へと落ち延びることになりました。(奈良県五條市西吉野黒渕)
 さてその後、正成は、僅かの小勢で、寄せ来る敵を待ち受けました。やがて、三千余騎が犇めいて、正成の城郭を二重三重に取り囲んで、鬨の声を、どっととばかりに上げました。寄せ手より進み出た一騎の武者が、大音を上げて呼ばわります。
「ここに、攻め寄せた強者を誰だと思うか。二條の大納言国友なるぞ。御門の宣旨により、正成を成敗致す。さあ、じたばたせずに腹を切れ。」
正成は、これを聞いて、
「おお、国友。待っておったぞ。我等は、たった三百余騎。潔く、花を散らしてみせよう。
そこ、逃げるなよ。」
と言うなり、敵陣へと切り込んで行くのでした。哀れなるかな、正氏の軍勢は、ここを最期と暴れまくりましたが、所詮は多勢に無勢。やがて、悉く討たれました。正成は、最期の力を振り絞って、敵を四方に追い散らすと、
「最早、腹を切るぞ。」
と、自害なされたのでした。兵庫の介は、これを介錯し、再び敵陣に殴り込みましたが、とうとう力尽きて、やはり最期は自害をして果てました。
二人の首を持って国友は、意気揚々と都に戻りました。直ちに参内すると、御門より、
「正成の後、長谷を取らする。その上、和州の国司に任ずる。」
との宣旨が下されたのでした。こうして、国友は、長谷に赴任すると、新たに館を建て直して、目出度く国司の座に着いたのでした。

つづく