今日は最近読んだまんがの中の
「オススメの一冊」を紹介したく思います。
講談社・モーニングKC 「カレチ」 池田邦彦先生

「カレチ」とは客扱い専務車掌を指す国鉄内での呼称であり
”客扱列車長”が訛ったものとされています。
そのタイトルの通り、この作品は新米カレチさんの
奮闘・活躍を描いた作品です。
舞台は昭和40年代後半…。
主人公の荻野憲二カレチは大阪車掌区の新米カレチさんです。
いつもお客さんに対してベストを尽くそうと奮闘する荻野カレチですが
時にとんでもない事件や、いろいろな出来事に遭遇します。
それに対して必死に頑張る荻野カレチやその周囲の人々の
人間模様を描いた鉄道ヒューマンドラマです。
細かな解説は他所様や解説サイトにお任せするとして
私が今回紹介したいところは…。
先ずは細やかな描写です。
第一に、「人間」が細かく丁寧に描かれています。
主人公の荻野カレチはもちろんですが、
それ以外に登場する人物も、誰もが丁寧に描かれています。
それぞれの生き方や信条、信念、そしてその時々の想いなど
人という存在をリアルに感じられる細やかな描写は
「これぞ漫画!」という強いコクのような読書感を感じさせてくれます。
作者の池田邦彦先生は新人ながらも今まで多くの人生経験を積んでいらっしゃった
「人生のベテラン」とのことです。
そういう意味でも若い人にはなかなか出せない味わいが作品に出ていて
非常に良い作品となっております。
いろいろなものに悩み考え、時に大胆な行動(笑)に出る荻野カレチと
それを見守る厳しいけど優しいチーフや先達の鉄道員(ぽっぽや)の皆さん。
はたまた個性豊かで、それぞれ旅する理由を抱えたお客さんや
列車内外で出会う人々との心温まる物語は、
昨今のエンターテイメント的漫画全盛の世の中にあっても
全く色あせることの無い、むしろ輝きを放つものだと言えるでしょう。
漫画の主役は誰が何と言おうと「人」です。
そういう意味で安心して見られる久しぶりの漫画でした。
そして…鉄道漫画としてですが、
これまたとにかく細かい! リアル! 超臨場感です(^^)
昭和40年代後半…という舞台設定は、私の生まれた時期にあたります。
若干後とは言え、私の幼少期に見た鉄道風景とほとんど変わらないのですが
その当時の鉄道駅や車内の雰囲気が、これほどリアルに味わえるのは
とんでもないことと思います。
まるで「鉄道ジャーナル」の列車追跡バックナンバーを読んでいるかのような
圧倒的な当時の雰囲気がありますです。
というか”空気感”がすごいのですね。
池田先生は漫画界のライカレンズです(笑) 空気まで描ける漫画家さんです。
この当時の鉄道に思い入れのある方ならば、眺めているだけでも
お腹いっぱいになるでしょう。
あとは…絵描きとしての視点ですが…
”絵”としてちゃんと描かれているのが嬉しいです(^^)
写真から絵を起こすことが当たり前になりつつある昨今ですが
私は絵と写真の違いは情報としていったん頭の中に入れることだと思っています。
そしてそれを描く行為は、文字通り「心の情景を描く行為」に感じられます。
絵として非常に見ごたえのある絵が多くて、これだけでも私は感動してしまいます。
写真みたいな”精巧な絵”が見たいんじゃないんです私は。
”人の心が見た、心の場景を描いたもの”が見たいのです。
そういう意味では久しぶりの大満足です♪
列車の走行シーンなど、すごく雰囲気があります。
寝台の車内の描写など、まるで自分も乗っているかのような感覚が味わえます。
これはすごいです。
本当にその空気を知っているからこそ描ける”絵”です。
そして何より特筆すべきはモノクロなのに光、明るさの表現を強く感じる絵でして、
そこには良い意味でアニメのような感覚があるのです。
一番それが分かりやすいのが第4話「指導車掌」と第11話「出発合図」での
日の光、朝日の描写です。
4話では、夜の福知山線で…、
緊急停止した貨物列車の後方監視をしている荻野カレチ(この時はまだ車掌見習い)が
後ろを見てたっているシーン。
徐々に日が昇りつつある時間で、空が白みかかる感じがすごく上手に描かれているのと
そのあと一騒ぎあって、それを解決した荻野に指導車掌が微笑みかけるところで
くわーっと朝日が昇ってくるんですよね。
11話では…
初めて一人前になって一人で乗務する時に、お世話になったバスの女性車掌さんと
一緒に朝早いホームで指差喚呼をするのですが
その前の感じが夜明け前の全てが青っぽい世界、夜明け前の空気であったんですが
ちょうど列車が動くちょっと前に朝の空気をさーっと切り裂いて
ホームに低く朝日が差し込んでくるんですね~!
このあたりの描写は何か巧みで、またすばらしく美しくて感激します。
こういう描写が漫画でもできるということを改めて知って
私ももっともっといろいろ勉強せねば…!と感激してしまいました(^^)
鉄道好き、人間ドラマ好き、ストーリー漫画好き、昭和が好き、
どれか一つでも引っかかれば絶対に面白いですし、
たとえ引っかからずとも単純に漫画として面白いので
絶対に楽しめる一作と、私自身の名前で保障したく思います。
「カレチ」
オススメです!
ぜひご一読ください!!
唯一の注文…早く続きが読みたいです!!(爆)
でもゆっくりいいものを描いていただければと思いますです(^^)
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