「三屋清左衛門 残日録」の続き。
以前、次のように書いた。
“ドラマの題は、「花のなごり」である。
手持ちの単行本には、この題が見当たらないのである。
さてさて、いかなるものなりやと、楽しみにしている。 “
ドラマを見て、この話は、手持ちの単行本の、「ならず者」という題の話に酷似していると思った。
ドラマでは、「涌井」のおかみ「みさ」の男(ならず者)出入りがある程度描かれているが、原作ほど大きくは扱われてはいない、どちらかといえば、脇役的な話しであった。
ドラマの本筋は、清左衛門より二つ三つ若い、“まじめのかたまり”と評判の半田守衛門のこと。
彼は、江戸屋敷で有能な御納戸頭を勤めていたが、収賄事件を起こしたとして、家禄を五分の一を削られ、役職を免ぜられた上、国勤めに変えられた。
清左衛門は、十年ほど前、この事件の取り調べの一端を担ったのであった。
この度、それは冤罪ではないかとの疑いで、その調査を清左衛門は、このたび、殿より依頼されたのであった。
真相は、下役のTというものが、自己の栄達のため、使い込みの罪を、守衛門にかぶせたという陰謀であった。
こんな経緯で、濡れ衣を着せたのではないかと、清左衛門が悩むのである。
そして濡れ衣であった由、清左衛門はわびたのであった。
守衛門は、十年前、無実の罪に服することをよしとせず、腹かっさばいて、武士の面目を保とうと思ったが、
妻や子の哀れさを思い、一切の武士の誇りを捨て、家族のためあらゆる恥辱に耐える決心をした、と清左衛門に語ったのであった。
守衛門は、国許でも持ち前の実直な勤めを続けたのである、
ところが、孫が重い病にかかり、やむなく城下の商人から賂(まいない)を受け取っていたのである。
十年前は冤罪であったが、国許での孫の薬代のための収賄は、明らかな犯罪である。
これらの事件を知った清左衛門は、その解決に心を砕くのである。
実直・誠実・勤勉な安サラリーマンの悲哀を描こうと、ドラマの制作者たちは原作を改めたように思えた。
それ故、題を「花のなごり」としたのであろうと思った。
原作をしのぐできと思えるのだが・・・。
小料理屋のおかみ「みさ」と、このことを話したとき、清左衛門は、
「時が戻らんかのー・・・(十年前に戻ればよいのにと・・・という風に受け取った)」と呟くのである。
人の人生、やり直しが出来れば、どれほどよいことであろうか・・・。
本日火曜日は、またドラマ放映の日である。楽しみにしている。