🍎2021.12.9「君が代」不起立再任用拒否高裁逆転勝訴判決に寄せて・志水博子
昨日(2021.12.9)、大阪「君が代」裁判のひとつである、梅原聡さんの「再任用拒否国賠訴訟」の控訴審判決があった。
梅原さんは、「君が代」不起立により戒告処分を受けた後、再任用を希望したが、その際「意向確認」なるものが行われた。意向確認とは、今後「君が代」起立斉唱の職務命令に従うかどうかの「意向」を大阪府教育委員会が確認することをいう。
大阪府立高校の教員は、進路指導の際、人権教育の観点から、就職差別をさせないため生徒たちに近畿統一応募用紙(かつて広島信用金庫で起こった就職差別を契機に生まれた履歴書)の趣旨に反する質問には答えなくてよい、いや、もっというなら、差別につながる質問にはたとえ自分が答えてなんら支障がなくとも、それは差別選考につながる恐れがあるので、「学校の指導で答えてはいけないお言われています」と応じてほしいと説明する。
もしも、生徒が就職面接で「あなたは『君が代』を歌いますか?」という質問を受けたならば、明らかにそれは統一応募用紙の趣旨に反する違反質問であり、学校は大阪府教育委員会にすぐさま報告し、大阪府商工労働部は、その企業を指導することになる。
梅原さんは、生徒にそのように指導している以上、その自分が答えるわけにはいかないと、意向確認には応じなかった。結果、再任用選考不採用とされた。
再任用選考については、雇用と年金の接続を図る観点から、基本、再任用希望者は概ね採用される。体罰で戒告より重い減給1ヶ月の懲戒処分を受けていても、再任用選考は合となった事例もある。
よって、私たちは、この裁判は一審で勝っても当然だと思っていた。ところが、一審は敗訴。控訴した後、舞台は高裁に移った。そこで私たちが感じたのは一番の違いは、裁判官が真っ当だったということだ。複数回の進行協議において、裁判所から「裁量権に引っかかりを感じていると」と提起があったと聞く。
主任裁判官であった浅見宣義裁判官(今では退官されたので、“元”になってしまったが)、『裁判所改革のこころ』を著すなど、良心的な裁判官として知られているらしい。かつて、裁判は裁判官次第といった人もいるが、そういう点で裁判官に恵まれたといえないこともない。これも梅原さんの人徳かもしれない。
ところが、判決の少し前に、その浅見裁判官が退任したと聞き慌てた。しかし、裁判所の良心は生き続けたわけだ。かつて、「君が代」弁護団の某弁護士が、梅原さんのようないい先生が再任用不採用となるなんて、とため息をつかれた場面を思い出す。
そして、今回の判決でグループZAZA一同にとって一番喜ばしい点は、裁量権の濫用と認められた理由を裁判所が次のように述べている点である。
「控訴人の勤務に関し、・・国歌斉唱時の起立斉唱に関するもののほか、特に問題点を指摘されたことは窺われないこと、公立学校の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に関する職務命令に従わなかった事例における懲戒処分の選択に関し、事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となる旨が判示されたところ(最高裁H24年1月16日判決P253参照)、雇用と年金の接続を図る必要性が増大していることなど近年の事情を勘案すれば、本件事案の懲戒処分歴の扱いについても、定年退職前の懲戒処分の選択と同様に事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が望まれるべきことからすると、府教委の本件不採用の判断は、客観的合理性や社会的相当性を著しく欠くものとして、裁量権の逸脱または濫用にあたり、違法というべきである。」
つまり「国歌斉唱時の不起立」を理由とする再任用不採用は違法であることをはっきりと認めている点である。
これまで、「君が代」不起立者に対し、まるで恫喝のように再任用拒否を発出していた大阪府教育委員会には猛省を迫りたい。
最後になるが、いつも私たちを応援してくださっている某記者さんの言葉を紹介しておきたい。
「『君が代』事件における勝利から出発して、はるか遠くへ羽ばたいていく勝利、思想・良心の限りなき自由をもとめる民衆レジスタンス・プロテストの勝利という歴史的事件です。
扇町公園のお祭りで、『わたしも、なんで自分がここにおるんやろ~って思うときがありますよ』とはにかんだ梅原さんのしなやかかつ不屈の勝利ですね。」
梅原さん、本当におめでとう!
そして、谷弁護士、三輪弁護士、小谷弁護士、本当にありがとうございました!