不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Pieta di Opera del Duomo di Firenze

2006-08-29 06:20:45 | アート・文化

ミケランジェロの「ピエタ」といえば
ヴァチカンのサン・ピエトロ寺院のものが有名。

フィレンツェのドゥオーモ美術館などという
マイナーなところに収蔵されているけれど
彼自身の墓碑を飾る彫刻として製作を開始した
こちらのピエタも
晩年の作品として興味深いもの。

Pieta_01

すでに名声と富を手に入れて
1530年頃からローマ滞在を続けていたミケランジェロは
手にした名声と財産にもかかわらず、
彼の宗教心に従い、
ローマの街なかの小さな家で質素に暮らしていたらしい。
もともと私生活には派手さのない芸術家ですから。

「ピエタ」というテーマは
十字架から降ろされて力なくなっているキリストの身体を
聖母マリアと聖人たちが支えるシーンを表現したもので
キリストの苦しみと息子を失った聖母マリアの悲しみを
表している作品ではありますが、
その裏に暗に「キリスト復活」を秘めているため
作品全体にはすがすがしさや平穏が見てとれます。

実際、ミケランジェロの若い頃の作品である
サン・ピエトロ寺院の「ピエタ」には
聖母マリアの表情や
横たわるキリストの肉体の美しさの中に
そうした傾向が見られます。
しかし、晩年の彼の作品となるピエタには
そうした「復活」への希望は反映されにくくなり、
むしろ自分自身に近づく最期への不安が
大きく反映されているといわれます。

聖母マリアに抱かれて力なく横たわるイエスキリスト。
その後ろにひときわ大きく表現されるのがニコデモ(Nicodemo)。
この像の中にミケランジェロは自画像を実現。

Pieta_03
確かに自画像!

左脇のマリア・マッダレーナは
ミケランジェロが未完成のまま残した部分で
その後Calcagni(カルカーニ)によって完成されたものの
他の3人の人物に対してプロポーションが小さく
スタイルも彫りの粗さも
ずいぶんと違っているのがよくわかります。

ミケランジェロは晩年の自分の作品にあまり満足することがなく
この作品もある日、
突然の怒りに任せて自らの手で叩き割ってしまい
みかねた召使がその破片を集めて、
地元のとある地主に売り
この作品を修復するように依頼したといわれます。

ミケランジェロも自分の行為を多いに後悔していたらしく
実際には修復士に助言を与え、
マッダレーナ像の不出来具合にも
目をつぶったとも伝えられています。

Pieta_02

修復が完了した大作は
フィレンツェのドゥオーモに運び込まれ
1960年代にドゥオーモ付属美術館へ移像。
今でもこの作品のキリストの腕と左足、
聖母マリアの手などに
ミケランジェロが破壊した部分が明らかに確認できます。

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