不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Madonna del Cardellino

2008-02-05 06:53:13 | アート・文化

穢れなき穏やかな聖母を描かせたら
右に出る者はないと評されるラファエロ。
聖母子像を数多く残した画家の傑作の一つが
ウフィツィ美術館所蔵の「ひわの聖母」。
1704年にウフィツィ美術館のトゥリブーナに展示されてからも
多くの画家たちに模写された傑作。
1999年から9年に亘る修復が続けられており、
現在最終段階のニス塗り作業に入っている
ということでまもなく修復完了予定。
これまで度重なる修復で塗り重ねられたニスが取り除かれ
作品本来の色彩を取り戻しているといわれています。

Raffaello06
本を左手に持ち、ゆったりと腰掛けた聖母を中心とした
理想的なトライアングル構図。
聖母の両膝にやさしく守られるようにして立つ幼子キリストと
聖母の右脇に寄り添う幼き洗礼者ヨハネ。
シンボルである毛皮を纏った洗礼者ヨハネは
小さな両手でひわを包み、キリストに差し出し
キリストがそのひわを優しく撫でているシーンが描かれています。

Madonna_solly
ひわと聖母子というテーマは
この作品よりも前に描かれた(1504-1506)
Madonna Solly(ソリーの聖母)でも見られますが
構図的には「ひわの聖母」のほうが安定しています。
こちらの作品はイギリスの銀行家の所有だったもので
現在はベルリンにあります。

Giardiniere
また構図的にはルーブル所有の
「美しき庭師の聖母」によく似ています。
この場合、聖母の右側に寄り添うのが幼子キリストで
足元に跪くのが洗礼者ヨハネ。

「ひわの聖母」は1506年から1507年にかけて、
ラファエロの友人でもあった
商人ロレンツォ・ナージ(Lorenzo Nasi)のために
サンドラ・カニジャーニ(Sandra Canigiani)との
結婚の機会にフィレンツェで描かれたもの。
ラファエロはこの作品で初めて
レオナルドの画法を試しています。
特に土の色の表現や背景のぼかし技法などに
レオナルドの影響がみられ、
また輪郭をぼかして描かれる洗礼者ヨハネとキリストの顔にも
レオナルドの影響が表れています。

1547年11月12日、
コスタ・サン・ジョルジョ(Costa San Giorgio)周辺の山崩れで
その下のバルディ通り(Via de' Bardi)の
サンタ・ルチア・デ・マニョーリ教会
(Chiesa di Santa Lucia de' Magnoli)の前にあった
ナージの邸宅は一部崩壊し、
この作品も17片に粉砕し瓦礫の下敷きとなります。
大きなダメージを受けた作品をナージの息子である
ジョヴァンバッティスタ・ナージ
(Giovambattista Nasi)が回収し修復を試みています。
1646年にトスカーナ大公フェルディナンド二世
(Ferdinando II)の兄弟で
枢機卿のジョヴァン・カルロ・デ・メディチ
(Giovan Carlo de' Medici)の所有する
スカラ通り(Via della Scala)の邸宅で見つかり
メディチ家のコレクションとして
後にウフィツィ美術館所有となります。

修復完了後、9月半ばから11月半ばに
ローマのQuirinale(クイリナーレ宮殿)で無料一般公開となり、
その後クリスマス前にフィレンツェのウフィツィ美術館に戻ります。
ウフィツィ美術館内の展示スペースに戻される前に
隣接のSan Piero Scheraggio(サン・ピエロ・スケラッジョ)にて
無料公開となる予定です。
クイリナーレ宮殿の展示では、
本作品とともにラファエロのデッサン、
そして1548年当時最初の修復を施したのではないかといわれる
Ridolfo del Ghirlandaio(リドルフォ・デル・ギルランダイオ)の
絵画も一緒に展示される予定となっています。