不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

GIOTTO sotto i raggi Ultravioletti

2010-03-16 18:37:59 | アート・文化

フィレンツェのサンタ・クローチェ教会は
1300年代の作品をはじめとする芸術作品の宝庫。
主祭壇脇の2つの礼拝堂も
Giotto(ジョット)の作品で飾られています。
2つの礼拝堂はCappella Peruzzi(ペルッツィ家礼拝堂)と
Cappella Bardi(バルディ家礼拝堂)で
それぞれ「洗礼者ヨハネと福音書記者ヨハネの生涯」と
「聖フランチェスコの生涯」が描かれています。
ルネッサンス絵画の父としても高く評価され
ウフィツィ美術館も彼の作品から導入されるジョットは
この壁画でも古典性の強い、
シンプルな動作の人物を描いていますが、
シンプルなだけにかえって非常にシュールな感じを受けます。

後者が伝統的なフレスコ画法で描かれているのに対して
前者は漆喰が完全に乾いてから
色を乗せるセッコ画法で描かれています。
このセッコ画法で描かれた部分に
紫外線投射をすることによって
これまで肉眼では確認できなかった詳細が明らかにされました。

実際このサンタ・クローチェ教会の礼拝堂は高さもあり
下から見上げる形での鑑賞になること、
また1700年代に上塗りされた後に
数度の修復で上描きされていることなどから
全体が平面的でなんとなくぼやけた感じの作品のように見えます。
しかし、紫外線を投射してみたところ
ジョットが描いたオリジナルは
現在我々が見ているものとは
異なっていたことが明らかになったのです。

漆喰に色を埋め込んでいくフレスコ画では
炭酸塩化の過程で顔料が漆喰に吸収されるため
込み入った装飾などを描きこむのには向いていません。
フレスコ画とセッコ画を組み合わせて
詳細部分をあとから付け加えた作品もよく見かけられます。

サンタ・クローチェ教会のペルッツィ家礼拝堂が
セッコ画法で描かれていることは既によく知られていることで、
フィレンツェの外にもいくつかの製作現場を抱えていた
当時売れっ子画家だったジョットが
作品の製作時間を節約するために選択した画法だと
専門家の間では長年信じられていました。
しかし、今回の紫外線投射によって浮かびあがった
詳細部分を分析するにつれ
ジョットはペルッツィ家礼拝堂の作品で
板絵に描くような人物の奥行きや衣服のひだつけ、
建築物の装飾などを実現するために
フレスコ画法に比べてより自在に色の調整をすることのできる
セッコ画法を敢えて選んだのではないか
という仮説が生まれています。

実際に詳細部分では金と銀の輝き加減や、シルクの光沢、
背景に描かれる風景の遠近感などが
描き分けられているといわれています。
そうした部分は下から肉眼で見上げても確認ができないのですが、
紫外線を当ててみて、今回初めて確認できたようです。

サンタ・クローチェ教会のジョットの壁画の分析・修復作業は
現在修復士、美術史家、研究者などからなる
34名のスタッフで進められていて
今回の紫外線投射での再発見により
両礼拝堂の修復工事は延長の見通しで
まだ2年半ほど要するだろうと見られています。
しかし、今回の再発見は誰もが予期しない出来事であったので
実は、更に踏み込んだ調査を行うための
資金(約20万ユーロ)が不足。
世界各地の公私の投資を募る予定。

芸術作品の修復・保存には莫大なお金がかかります。
そして経済的に苦しくても
芸術作品を山のように抱えるイタリアでは
この分野への投資を欠くことはできないのです。

ジョット研究の流れを変えるかもしれないとまで言われる
今回の調査の結果が一般市民にも公表されるには
まだまだ時間がかかりそうです。