平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

朝ドラ「らんまん」~万太郎の「植物論」と「自由民権思想」がリンクした! 

2023年04月30日 | その他ドラマ
 朝ドラ「らんまん」。
 植物学者・牧野富三郎(ドラマでは槙野万太郎)の話だ。

 そこで万太郎(神木隆之介)が高知の自由民権運動の運動家・早川逸馬(宮野真守)と意気投合するシーンがある。
 雑草をめぐる議論だ。
 演説で、逸馬は自分たちを「雑草」のように扱う明治政府への憤りを語る。
 それに対し、万太郎は「それは違う!」と叫ぶ。
 何が違うのか? と逸馬に問われてると、万太郎は雑草について語り出す。

「名も無き草なんてこの世にはないき。
 人はその名を知らんだけじゃ。
 名を知らんだけでなく、毒であるか、薬であるか、その草の力も知らん。
 どんな草やち同じ草はひとつもないき。
 ひとつひとつみんな違っちゅう。
 葉の形、花の形、そしてどこに生きるか、天が決めたかわからんが、ようできとる。
 そして根を張ったら生きるがじゃあ。
 強く根を張って、どの草も命を繋いでいく。
 それで厳しい季節の間も根っこどうし繋がりおうて生きる力を蓄える。
 元気いっぱい芽吹くために!」

 この万太郎の言葉に逸馬は共感する。
 なぜなら万太郎が語ったことは、逸馬が唱える「天賦人権論」「生存の権利」「同志の団結」に通じるものだからだ。

・植物には個性がある=それは人間も同じ。決して「雑草」として一括りにされるべきではない。
・植物には生きる権利がある=それは人間も同じ。「雑草」として蔑ろにされるべきではない。
・植物は自由に種を飛ばしてどこにでも根を張れる=人間もそうあるべきだ。
・植物は生きるために団結する=人間も団結すべきだ。

 面白いですね。
「植物論」と「自由民権運動」がリンクした。
 まあ、人間も植物も生き物である以上、リンクするのは当然なのだ。
 というか、人間の方が自然の法則から逸脱した不自然な存在なのだろう。

 万太郎は「植物オタク」で政治などに興味がなかった。
 でも、植物の知識が政治思想と繋がった。
 ひとつのことを突き詰めていくと、行き着く先は同じなのかもしれない。
 ………………………………………………………………………

 こんな言葉もある。
 家業を存続させるために祖母の命じた結婚に悩む綾(佐久間由衣)に奉公人の竹雄(志尊淳)はこんな言葉をかける。
「綾様の欲は前に進むための力じゃ」

 そうなんですね。
 欲は前に進むための力。
 人は欲ゆえに苦しむのだが、それが生きるということ。
 仏教は悟りの境地に達するために「欲を捨てよ」と教えるが、世俗の人間にはなかなかできない。

 朝ドラ「らんまん」、いろいろ考えさせられることがあって面白い。
 綾役の佐久間由依さん、ヒロイン西村寿恵子役の浜辺美波さんはいい感じ。
 当り役になりそう。
 主人公がマニアックな人間(植物オタク)というのも魅力的だ。

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YOASOBIの「アイドル」がすごい!~既存のアイドルソングをリスペクトし、ぶち壊した超アイドルソングだ!

2023年04月27日 | その他
 とんでもないアイドル曲が現われた!
 YOASOBIの『アイドル』だ。

 この曲はアニメ『推しの子』(←視聴済み)の主題歌。
 オリコンの週間デジタルシングルランキング、週間ストリーミングランキングで1位の二冠を達成!
 YouTubeではわずか12日間で4000万再生。
 まさにお化け曲だ。

 僕はドルオタだが、おそらく既存のアイドルソングをぶち壊した。
 アイドルソングにしてアイドルソングにあらず。
 シン・アイドルソング、超アイドルソングだ。
 …………………………………………

 さて、曲の分析をしてみよう。

 1番はスターアイドル・星野アイの姿。
 表のAメロでは──
 今日、何を食べたの? 好きな本は? 好きな男性のタイプは?
 握手会などでおこなわれるアイドルとファンの日常的なやりとりが描かれる。
 Bメロでは、アイドルという仮面をかぶっているアイのしたたかな本音がチラリ。
 まあ、ここまでは普通のアイドルソングだ。
 小泉今日子さんの『なんてたってアイドル』の感じ。

 ところが、2番で曲は完全に闇落ちする。
 次に描かれるのは、アイの引き立て役になっているアイドルたちの「怨念」だ。
 その他アイドルたちの嫉妬、憎しみ──ここのパート、ゾクゾクする。

 そして3番。
 3番ではスターアイドル・星野アイが深掘りされる。
 実はアイにはアクアマリンとルビーという双子の子供がいるのだ。
 アイは生まれ育った事情で誰かを愛することが出来ない。
 アイドルをやっているのは自分が「愛してる」と言えばファンが喜んでくれるから。
 だからアイの心の中は空っぽだ。
 アイはいつか心の底から「愛してる」と誰かに言える時を待ち望んでいる。
 そして、その瞬間がやって来た時──

 これ以上はアニメ第1話のネタバレになってしまうので控えておきます。
 ………………………………………………

 次に楽曲の分析。

 曲の構成は──
・1番 ラップ→Aメロ→Bメロ→サビ
・2番 ラップ→サビ
・3番 ラップ→Bメロ→サビ
 実に大胆な構成だ。

 Bメロからサビに移る過程では転調していて、メチャクチャ盛り上がる!
 1番のBメロと3番のBメロのラストは違っていて、
 特に3番の転調(「ない」の所で変わる)は大いに盛り上がる仕掛けになっている。

 ラップパートも面白い。
 1番と3番は、すべて「ア」で韻を踏んでいる。
 一方、2番は「イ」で韻を踏んでいる。
 これは、1番と3番がスターアイドル・星野アイを描いているパートで、
 2番は引き立て役のアイドルの怨念を描いているパートだからだろうか?
 あるいは、あとで述べる「ヒーカップ唱法」にも関連している?
 いずれにしても、このラップパートが曲をアクセントをつけている。
 この起伏が面白い。
 …………………………………………………

 さて、この曲が「超アイドルソング」である理由は以下の点にある。

 まず、1番と3番のラップパート。
 歌詞の語尾を跳ね上げて歌う「ヒーカップ唱法」という唱法が取られている。
 この歌い方をすると、可愛く聞える。
 たとえば松田聖子さんの、
 あ~あ、わたしの恋はぁ♪ 風に乗って走るのぉ♪ なんかがそう。

 2番のBメロはPPPHの合いの手を入れられる仕掛け。
 PPPHとは、パン・パパン・ハイ! パン・パパン・ハイ! という合いの手。
 アイドルソングでは欠かせないパートだ。
 これをこの曲でもやっていて、実際、合いの手が入っている。

 では、有名なMIX、
「よっしゃー!いくぞー!」
「タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!」
 はどうだろうか?
 入れるとしたら冒頭、1番のラップとAメロの間だが、YOASOBIのAyaseさんはそれをしていない。
 あと入れられそうなのは歌詞が終わった曲終わり。
 だが、それもAyaseさんは許してくれないようだ。
「ラスト、いくぞー!」と入りそうな瞬間、ぶち切られ、暗いトーンのコーラスで終わる……。
 どうしてこうなるのかは、アニメ第1話のラストのネタバレになるので控えます。

 というわけで、
 YOASOBIの「アイドル」は、過去のアイドルソングをリスペクトし、否定した超アイドルソングなのだ!


※MVはこちら
 YOASOBI「アイドル」 Official Music Video(YouTube)

※音楽の分析に関しては以下の動画を参考にさせていただきました。
 もっと詳しく知りたい方はこちらをぜひ!
 【音楽ラジオ】YOASOBI「アイドル」楽曲解説の決定版!? (YouTube)
 
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統一地方選挙を振り返る~維新躍進の中、れいわ新選組が候補者82人のうち47人が当選! 地盤・看板政治は相変わらず!

2023年04月25日 | れいわ新選組
 統一地方選挙を振り返ってみよう。

 衆参補選で、自民党4勝、維新1勝。
 大分は300票差で惜しかったが、立憲民主党の推す候補は一議席も取れず。
 地方議会の議席数でも増加したが、日本維新の会が自民党に批判的な無党派層を取り込んだ様子。
 立憲民主党は連合の票で何とか議席を取れているが、このままではジリ貧だ。
 党のあり方、戦略を見直すべき。

 公明、共産は支持層の高齢化で議席を減らしつつある。
 僕も自治会の創価学会の人から頼まれたけど(結局、入れなかったが)、当選ギリギリだったな。
 公明党の創価学会票が頼りにならなくなれば自民党は公明党を切って、維新の会と連立を組むのではないか。
 これに国民民主や立憲民主の右派が合流して、圧倒的多数の与党が誕生?
 ……………………………………………………

 そんな中、地道に躍進しているのが、れいわ新選組だ。
 推薦を含めた82人の候補者のうち47名が当選。
 実に67%の当選率だ。
 僕もれいわの候補に入れたが上位当選だった。
 れいわがすごい所は地盤や組織票がなくて当選する所。
 自民党なら農業・土木・漁業・医師会などの既得権者の票があり、
 公明党なら創価学会があり、立憲民主党なら連合の票があるのだが、
 れいわにはそれがない。
 地道な草の根の運動が芽を出しているという感じだ。

 ネットでは、
「右派のポピュリズムが維新で、左派のポピュリズムがれいわ新選組」という指摘があって、
 右派・左派で分けることは違うと思うんだけど、
 維新に対抗できる勢力は、れいわ新選組だと思っている。

 維新とれいわ新選組を大まかに分ければ、

・維新は財政削減。緊縮財政。
 新自由主義。すべては市場原理優先。経済成長最優先。
 強者が引っ張って社会を成長させていく。
 結果、弱者切り捨ても仕方がない。
 その保障として最低限の生活ができるベーシックインカムを導入?
 ただしベーシックインカムの財源は不明。

・れいわは積極財政。
 お金を刷って社会のあらゆる階層に循環させる。
 結果、景気は回復。
 過度のインフレになったらお金を刷るのを控えたり税金を上げたりして調整する。
 今の自民党政治は特定の人たちだけにバラまく経済政策だからダメ。
 れいわの政治思想は社会民主主義だろうか?
 人にやさしい政治。
 米国・民主党のバーニー・サンダースの主張に近い。

 このように維新とれいわの政策は180度違う。
 立憲民主党の左派はれいわと組んだらいいのに。

 地盤・看板政治は相変わらず生きていて、
 山口県の選挙区では、安倍晋三氏の後を継ぐ吉田真次氏が当選。
 同じく、岸信夫の長男の岸信千代氏が当選。
 吉田氏の能力はわからないが、
 岸信千代氏は選挙で自分の家系図を売りにしたり、
「はじめてのせんきょ」のキャッチフレーズで失笑された人物。
 いい加減、地盤・看板の選挙はやめたらどうか?

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どうする家康 第15回「姉川でどうする!」~皆の者、敵は…敵は……浅井朝倉っ! かかれいっ!

2023年04月24日 | 大河ドラマ・時代劇
「乱世を終わらせられるのは誰じゃ?」
「信長に義はない。信長の目的は天下を簒奪して日の本を我がものにすること」

 信長(岡田准一)と浅井長政(大貫勇輔)の言葉だ。
 この両者の間で家康(松本潤)は迷う。
 信長は足利義昭(古田新太)の権威を利用しているだけだし、長政の言っていることは正しい。
 信長は自分を道具として見ているようだし、内政にも干渉してくるし、
 人として理解し合い、信頼できるのは長政だ。
 だから、
「わしは浅井殿につきたい! 理由は好きだからじゃ!」
 しかし、今、信長を討てば、ふたたび「ぐちゃぐちゃな世」に戻ってしまう。
 将軍の権威と信長の武力で治める方が、世の安寧に繋がる。
 酒井忠次(大森南朋)は言う。
「義なんてものはきれいごとじゃ!」
 どうする家康!
 家康が出した結論は──
「皆の者、敵は…敵は……浅井朝倉っ! かかれいっ!」
 ……………………………………………………………………

 義に生きることは美しい。
 民からも支持される。
 しかし、義だけでは治められないのが世の中だ。
 手段を選ばず、汚名を被ってでも世の中の安寧を築く。
 この方が最終的には民のためになる。
 道徳、規範は無力。
 理想主義は乱世では絵に描いた餅。
 こんなテーマを描いたエピソードだった。

 現実というのは厄介ですね。
 義や理想主義が現実で通用しないのは、これらを価値としない輩が多数派だから。
 だから空理空論よりも力こそが正義。
 人間はこうして歴史を作ってきた。

 姉川の戦いでは、なかなか動かない徳川軍に織田軍が催促の鉄砲を撃ちかけて来た。
 徳川軍はこのいくさの勝敗を左右する存在なのだ。
 って、これは!
 関ヶ原の戦いの家康と小早川秀秋ではないか!

 今回のエピソードは後の関ヶ原の伏線なのだろう。
 家康は姉川の戦いの信長と同じ立場に立ち、同じことをする。
 関ヶ原の家康は豊臣から天下を奪おうとする「義」とは正反対の存在。
 だから石田三成は挙兵した。
 だが、家康はこう考えている。
 天下を平定し、安寧の世をつくるためには仕方のないこと。
 自分は敢えて泥を被る。
 義にそぐわないと言われても、やらねばならぬことがある。
 この時、家康は信長とリンクした。

 見事な伏線、作劇ですね。
 三河の一向一揆の時もそうだったが、
 今後も家康は世の安寧と義との間で迷い続けるのだろう。
 信長、秀吉(ムロツヨシ)、明智光秀(酒向芳)が聡明な天下人であれば、彼らに天下を委ねたのだろうが、彼らはそうではなかった。
 となると、自分がやるしかない。
 家康は迷いながらも天下を取る。
 今作の流れが見えて来た。

 最後に。
 姉川の戦いのCG、よかった。
 1万、2万の軍勢が激突するいくさのスケール感が出ていた。
 今後が楽しみだ。

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「そして、バトンは渡された」~おかげで未来の楽しみがふたつになった。明日がふたつになった

2023年04月22日 | 邦画
 優子(永野芽郁)とみぃたん(稲垣来泉)、なんか怪しいなと思っていたら、やっぱりそうだった!←ネタバレになるので、こんなふうにしか書けない。
 時系列はバラバラ。
 いろいろなエピソードが断片で描かれる。
 でも中盤、これらの断片が繋がって、ひとつの物語が生まれる。
 ちょうどジグソーパズルがすべて埋まって、ひとつの絵が生まれるように。

 だが、ジグソーパズルは全部埋まっていなかった。
 終盤、新たなパズルの断片が見つかって、さらに感動的な物語が浮かび上がる!

 僕は中盤とラストで二度泣きました!
 ネタバレしないように書いたのは、ぜひこの作品を見て泣いてほしいから。

 それにしても見事な作劇手法だ。
 ラストですべての伏線が回収される!
 ラストですべての登場人物が魅力的になる!
 ラストで世界が愛でいっぱいになる!
 ……………………………………………………………………

 すこし具体的にこの作品を語ろう。

 普通、子連れの女性と結婚する時、男はためらう。
 実際、結婚式当日に子供がいると梨花(石原さとみ)に言われた時、森宮壮介(田中圭)は驚き、ためらった。
 だが、すぐに森宮はこんなことを言った。
「おかげで未来の楽しみがふたつになった。明日がふたつになった」
 愛する対象がひとり増えて森宮はワクワクしたのだ。
 それまでの森宮は東大を出て一流企業に勤めたが、何を目標に生きていけばいいか、わからずにいた。
 だが、子供を得て、愛情を注ぐ幸せを得た。
 それは彼の人生を「まぶしいくらいに輝いたもの」にした。

 彼女には森宮の他にふたりの父親がいる。
 実の父親・水戸秀平(大森南朋)。
 梨花が再婚して得た二番目の父親・泉ヶ原茂雄(市村正親)。
 そして梨花の三度目の結婚で得た父親・森宮壮介。
 三人の父親たちは彼女を得たことで、満ち足りた日々を過ごした。
 三人の父親に愛されて、彼女はやさしくて素敵な女性になった。
「わたしにはいろんな親の愛情がいっぱい詰まってるんだよ!」
 愛を注ぐことは幸せ。
 愛を注がれることも幸せ。
 これで人生は素敵なものになる!

 そして彼女の母親・梨花。
 自由奔放で、どちらかというとマイナスイメージの女性だが、
 実は梨花には秘密があって、それが明らかになった時、感動的なドラマが生まれる。

 ラストは彼女の結婚式で終わる。
 三人の父親が参列して、彼女は愛する夫のもとへ。
 これでタイトルが回収された。
 父親から夫へバトンは渡されたのだ。


※追記
 今作の永野芽郁さんは魅力的だった。
 永野さん本人も父親のいないシングルマザーの家で育てられたから、役への思い入れも大きかったのだろう。
 本作で、第45回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞、第64回ブルーリボン賞 主演女優賞を受賞。

※追記
 原作は瀬尾まいこ著・文藝春秋刊。
 2019年本屋大賞を受賞した。

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「ドライブ・マイ・カー」~チェーホフのテキストが私の中に入って来て、私の体を動かしてくれます

2023年04月20日 | 邦画
「言葉」についての物語だ。

 家福悠介(西島秀俊)は俳優・舞台演出家。
 広島の国際演劇祭に招聘されて、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』の演出をしている。
 その演劇形態は「多言語演劇」だ。
 多言語演劇とは、その名のとおり、複数の外国人の役者が自国の言葉で演じる演劇だ。
 観客は舞台上のスクリーンに映される字幕で内容を理解する。

 今回の『ワーニャ伯父さん』にオーディションで選ばれたの役者と言語は──
・韓国のイ・ユナ(パク・ユリム)~手話
・韓国のリュ・ジョンウィ(アン・フィテ)~韓国語
・台湾のジャニス・チャン(ソニア・ユアン)~中国語
・高槻耕史(岡田将生)~日本語           などだ。

 この多言語演劇が意味することは何だろう?
 芝居の稽古が始まった時、役者たちとって、相手のしゃべっているせりふは単なる「音の繋がり」でしかない。
 お経を聴いているように思える。
 台本に意味が書かれているから、かろうじて芝居が成立している感じだ。
 だが、稽古を重ね、何度も相手のせりふを聴いていくうちに相手の思いや感情が心に染み入って来て、言葉の壁を越えた演劇空間が生まれる。
 人が理解し合うのに言葉はそんなに重要ではないのだ。
 逆に人は言葉で嘘をつくから、理解し合うことの妨げになったりする。
 
「人が理解し合うのに言葉はそんなに重要でない」
 このテーマは、運転手・渡利みさき(三浦透子)とのやりとりでも展開される。
 当初、みさきは映画祭側が手配した単なる「運転手」でしかない。
 みさきは運転中、何も話さないし、その運転は「重力を感じない」くらいに巧みなので「空気」のような存在であるとも言える。
 だが、みさきの運転する車に乗って、少しずつ言葉をかわしていくうちに、
 ふたりは同じ苦悩を抱えていることに気づき、理解し合うようになる。
 ……………………………………………………………………………

「人が理解し合うのに言葉はそんなに重要でない」

 しかし、これは「言葉の無力」を意味するものではない。
 芝居の稽古を重ねていくうちに、役者のイ・ユナは手話でこんなことを言う。
「チェーホフのテキストが私の中に入って来て、私の体を動かしてくれます」
 自分は空っぽで何もない、と嘆く役者・高槻耕史に家福はこんなアドバイスをする。
「テキストが問いかけてくるものに耳を傾けろ」
「テキストに自分を投げ出すんだ」

 言葉はなかなか伝わらないが、救いにもなる。
 実際、家福もチェーホフのテキストを繰り返し聴くことで何かを探していた。
 テキストが自分の中にスーッと入って来て、心を揺り動かす瞬間を待っていた。
 たとえば、『ワーニャ伯父さん』のソーニャのこんなせりふだ。

「仕方ないの、生きていくしかないの。
 ワーニャ伯父さん、生きていきましょう。
 長い長い日々と、長い長い夜を、
 運命が与える試練に耐えながら、
 安らかでなくても生きていきましょう。
 そして最期の時が来たらおとなしく死んでいきましょう。
 そしてあの世で言いましょう。
 私は苦しみました。私は泣きました。つらかったって。
 そして、その時が来たら、ゆっくり休みましょう」

 このせりふが単なる「音の繋がり」で終わるのか?
 心に染み込む「救いの言葉」になるのか?

 僕の場合は後者の感じが強い。
 胸に迫って来る言葉だ。
 だが、これでわかった気になってはいけない。
 さらに人生を重ねていけば、もっと深い「救いの言葉」になるかもしれない。

 人は心の中を埋めてくれる言葉を探して生きているのかもしれない。


※追記
 今作は米国アカデミー賞で「国際長編映画賞」、カンヌ映画祭で「脚本賞」などを受賞。
 原作は村上春樹。
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「蜜蜂と遠雷」~ピアノコンクールの4人のピアニストたち。世界は音楽であふれている!

2023年04月18日 | 邦画
 国際音楽コンクールを舞台にした4人のピアニストの物語だ。

・栄伝亜夜(松岡茉優)。
・風間塵(鈴鹿央士)。
・マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)。
・高島明石(松坂桃李)。

 亜夜、塵、カルロスは天才だ。
 凡人とは違う音楽の世界に生きている。
 一方、高島明石は妻子がいて、田舎の楽器店に勤めているサラリーマンだ。

 コンペティションは3次審査まである。
・1次審査は指定曲から3曲を選んで演奏。

・2次審査は指定曲から3曲+コンクールの課題曲「春と修羅」にカデンツァを加えて演奏。
 カデンツァとは、自由で即興的な演奏のことだ。
 ここで亜矢たちは通常とは違った自分を表現できる。

・3次予選はオーケストラを入れてのピアノ協奏曲。
 いかにオーケストラといかに協奏できるかが問われる。
 今回のオーケストラの指揮者は世界的な指揮者の小野寺昌幸(鹿賀丈史)。
 小野寺はコンクールのピアノ演奏者に合せることをしない。
 自分が指揮するオーケストラのクォリティについて来ることを要求する。
 ついて来れなければ、そのピアニストの実力はそれまでだ、と考える厳しい指揮者だ。
 …………………………………………………

 やはりコンペティションものは面白いな。
 今作では、4人が2次審査のカデンツァで自分をそう表現するか、
 3次審査で指揮者・小野寺の要求にどう応えるか、がドラマになる。
 果たして優勝するのは誰か?

 だが、この作品は誰が優勝するかはメインテーマではない。
 それは付随的なものでテーマは別にある。
 それは「4人のピアニストはどのような音楽を見出すか?」というテーマだ。

 彼らは「自分の音」を求めている。
 天才ではないサラリーマンの高島明石は地に足のついた「生活者の音」を。
 カルロスは揺るぎない「完璧な音」を。
 亜夜は「母の死によって失ってしまった自分の音」を。
 塵は「世界は音楽であふれていることを証明する音」を。
 果たして、彼らは自分の求めている音を演奏することができるのか?

 圧巻の作品だった!
 4人のピアニストたちの苦悩。それを乗り越えた時の素晴らしい演奏!
 4人が見出した音については映画本編を観て確かめてほしいが、
 3次審査で亜矢が演奏した「プロコフィエフのピアノ協奏曲の3番」などは音が飛び跳ねている♪
 プロコフィエフを離れて、「世界が音であふれていること」を実感できる。

 この作品を観ると、自分のまわりの音に耳を傾けたくなる。
 心を無にして、目を閉じて耳を傾けてみれば、きっと音楽が聴こえて来るはずだ。
 そう、世界は音楽であふれていて美しいのだ!


※映画予告編はこちら
 映画「蜜蜂と遠雷」予告編(YouTube)

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どうする家康 第14回「金ケ崎でどうする!」~走れ、阿月! 家康は信長と大喧嘩!

2023年04月17日 | 大河ドラマ・時代劇
 浅井長政(大貫勇輔)の裏切り。
 これを告げるために10里の道を走る阿月(伊東蒼)。
 家康(松本潤)は長政の裏切りを予測するが、信長(岡田准一)に一蹴。

 いいですね、このサスペンス。
 視聴者は阿月が間に合うか、ハラハラする。
 家康が言っていることが正しいのに、とヤキモキする。

 阿月の走りには回想が挿入される。
 子供時代のこと、父親に売られたこと、逃げ出して市(北川景子)に助けられたこと。
 市の下での幸せな日々。金平糖の思い出。
 走れ、阿月!
 市、田鶴、葉、糸など、この作品は魅力的な女性が多い。
 阿月には生きていてほしかったが、1回登場して退場するのが、今作の特徴のようだ。

 家康パートは信長との罵り合い。
 家康は長政の裏切りを進言して、
「逃げんか、阿呆、たわけ!」
 信長は長政を信じているので、
「愉快な戯れ言ではないな。わが弟は義の男じゃ」
 ふたりの会話はエスカレートして行き、
「義の男であるが故に裏切ることがあるかと」
「何が言いたい?」
「おぬしを信じられる者もおる!」
「お前もわしを信じられぬのか!?」
「お前の心のうちなどわかるものか!」

 上手いですね、このやりとり。
 長政の裏切りを描くだけでなく、
・信長が義昭(古田新太)を傀儡にして権力を持とうとしていること。
・信長の孤独。
・家康の信長への思い。
 も同時に描いた。

 それと、信長のことを敬遠している家康ですが、実は信長に心を寄せているんですね。
 でなければ「阿呆、たわけ!」と言えない。
 信長を信じ切れなくてもどかしいから「お前の心のうちなどわかるものか!」と叫んでしまう。

 走る阿月。
 口論する家康と信長。
 感情がぶつかり合い、溢れていていいドラマでした。

 そして秀吉(ムロツヨシ)。
 金ケ崎退却で殿を命じられて「死んでしまう!」と泣き叫ぶ。
 ここで家康が殿を務めなければ、今後、信長は家康を信じないだろう、と脅迫する。
 こんな秀吉に対し、家康は「クズじゃな、お前は……!」
 これに対し秀吉は「あなたのために言っているのじゃ」と反論。
 クズな秀吉と頭のいい秀吉を同時に描いている。

 この秀吉といい、前回の足利義昭といい、明智光秀(酒向芳)といい、
 この作品の悪役たちはゲスが徹底していて、ある意味、心地いい。
 そう言えば、今作の脚本・古沢良太さんはこういうクセのある人物を描くのが上手い脚本家さんだった。

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はあ……政治を考えると、ため息しか出ない。ていうかマトモに向き合うと頭がおかしくなる……

2023年04月15日 | 事件・出来事
 政治が虚しい。

・統一教会問題←どこへ行ったの?
・ガーシー問題←どうでもいいんだが。
・高市発言←結局、立ち消え。
      ウソを突き通せば最後はうやむやになる。
      安倍政治以来の悪弊。
・放送法解釈変更←高市発言で掘り下げられず。
         当事者のTVメディアは怒らない。
・小西洋之サル発言←不用意だった。
          これで放送法問題はうやむやに。
・異次元の少子化対策←子育て世代にバラまくだけでは効果があるとは思えないのだが。
           これが恒久的におこなわれる保証はないし。
           財源は社会保障費をUPさせるらしい。
・軍事費倍増←それでいて食料自給率・エネルギー自給率をあげる政策はないらしい。
       いくらご立派な兵器があっても食料・エネルギーがなければ負けるぞ。
       核シェルターをつくる気もないらしい。
・原発回帰←これで再生エネルギー後進国に。
      3・11を忘れたのか? 巨大地震が起こったらどうする?
      核廃棄物はどうする? 北海道は断ったぞ。
・低投票率←結果、組織票を持っている自民党が一定数を確保する。
      利権政治は変わらない。
・物価高騰←税金を下げるという発想はないらしい。

 はあ……ため息しか出ない。
 ていうか、これらとマトモに向き合ってたら頭がおかしくなる。
 テレビをつければ、いまだに大谷サーン!
 Jアラートが鳴っても、いつものこと、と日常化。

 はあ……やはりため息しか出ない。
 30年後、50年後を構想できる政治家はいないのか?
 その象徴が「少子化」であり「20年以上続く経済の低迷」なんだよな……。

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「星を継ぐもの」 J.P.ホーガン~SF作家の壮大な空想力! 第5惑星が消滅して解き放たれた衛星が月になった!

2023年04月13日 | 小説
 SF作家の想像力というのは果てしない。

 J.P.ホーガンの『星を継ぐもの』
 この作品の前半では、月がどのように出来たのかが描かれている。

 月の誕生に関しては3つ学説がある。
①誕生時の地球に巨大な天体が衝突して、その残塊から生まれた。
②地球の誕生時に分離した~いわゆる兄弟星説。
③飛来した星が地球の引力に取り込まれて月になった。

 現在の研究では①が有力だとされている。
 しかし、J.P.ホーガンは③の説を採用して壮大なSF小説を書いた。

 ご存じのように太陽系の天体の配列はこうだ。
 太陽→水星→金星→地球→火星→小惑星群(アステロイドベルト)→木星→土星……

 ホーガンは、小惑星群(アステロイドベルト)は実は太陽系の第5惑星だった、と空想する。
 戦争が起こり、第5惑星は小型ブラックホールの兵器で粉々に砕かれたのだ。
 第5惑星には衛星があり、引力から解き放たれた衛星は地球に飛来。
 地球の引力に取り込まれて「月」になった。

 楽しいな、こういう空想は!
 ……………………………………………………………

 SF作家はさらに空想を膨らませる。

「月」がない時の地球はどのような状態だったか?
 地球の自転は現在の3倍で、1日は8時間。
 3倍のスピードで自転しているので、狂風が吹き荒れている。
 重力は遠心力が働いて現在の1/3。

 こんな状況下、生物が海からあがって来るのは大変だっただろう。
 それでも何とか陸上にあがってきた生物が進化して「恐竜」になった。
 恐竜が重いのは狂風に吹き飛ばされないため。
 重力が1/3なので体重が重くても問題がない。
 恐竜は長い首と尾を風向きに合せて舵を取る帆船のように使い、移動していた。
 あるいはトリケラトプス。首の襟巻で風を受ければ速く走れる。

 

 ところが第5惑星の衛星が飛来して月になった。
 月の引力が、上げ潮、引き潮などの潮汐を生み出した。
 結果、海の摩擦が生まれ、地球の自転速度は遅くなり、1日24時間になった。
 自転速度が遅くなったので狂風も収まった。
 結果、人類の祖先が生存しやすい環境が生まれた。
 途中、隕石が落ちて氷河期が起こり、恐竜は滅びたが、人類は何とか凌ぎ、
 南アフリカの洞窟に住んでいた約1000人のクロマニョン人が人類の祖先になった。

 以上をチャットGTPに箇条書きでまとめてもらうと
①地球は月ができる前に、1日が8時間で自転速度が3倍速であり、狂風が吹き荒れていた。
②狂風のせいで生物が陸上に上がることは困難であったが、恐竜は長い首と尾を進化させ、重い体重で飛ばされないように対策した。
③しかし、月ができたことで潮汐が生まれ、地球の自転速度は遅くなり、1日が24時間になった。
 自転速度が遅くなることで狂風が収まり、人類の祖先が生存しやすい環境が生まれた。
④氷河期などの影響があったが、南アフリカの洞窟に住んでいた約1000人のクロマニョン人が人類の祖先となった。

 これがSF作家の空想力の凄さだ。
 第5惑星の消滅から始まって、月の誕生、恐竜や人類の歴史を見事に描いている。
 しかも、ホーガンの空想はここで留まらない。
 第5惑星の文明発生の理由、高度な知性と知能をもった宇宙人とのファーストコンタクトなど、空想がどんどん拡がっていく。
 その空想の規模たるや数100万年単位。

 10年、50年単位で、ああだこうだと言っている自分が小さく思える。
 
コメント (4)
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