電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

柿の皮をむく小刀〜世代をこえて使われて

2023年11月17日 06時00分17秒 | 週末農業・定年農業
自宅で干し柿を作る作業は、柿の皮を剥く作業が淡々と続きます。300個の干し柿を作るなら、300個の柿の皮を剥かなければいけません。これまでは、妻と老母が日向に腰を下ろして作ってくれていましたが、母亡き後は私が参加する必要があります。そこで、今年から私も収穫だけでなく皮むきに挑戦しました。まずは道具を点検……なんだかえらく古い小刀が二本、ずいぶん長く砥いで使ってきたようで、刃が真っ直ぐではなくなっているもの(右)もあります。いくらなんでもこれはもう寿命だろうと判断していつもの「農家の店」に行ってみたら、ちゃんと売っていました。「小包丁:1,180円」、左の新品がそれです。

この小刀の形は台形をしていますが、これにはわけがあり、柿の皮をむくときにT字型の軸を切らないように、しかし緑色のヘタはできるだけ小さくなるようにする必要があります。台形の尖ったほうが軸を一周するようにしながら鈍角の刃の部分でヘタを切っていくのです。なるほど、そういう意味があるのか。やってみて初めてわかる皮むきのコツです。



しかし、一番古い小刀は誰が購入したものだろう? 誰と誰が使ってきたのだろう? 妻と老母の前の世代となると、全盲の祖母には無理でしょうし、30代で失明し全盲となった祖母を支えて生きた祖父だろうか。息子(父)は救援に入った広島で入市被曝し原爆症をかかえ、孫(私)はまだ小さい。手ぬぐいでほおかむりをした祖父が、背中を丸めながら柿の皮を剥いている状況を想像すると、なんだか涙が出そうになります。使い込まれた道具の向こうに、ずっと昔の家族の姿が見えるような気がします。

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