写真は京都東山、将軍塚から見る早春の空
長い冬が終わり、ようやく春。別れと出会いの季節。
人はずっと同じ場所にはいられない。楽しい時間は短く、行く手には困難と不安があるばかり…ずっと昔から人はそのように思い、それを乗り越えて年をとり、振り返って「悪くはなかった」と言えればそれが幸せ。
若い日の別れはきっと心の一里塚。何度でも後ろから心を照らし励ましてくれるような。。。
君の手は既に凍り尽くして居り
その心ゆらり他所にあり
もはや二月堂天も焦げよと松明の炎
見上げつつ何故君は泣く
雪のように火の粉が降る
お水取りに誘われて出かけたけれど、やっぱりこの人とは無理だわと女は心を決める。
男はその気配を察している。押し流すような人の群れ、降りかかる火の粉、火は人の押し殺していた情念を掻き立てる。
振り向くと女はいない。捜しても捜してもどこにもいない。
誰とも別れない人生なんてありえない。誰とも出会わない人生がないように。
遠い日の苦い苦い記憶。
どうしてあの日、もっと捜してくれなかったのだろう。あの瞬間まで私は待っていたのに。あなたが追って来ないと分かって私はようやく心を決めた、と女は思う。
あなたの心はいつも自分に向いてあり、私の中に自分と同じものを探し、それを愛しただけ。私は待って待って、疲れて疲れて。
あれから数え切れないほどの修二会が過ぎた。形が亡くなり、思いも消え、それでもいつかあの日に続く日を女は待っている。それもまた自己愛。愛された自分への愛。
このようにして人は多分歳をとり、思いを残しつつさらに年老いていくもの。